第144話:豪族と傭兵
京都内
「さすがだ傭兵!京都守護妖の結界なんて大したことねーな!」
そう言ってはしゃぐ豪華な袴姿の男。この男こそが大福家の1人息子・大福福士である。容姿は眉目秀麗で某若手俳優2人を足して2で割ったような顔立ちに細身で175cmを超える長身の体つきをしているが、口調からも解るように軽薄そうな雰囲気が全身に漂っている。
「まだ油断は出来ませんよ。」
「いやいやもう余裕っしょ。褒美にヨメと1晩楽しませてやるよ。」
「はあ・・・。」
たてがみが伸びる獅子を象った兜に血を思わせる赤黒い色の和風の鎧を纏った、結界を潜り抜ける能力を持つ傭兵・獅子夜は内心福士の言動に呆れていた。
(まったく、京都守護妖の結界をすり抜けて女連れ去るだけで前金1億、成功報酬2億っつーから契約したが・・・こりゃ殆ど豪族の戯言に付き合うのが仕事じゃねーか?まあいい、金だけ受け取ったらさっさと消えよう・・・。それにしても、この結界は本当に京都守護妖のものか?監視者がいる時の特有の視線を感じないが・・・。)
「いやぁ、でもお前にも助かったわー傭兵!こっちに強そな気配がキテるっつってさぁ!探知っつーの?マジもっと金取った方がよくね?3億ぽっちで仕事受けるっつーからボンクラかと思ってたわ!」
「はぁ・・・。」
京の北にある傭兵を集めていた廃村から早めに作戦開始を提言したのは長い黒髪に腕よりも長い袖をした真っ黒な和服を着た傭兵・感次であった。探知能力に長けている感次は気配を消している陰美たちの気配に一早く勘付き、福士と精鋭だけを連れて廃村を後にしていたのである。残した凡庸な傭兵たちが見事に
囮の役目を果たしたのである。
そして感次もまた獅子夜と同じく福士の言動には呆れていた。その福士の話にまともに付き合っているのは“攫い屋”をしている毒愚だけであった。
「攫い屋!お前あれな、成功したらオレの寵花何人かやるよ。」
「へい!ありがてぇです!」(豪族の寵花っつー経歴だけで高値で売れるぜ、へっへっへ。)
馬鹿笑いしている福士とニタニタ笑っている毒愚にただただ早く仕事を終えたいと思う獅子夜と感次であった。
京の北の廃村
「くそ!こっちは囮だ、急ぎ戻らなくては!恐らく強力な傭兵どもは皆福士と一緒だ。」
軟弱な傭兵たちを全員縛り上げたところで陰美は焦っていた。
「ああ、和神も心配だ。」
狗美もそわそわしている。陰美は部下たちを廃村に残し、狗美と2人で京へ戻ろうとした。だが、そこへ静かに近付く者がいた。
護国院母屋・庭
千影が月を見上げている。流れる雲が次第に大きくなってゆき、月を隠さんとしている。千影は懐からゆっくりとクナイを取り出し、月に掲げる。その所作は覆う雲から月を守ろうとしているように見えた。しかし千影はその所作から予備動作なしで庭を囲う塀に向かってクナイを飛ばした。カキンッ,とクナイは虚空で金属音を伴って弾かれた。クナイが当たった虚空が揺らぎ、金属音の正体が姿を現した。
「よくわかったなァ。ただの奉公娘ではないとは思ったが・・・。」
「獅子の兜・褐色の鎧、“紅蓮獅子の獅子夜”か。」
「ほう、俺を知っているとは・・・お前、護国院なんかに仕えてていい素性か?」
獅子夜の話を遮るように千影は自身の左方向にある池の方にクナイを飛ばした。キンッ,と刀で弾かれたような音がした。
「豪族の、これ以上は隠れられません。」
「だったらその女縛り上げろ!なかなかカワイイから寵花にするー!」
虚空が揺らぎ、感次、毒愚、そして大福福士が姿を現した。




