第143話:寵花と大福福士の為人
「女性を連れてきました。」
珠の口から陽子との見合いの席での大福福士の行動、為人が語られ始めた。珠は陽子の側近であるため、見合いの席にも同行していたのである。無論、見合いが始まる際には隣の部屋に控えてはいたが。
「女性ですか?お見合いに?」
「ええ。それも4名ほど。福士殿が入室していらっしゃるまでは私も部屋に居りましたので。私が部屋を出る際も彼女たちはずっと福士殿にべったりと寄り添ってらっしゃいました。」
「えぇー。」
和神は退いた。見合いの席に親族以外の人間を同席させることさえどうかいう所に“女性を4人”とは、常識の違い(無さ)を感じざるを得なかった。
「彼女たちは恐らく“寵花”と呼ばれる者たちでしょう。」
「ちょうか、ですか?」
「豪族に金銭などの借りを作り、その返済ができない家が娘か息子を豪族に奉公に出す。その奉公人のことを“寵花”と呼びます。豪族に慈しまれる花のような存在、“寵花”。実際に豪族のために働いて借金分の働きをして家に帰されたり、或いはそのまま働き口として豪族に仕え続けたりする者もいるようですが、“寵花”の多くは豪族の奴隷のように扱われ、その一生を“寵花”で終えると聞きます。正しく枯れるまで愛でられ続けるわけです。」
「・・・じゃあ、その4名の女性も?」
「恐らく大福家は後者の豪族ですので、きっと福士殿の好きなように扱われているでしょう。それでも福士殿に嫌われれば自分の家族に被害が及んでしまいますから、耐え続けるしかないのでしょうね。私は直接見てはいませんが、陽子様のお話ではずっとその女性たちをまさぐっていて、見合いの話は殆ど母君がなさっていたとか。」
「・・・そこに、陽子さんは嫁ぐ予定だったんですね・・・。」
和神この時ようやくあの時の陽子の心情を知った気がした。陽子も嫁げばきっとその“寵花”と同じような扱いを受けていただろう。恐らく親もそれを当然のことのように思っているような連中で、仮に陽子自身が酷い目に合わなくても、その“寵花”が酷い仕打ちを受けている様を陽子が黙認できるわけがない。かと言って下手な真似をすれば豪族の権力を持って護国院自体が危うい。陽子の心情は察するに余りあった。きっと逃げ出すのにも想像を絶する覚悟をしていたのであろう・・・。
そしてそれは陽子を追って来ていた陰美にも言えること。最近の陽子と陰美の様子を見ていると仲が悪いようには見えない。恐らく陰美も自分と陽子の立場や格式・慣習というものの狭間で葛藤し、陽子とも上手く察することが出来ていなかったのであろうが、心の奥底では姉を想っていたに違いない。
和神は、彼女たちの思いの重さを思い知った。同時に、陽子に協力した過去の自分を称えていた。
「ですので、ありがとうございました。」
珠が唐突に礼を述べた。
「陽子様を救えるのはあなた方のような部外者だけでした。なので、感謝しております。」
「そんな・・・でも、豪族との縁談を破談にしてしまって良かったんですか?なんだか後が恐いような・・・。」
「ふふ、高慢で尊大な豪族が自分がフラれた話を公にすると思いますか?」
「あぁ~。」
立場が高いが故の弱点であった。
「小さな家なら力ずくで潰すことも出来ましょうが、護国院などという大きな“機関”を潰すということはそれだけ理由を詮索されますからね。普通は有耶無耶にしておくものですが、大福家はそれだけ高慢だということでしょう。」
傭兵の集う廃村
「妙だな。」
陰美がそう呟く。その視線の先には傭兵30名余りが捕らえられていた。
「五重塔にいたのも惰弱な傭兵だった・・・。福士の姿もない・・・。」
暗雲が、月を隠そうとしていた。




