第154話:対破滅の不死鳥作戦
京・王族の住まう土地“王土”より北にある広めの台地
護国院は簡易的だが、ここに“対破滅の不死鳥作戦本部”を設置した。破滅の不死鳥復活から僅か5分。例によって現場の者達の行動は迅速そのものであった。和神らもここに移動していた。恐らく、不死鳥クラスとまともに対峙できる戦力は狗美たちしかいないからである。和神は今回こそ来る必要はなかったが、狗美たちが戦う以上、1人流界に帰ることなど出来なかった。陰美には無駄な,と揶揄されたが、他の4人には受け入れられた。
作戦本部が設置されて間もなく、隠密隊員が陰美の下に来た。あの破滅の不死鳥の前に散っていった者たちと同じ班に居て、報告のために離脱した隠密である。律儀に破滅の不死鳥についての報告を終えると、急ぎ班に戻ろうとしたが陰美はそれを制止した。彼らが全員散ったことは陰陽隊の探知班による生命反応確認で明らかになっていたからである。彼らが全員散ったことを告げると、隊員は深く落胆した様子であったため、陰美は隊員に暇を与え、他の隠密隊員を同行させ自宅へ帰らせた。
「大丈夫かな?」
「ええ、隠密部隊ですから。戦友の死などいつでも覚悟しておりますよ。姉様こそ、今回の戦いは、また死者が出ますよ。我々も例外ではなく。」
「わかってる。そうならないように、全力を尽くさないと、ね。」
姉妹が話しているところに、護国隊員が伝達に来た。
「ミネルヴァ様がお呼びです!」
作戦本部内
廃屋を術で改装した屋敷が作戦本部であった。物見役が櫓から見ている光景を術を通じて本部内に投影していた。本部には既に和神、狗美、ミネルヴァ、フウが集まっていた。投影されている風景には破滅の不死鳥の人間態である“白い男”が地上に降り立って周囲の森に出鱈目に不知火を放つ姿が映っている。陰美が訊く。
「不死鳥は何をしている?森を焼く気か?」
そこにミネルヴァが仮説を述べる。
「もしかすると、封印から解き放たれたばかりで全快ではないのかも知れません。ああして自身の能力を確認しているのでは?」
「だとしたら叩くなら今の内だな。全快になんてなられたら、ここの“新式・天帝結界”など一撃で消しかねない。」
陰美の言葉に皆が頷いた。
「殺せはしない、不死鳥であるが故にな。一度封印され、同じ手が通じない以上、封印もできないだろう。だが、何もしないわけには行かない。番である雌の不死鳥・“癒しの不死鳥”が到着するまで、奴を京に進行させないことを第一に迎え撃つ。無論、“癒しの不死鳥”が来る保証はないが、信じるしかあるまい。それしか道はない。」
おおまかではあるが作戦が決まった。 “癒しの不死鳥”が来るまで、とにかく足止め・時間稼ぎをすることである。
「行ってくる。」
「ああ。死なないようにね。」
「気を付けるよ。」
狗美は和神に別れの挨拶をしていた。そこにミネルヴァとフウがやって来た。
「私たちも挨拶、よろしいでしょうか?」
「あ、はい・・・。」
隠すようにしていたが、突然のことで和神は焦っていた。
「こうして正式に戦いに向かうのは初めてですからね。これまで毎回何だか滅茶苦茶で。」
「そうですね、今回も割とそうですけど・・・。」
「確かに・・・そうだ。」
4人の間に笑みが広がった。
「ふふ・・・行ってきますね、和神さん。」
「はい、帰ってきてください。」
「行って・・・くる。帰ったら・・・かっぷらーめん・・・食べる。」
「え・・・あ、はい。いつでも。」
こうして4人は破滅の不死鳥の下へと向かった。
「また、何も出来ない・・・。見送ることしか。豪族相手の時は少しだけ戦えたのに・・・。そう思っているのか?」
見送ったまま立ち尽くしている和神に陰美が声をかけた。
「陰美さん・・・今回は行かないんですか?」
「無論だ。私の実力では話にならん。足手纏いだ。・・・もどかしいものだ。肝心な時には姉様の傍に居られない。」
「・・・もともともめてたのに・・・。」
ん?,とキツい視線が返って来た。だがすぐに黄昏た目に戻る。
「まあ今回は3人も傍にいる。友人がな。それに私たちもただ見ているわけじゃない。・・・お前も手伝え、雑用くらいなら出来るだろ?」
和神は陰美に引っ張られて迎撃用の罠設置を手伝うことになった。陰美なりの気遣いだったのかも知れない,と後に思う和神であった。




