第152話:不死鳥
護国院陽明は話を続ける。
「“破滅の不死鳥”は封じられて尚、その力を溢れさせ、元々転生の洞窟に棲んでいた妖たちに自らの“気”のようなものを纏わせていたのだ。」
「妖たちを操っていたと・・・?」
娘・陽子が推論を述べるが、陽明はこれを否定する。
「否、流石の不死鳥でも封じられていてはそこまでのことは出来ない。だが、纏えば強くなる“気”を散布すれば妖は嬉々としてそれを纏う。中には“外へ出たがる”妖も出てくるだろう。さすれば洞窟の入り口を封じる大岩を動かそうとする。1体では動かせずとも複数体それが集まれば大岩も動かせよう。無論、大岩が動かされただけでは封印は解けぬが。」
「・・・復活の足掛かりにはなりますね・・・。」
「左様。されどそれだけに留まらず、不死鳥の“気”は封印の外に出ると収束する性質が確認されている。つまり、“気”を纏った者が何体も封印から外へ出て行けば、やがてそれは集まり、不死鳥の分身と呼べるまでの存在へと成り得る。そう、当時の研究者は結論付けた。」
「では、今回の豪族・傭兵殺しはその不死鳥の分身の仕業ということですか?」
陽子の問いに、陰美が答える。
「ええ、その可能性が高いと。」
「でも、転生の洞窟って今もあの大岩で封じられてるでしょう?どうして分身が出来るほど不死鳥の“気”外へ?」
この質問には陰陽隊長・難波が答えた。
「・・・先程、転生の洞窟へと続く別の洞穴が確認されました。どうやら先のメリディエス帝国の侵攻の際に生じた戦闘による地鳴りや“天帝結界”の消滅、疑似的ではありますが“守為ノ破道”の衝撃などによって環境が変化した模様です。」
「“守為ノ破道”が・・・?」
自分を責めようとしている陽子に陰美が急ぎフォローを入れる。
「あの場ではあの戦闘が最善策でした。姉様の所為ではありません。誰の所為と言うなら攻めてきたメリディエス帝国の所為でしょう。」
「その通りです。それに今、考えるべきは復活した“破滅の不死鳥”をどうするか,です。」
透き通るような聞き覚えのある声に皆が振り返る。司守の間の扉が開き、ミネルヴァとフウが入って来る。
「お早いお着きですな、ミネルヴァ殿。精霊殿もよくぞいらしてくれた。」
陽明が立ち上がり会釈する。
「急を要する事態ですから。それより、先の問題です。不死鳥とは即ち不死。殺せぬならば再び封じるしかないかと思いますが。」
「・・・実は殺傷する術は1つだけある。」
「!それはどういう方法でしょう・・・?」
「対を成すもう1羽の雌の不死鳥、“癒しの不死鳥”ならば可能だとされている。繁殖するのも互いでしか出来ないが、殺傷するのもまた互いにしか出来ないのだという。」
「では、もう1羽の不死鳥はどちらに?」
「解らぬ。ただ、故意に身を隠しているようだ。」
「何故です!自ら“破滅の不死鳥”の復活を危惧しながら、自身しか殺せぬことも知っておりましょうに!」
「・・・不死鳥は番で真価を発揮するといいます。“破滅”と“癒し”、“雄”と“雌”。互いが揃うことで完全な存在となる。“破滅の不死鳥”が封印されて間もなく“癒しの不死鳥”が姿を消したのは、自身が近くにいると“破滅の不死鳥”に力を与えてしまうことになってしまう,そう初代“妖王”に告げたと。」
「・・・“破滅の不死鳥”が復活するまで“癒しの不死鳥”は現れないわけですね。・・・では、今できることは・・・。」
ミネルヴァが思考を巡らせんとした瞬間であった。凄まじい衝撃と閃光が、護国院を襲った。




