第150話:豪族と彼ら
第150話まで来ました!
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塀に10㎝ほど埋まっていた福士が再び地に足を着き、激昂する。
「ナメやがってクソがァ・・・!おい、殺れ!傭兵!全員たたんじまえ!!」
おいおい無茶言うなよ・・・,というのが獅子夜の正直な所であった。
(我羅無と真娑羅に何もさせず、感次と毒愚を一方的に制圧するような連中に加えて、伝説上の存在と思っていた得体の知れない“受け容れし者”まで相手取って何ができるってんだ?しかも今“受け容れし者”が放ったのは魔力だろ?その名前から察するに“受け容れし者”ってのは他者の持つ能力を受け容れられる人間のことを指している。つまり、今敵対しているこいつらのバックには魔界の住人もいるってことだ・・・。魔界の住人に豪族の権力なんざなんの意味もねェ。これ以上攻勢に出るのは地雷原に飛び込むようなモンだ。かと言ってこの豪族が退こうって言って大人しく引き下がるようなアタマをしてないことも明白だしなぁ・・・。)
獅子夜は悩んでいた。そこに、悩みを解決する一撃が福士の頭上から降り注いだ。
“陰撃”
黒い妖力の光線が福士を地面へと叩きつけた。その術者は和神たちの前に降り立った。狐の面に黒装束を纏った2人組の妖であった。その内、“陰撃”を放った方は半妖態化している。
「ふぅ、間に合った・・・というより助太刀は要らなかったか?」
「・・・和神、どうしてお前がこんな前にいる?」
「ああ、あの豪族と戦ってたから・・・少しだけだけど。・・・ごめん、危険なことしてて。」
「いや、傍にいなかった私の方こそ謝らないと・・・。」
“受け容れし者”らと親しげに話す2人組を見て獅子夜は完全に敗北を悟る。半妖態になっている妖狐は身のこなしが手練れ、もう1人はとにかく莫大な妖力を秘めているのが解ったからである。仮にここで自分が半妖態になったところで無意味。相手全員に半妖態になられたら終わりだろう。
「豪族さん・・・ここは退きましょう。こりゃ流石に勝てねェってのは、アンタでもわかるでしょう?」
「クッソがァァァ!お前ら全員覚悟しとけよ!父上に言って護国院ごと取り潰しにしてやっからなァ!」
福士の脅し文句が出たところで、それを跳ね返す声が護国院母屋の奥から聞こえた。
「ええ、是非お父上にお話になって下さい。」
陽子であった。
「おお!やっと見つけたぜ、デカパイ女!お前さえ・・・」
「自分がお見合いでフられた相手を傭兵とともに攫いに行ったら妖の女たちと人間の男に返り討ちにされて結局攫えませんでした、と。しっかり報告してくださいね?」
福士の言葉を遮って放たれた陽子の言葉は福士をより怒らせたが、同時にぐうの音も出ない現実であり、プライドの高い福士はそんな“恥辱”を口にすることすら出来はしなかった。
(あーあ、完っ全に相手さんのが何枚も上手だったな、こりゃ。)
獅子夜は武器をしまってポリポリと頭をかいていた。
「いいんですか?陽子さん。顔も見たくなかったのでは?」
「ええ、そうだったのですが・・・だんだんとわたしの手で、消し飛ばしたくなってきまして・・・。」
和神の肩にそっと左手を置き、右手を福士に向ける。
「何度でもいらして下さい。こんな歓迎でよろしければ。」
「クソ女が覚えとけやァァァ!!」
“陽撃”
白く輝く妖力の光線が福士を庭の塀諸共、遥か遠方へと吹き飛ばした。
「・・・ふぅ、なんだかスッとしました・・・。みなさん、ありがとうございました。」
陽子は流乃や珠、千明、千影1人ひとりに深々と頭を下げた。
「・・・やられましたね。」
その最中、狐の面を外しながら陰美が呟いた。自身の針で痺れていた毒愚も地面に埋まっていた感次も獅子夜も姿が無くなっている。最後に放った陽子の“陽撃”の閃光に乗じて撤退していたのである。
「一流の傭兵は引き際を弁えるもの・・・か。」
豪族と傭兵らは我羅無と真娑羅も合流し、確かに撤退していた。陽子の“陽撃”をモロに食らった福士であったが、実は福士の着ていた着物には守りの術が掛けられていたため、和神からもらった“陽撃”からずっと身体へのダメージは0に等しかったのである。
だが、彼らは翌日、拠点にしていた廃村近くの北の森にて惨殺死体として発見される。
白い炎とともに。
次回より新章突入です。
そして、『異界嬢の救済』そのものも終盤へと進んでゆきます。
どうかこれからも『異界嬢の救済』をよろしくお願い致します!!




