第151話:不知火の予兆
豪族が逃げ去ってから2日後、和神と狗美は未だに京都・護国院にいた。流石にそろそろ邪魔に思われるのでは,と不安に思う和神であったが、陽子は普通に嬉しそうにしているし、陰美は何か裏がありそうな雰囲気でもう少し良いだろう?,などと引き留めてくるため、留まっていた。
そんな日々を送って迎えた今日、陰美の醸していた“裏がありそうな雰囲気”が明らかとなった。和神と狗美、陽子の3名は例によって護国院本殿・司守の間に呼び出された。司守の間には、少し高い位置にある護国院長の席に護国院長・陽明が居り、その前に護国隊長・城ケ崎、陰陽隊長・難波、そして隠密隊長である陰美がいた。
「よし、話を始めるぞ。」
和神ら3名が司守の間に入るなり、入って来た扉が閉じられた。
「陰美、なんなの?」
その場の重々しい空気に陽子が口を開く。その問いかけに陰美は答える。
「昨日、京の北にて豪族・大福福士とその護衛に就いていた傭兵5名の遺体が発見されたのです。」
「!!」
和神たち3名は驚く。一昨日追い返した奴らだが、死んだと聞くと不思議と同情心も湧いた。驚愕する3名を尻目に陰美は話を続ける。
「問題はその現場で見られた“白い炎”だ。」
「白い炎・・・妖界でも珍しいんですか?」
和神が訊ねる。陰美が答える。
「そうだ、妖界でも白い炎を使う者など1種族しかいない。」
ここで、護国院長・陽明が口を開く。
「・・・不死鳥である。」
「!」
狗美はきょとんとしているが和神と陽子は反応していた。人間である和神にとって不死鳥は童話や創作物の中に登場するその名の通り死なない鳥という認識が、妖である陽子にとって不死鳥は、太古の昔に存在したという伝説上の種族という認識がそれぞれあった。
陽明が言葉を続ける。
「不死鳥、その名の通り不死の鳥。この世、即ち妖界に鳥の概念をもたらした存在とも言われている原初の鳥類にして至高の存在だ。世界に存在する力、妖力・霊力・天力・魔力の全てを使い、加えて不死鳥しか扱えぬ唯一の力“不知火”を使うという。この不知火こそが白き炎とされているのだ。」
「“されている”・・・ということは、父様は見たことはないのですか?」
陽子が訊く。
「左様。何故なら不死鳥は番で1羽ずつしか存在せず、雄の不死鳥は太古の昔、護国院が設立するよりも前に世界を破壊しようとしたために封じられ、それと同時にもう1羽、雌の不死鳥は姿を消したのだ。以来、不死鳥は伝説上の存在として語られるだけの存在となったわけだ。だが、先日メリディエス帝国の侵攻が終結した際、私のもとに不死鳥の使いと名乗る者が訪ねてきて不死鳥からの伝言を伝えていったのだ。“破滅の不死鳥”が復活しようとしている,とな。」
「雄の不死鳥を“破滅の不死鳥”と呼称することを知っているのはその時代に生きた者か歴代の護国院長しかいない。信憑性は十分ある。」
陽明の言葉を陰美が補足した。陽明は頷き、話を続ける。
「・・・そして此度の白き炎。間違いなく“破滅の不死鳥”が封印を解かんとしていることは間違いなかろう。」
「待ってください、父様。封じられているのに、なぜ豪族と傭兵たちは“破滅の不死鳥”にやられたのです?姿を消した雌の不死鳥がやった可能性の方が高いのでは?」
陽子が訊ねた。陽明が答える。
「・・・お前たち、メリディエス帝国との戦争の前に“転生の洞窟”へ行ったろう。あそこには奥へ行く程に濃くなる異様な気と白い気を纏った妖どもが闊歩していただろう?」
「ええ、確かに。」
「あれは全て“転生の洞窟”に封印された“破滅の不死鳥”の為している所業なのだ。」
「!!“破滅の不死鳥”は“転生の洞窟”に封じられているのですか・・・!?」
この地を訪れた者は生まれ変わったように強くなる、或いは文字通り生まれ変わることになる。故に“転生の洞窟”。いつぞや陰美がそう解説していたことを狗美と陽子は思い返す。しかし、真実は違った。
いずれ甦るやも知れぬ不死鳥が封じられているが故、“転生の洞窟”・・・。
新章『破滅の不死鳥編』開始です!




