第141話:奇襲作戦班と居残り班
夜。護国院本殿の北。
「では、これより野盗に見せかけての大福家への奇襲作戦を実行する。」
「ハッ!」
陰美の号令に応じる隠密部隊の精鋭5名。陰美含め全員がザ・忍者的な黒装束に身を包んでいた。
「なんでこの服装なんだ?野盗だろ?」
「む。何だ文句か狗美。」
「野盗はもっとボロい毛皮とか着てるぞ。こんな仕立ての良い“忍装束”なんてそれこそ忍者しか着てないんじゃないか?」
「印象の問題だ。豪族というのは世俗とは離れているのだ。故に彼らが野盗に持っている印象は忍者とそんなに変わらないのだ。」
そういうものか,と狗美は渋々納得した。
一方、護国院本殿・陽子の部屋
「はい、あがり~!流乃さんの負け~。」
「くっ・・・!」
悔しさに顔をしかめながら中指でクイッと眼鏡を直すのは陽子に歴史を教えていた先生・流乃である。陽子と和神と珠、そして流乃を加えた4名は“猫回し”という流界で言うババ抜きをしていた。
何故“猫回し”と呼ばれているかというと、そもそも使っているカードがトランプではなく日本妖界で古くから遊戯に使われている“干支四季札”というものだからである。干支の絵が描かれた札がトランプで言うスペードやダイヤの代わりに四季で4種類ずつあり、干支に入り損ねた猫の札が1枚ジョーカーとして存在する49枚で1セットの札である。49枚という枚数は完成すれば崩れていくだけという考えのもと、あえてキリを悪くして完成させないことで永遠の繁栄のげんを担いでいるらしい。
「もう1回、もう1回」と陽子は札を集め、切り始める。かれこれ流乃の5連敗中である。
「意外です。流乃さんはこういう遊戯はお得意かと。」
次々と配られていく札を眺めながらしみじみと珠が言う。
「・・・苦手です。幼少の頃から勉学も体技も出来るのですが、遊戯となるとてんで駄目で・・・。」
配られた札を取りながら流乃は回顧した。
「外でする遊びもですか?」
流れでそれとなく和神も訊いてみた。
「ええ・・・。蹴鞠や独楽回しも羽子板や隠れん坊まで駄目で・・・。」
「かくれんぼが苦手ってどういう事なんですか・・・?」
「1番に見つかってしまうのです。鬼の時は1人2人見つけるので精一杯でした。」
「流乃さんはカタくて余計なことまで考えてしまっているんですよ。」
札を配り終え、手札を見ながら陽子が分析した。
このとき和神は、自然と会話に入ることが出来たことに安心していた。なにぶん女性との関わりが希薄なため、女性3人プラス自分などという通常男子ならばラッキーイベントと捉えるようなシチュエーションでも和神の心は緊張と不安で満たされていた。
「というか、いいのでしょうか?“猫回し”などしていて。」
揃った札を4名の中央に置きながら珠が言う。
「じゃあ七並べにする?」
「そうではなくて。一応、警戒態勢の中にあって遊んでいて良いのかということですよ。」
「確かに。」
珠の懸念に流乃も同調する。
「流乃さん勝てないからやめたいだけでしょう?2人とも千明と千影を信じてないの?」
「そうではありませんが・・・。」
陽子の言葉に2人は口籠る。
「神経を張り詰めていたっていざという時に疲れていては意味がありません。それよりこうして息抜きして構えていた方が得策というものです。それにここへ賊が来るのは陰美たちが失態を演じた時のみです。もし失態がなかったらただ緊張して構えているのはもったいないではないですか。折角わたしの大好きな方々が集まっているというのに。」
陽子の発言に他の3名ともが内心照れた。3名ともにそんな素振りや表情は見せなかったが、心臓の鼓動は通常の3倍かというほどに加速していた。
「はい、わたしのあがり。」
「これ、陽子様配る時にイカサマしてません?」
「してませんっ!」




