第140話:天帝結界と新式・天帝結界
「父上や天ヶ崎殿も部外者には言うなと仰ったが、私はお前たちには知っておいてもらいたいと思う。」
陽子の部屋に集まっていた和神、狗美に陰美はそう切り出した。隣に座る陽子も頷いている。
「京都守護妖・霊漸様のことだが、実は先のメリディエス帝国との戦いにて逝去なされた。」
和神と狗美はこの事実を知らなかった。陽子が“守為ノ破道”を放った瞬間に大きな意志のような人型は確かに目撃していたのだが、なにぶん2人は霊漸の容姿を知らないため、それで霊漸の死を悟ることは出来なかったのである。これは和神と狗美に限った事ではなく、京に住まう妖の殆どは霊漸の姿を見たことがない。1000年近く前から“守護の社”に入って表に出ないのだから、これは当然のことだと言える。
「だが、先日の葬儀では霊漸様を弔ってはいない。正確には霊漸様の死を民には告げていない。理由は単純なことだが、京都守護妖が亡くなったと知れば良からぬことを企む輩がいないとは言い切れないため。そしてそれともう1つ、これが最重要機密なのだが。」
陰美は最重要機密を自分の意思で部外者に告げることに一瞬言い淀んだが、そのまま続けた。
「霊漸様亡き現在、京に張られている結界は姉様が考案した“新式・天帝結界”なのだ。そしてこの結界には京都守護妖に代々伝えられる“天帝結界”とは大きな違いが2つある。1つは“天帝結界”が1人で張るのに対し、“新式・天帝結界”は複数人で分担して張ることが可能であること。そしてもう1つは監視の機能がないということだ。京都守護妖1人が京全体のあらゆる事象を把握している分には問題ないが、複数人の者が“それ”を知るというのはよろしくない,ということで姉様が意図的に術式に組み込まなかったのだ。これは確かに賢明な措置であるのだが、言わずもがな、これによって京の守りには隙が生じているわけだ。」
和神と狗美もこれは流石に理解した。つまり常時作動していた“死角のない監視カメラ”が無くなったということであり、これを知れば確かに良からぬことを企む者が出てもおかしくない。
「京の治安を維持できる組織か部隊が設立されるまでは霊漸様の死は伏せておかねばならないのだ。分かったな?」
頷く和神と狗美。
「そしてここからは大福家の件になるが、霊漸様の死は豪族にも報せていない。要するに大福家は京に入った瞬間、監視下に晒されると思っている。よって考えられる大福家の策は、戦力を結集してから一気に護国院へと攻め入る,ということだ。斥候の報告では戦力結集までにはまだ時を要するとのこと。そのため、今のうちに大福家の集まっている廃村を叩く。もしも取りこぼした者が強引に京へ入り姉様を襲うということも十分に考えられる。その時は“天帝結界”の監視がないため、物理的に警護するしかない。ということで・・・。」
陰美が部屋の襖の方へ目配せをすると襖を開けて陽子の側近の珠と千明・千影姉妹が顔を覗かせた。
「警護の都合上、お前も姉様と同じこの部屋にいてもらうぞ、和神。」
「え、あ、はい・・・。」
突然の決定事項に少し驚く和神。陽子は楽しげに微笑む。
「ふふ、よろしくお願いしますね、和神さん。」
そんな姉を見て陰美が珠に命を下す。
「・・・珠は室内に常駐してくれ。」
「はい。」




