第148話:豪族と動揺
「人間風情が、妖の、しかも豪族に、何言っちゃってんの?チョーシ乗んなやァ!!」
“陽撃”
福士は右手を和神に向けて妖力の光線を放った。これに対し、和神も同じく右手を福士に向け、妖力の光線を放った。
“陽撃”
2つの光線はぶつかり合い、その場で弾け消えた。相殺された互いの攻撃であったが、福士にだけは動揺が広がっていた。
「は・・・?え・・・は?」
福士が動揺している間に和神は次の手を打つ。
“霊撃”
霊力を用いた“陽撃”。和神が使用した場合、その身に宿している霊力量が妖力量より低いため、威力は“陽撃”より劣るものの福士の動揺を大きくするのには最適であった。それどころか福士は動揺のあまり迎撃することが出来ず、“霊撃”の直撃を受けた。
護国院母屋・庭
千明・千影姉妹と獅子夜との激しい攻防が続いている。
“風群獅子”
獅子を象った風の弾丸が無数に姉妹へ押し寄せる。
“双生鎌鼬”
千明と千影は同時に小太刀を振り上げ、斬撃を飛ばす。2つの斬撃は互いを支え合って風の獅子どもを斬り裂いてゆき、やがて獅子夜のもとまで到達したが、獅子夜はこれを瞬時に斬り裂き打ち消した。
「ふっ・・・こんな戦闘は久方振りだ・・・。」
「そうですか、私たちは。」
「ここのところ割と戦っていますが・・・。」
両者が再び攻勢に転じようと試みた時、流乃に敗れた毒愚が母屋から障子をぶち抜いて飛び出してきた。例によって自分の麻痺針で全身が痺れていた。
「何やってんだ攫い屋・・・。」
呆れる獅子夜であったが、更に障子をぶち抜いて飛び出して来るものがあった。先に刃がついた長いワイヤーとそれの合間を華麗に舞うスーツ姿の女・・・感次と珠であった。ワイヤーは感次の長い袖から出された暗器であった。
「く・・・ちょこまかと・・・!」
「全く、無駄に家屋を壊して・・・損害賠償を請求しますよ?」
「ふん・・・生きていたらな!」
“渦中殺”
感次はワイヤーを渦を巻くように展開させる。その中心に獲物を捕らえて刃で斬り裂く技である。しかし、珠はワイヤーが渦を形成するよりも速く感次の懐へ飛び込んでいた。
“玉弐疵”
身体を回転させ、妖力を乗せた爪で瞬時に2回斬り裂く。
「くっ・・・!」
一瞬怯んだ感次へ珠はたたみかける。
“化猫観音・連撃殴打”
妖力で形成された化け猫の手を無数に出現させ、感次を繰り返し殴りつける。そして、完全に態勢を崩させたところで駄目押しの一発を見舞う。
“化猫観音・珠玉一撃”
感次の背を遥かに凌ぐ巨大な化け猫の手が感次を上空から叩きつけた。地鳴りがするほどの一撃で、感次は庭先の草花のように地面に埋まっていた。
「おいおい・・・マジかよ・・・。」
あっという間に獅子夜は1人取り残されようとしていた。
(幾ら時間稼ぎっつったって、こりゃマズいだろ・・・。つか毒愚も感次もここにいるんじゃ豪族さんはどうしたんだ?女攫えたのか?)
獅子夜がそうこう考えている内に、護国院母屋2階の壁を光線が貫いた。
「あれは・・・魔力か?・・・ん!?」
その光線と共に飛び出してきたものに獅子夜は驚く。何せ妖界に豪族に直接手を下す輩がいるなど考えたこともなかったからである。福士は庭の池に落下した。
「おいおい・・・お前ら正気かよ・・・豪族池に突き落とすって・・・。」
呟く獅子夜に千明と千影が言う。
「その前に光線で飲み込む方が・・・。」
「問題でしょう・・・。」
2階に空いた穴から外を覗き込んで和神が言う。
「逆上せ上がってたからな、丁度いいだろ。」




