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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第2章:京都守護妖 編
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第14話:告白

「狗美さんはどうして和神さんのお隣で暮らしているのですか?」

 ベッドで横になった陽子が尋ねる。

「どうして・・・か。」

 王狼院に狙われて妖界あやかしかいに戻るのは危険だから住まわせてもらっている,と言うわけにはいかない。かといって、適当な嘘がつけるほど狗美は口達者ではなかった。そのため、本当のことを語った。本当の、想いを。

「実は、家出途中で厄介な連中に絡まれて、ずっと追われてこのアパートまで逃げてきたんだ。」

「厄介な連中?」

「ゴロツキみたいな、ヤクザみたいなモンだ。戦えば勝てたかも知れんが、数が多くてな。それで、逃げてる途中で流界に入ってゴロツキを撒けたのはいいんだが、疾走する鉄塊・車に撥ねられてしまったんだ。それで疲労困憊になった私は偶然、和神の部屋の前で倒れ込んでそのまま眠ってしまった。それから和神と知り合って、何だかんだ面倒見てもらって。」

 陽子はベッドから顔を出して興味津々に聴いている。

「・・・陽子、笑わないで聴いてくれよ?」

「はい?」

「私は、自分の犬神の能力を抑えられないんだ。満月の夜になると、私の中の犬神が暴走するんだ。満月の夜だけだから、今日は大丈夫だがな。」

「笑いませんよ。膨大な妖力を有するあやかしには間々あることです。」

「・・・それで暴走した私は和神に喰らいついてしまったんだ。だが、あいつは私の暴走する犬神の妖力を吸い取って、鎮めてくれたんだ。」

「“受け容れし者”の能力ですね?」

「今思えばそうだな。だが、あの時は私も和神自身もそんな能力ちからには気付いてなかった。翌朝、和神の部屋は和神あいつの血に塗れていた。あの出血じゃ下手をすれば死んでいた。なのに和神は私を咎めもせず、怒りも恐れもしていない様だった。その後、私が妖だと告げても変わりはなかった。・・・正直嬉しかったよ、私の中の犬神も含めて私自身の全てが“受け容れられた”ようで。・・・あ。」

 自分で放った言葉にハッとする狗美。

「“受け容れられた”んですよ、きっと。」

「そうだな。・・・その後もそうだ。私が正体を明かした後、ゴロツキに追われていたことも伝えて、だから長居すると迷惑がかかるとも言ったんだが、和神は1人より2人の方がいいって聞かずに、結局一緒に行動することになったんだ。そしたら、ゴロツキが流界にまで追って来ていたんだ。」

「しつこいですね!」

 陽子がムッとして言う。

「ああ、全くな。それでどうにか逃げて来たんだが、流石にもう一緒にいるのは危ないからって和神を置いて私だけ妖界に帰ろうとしたら・・・。」

「したら・・・?」

「『危険な場所に飛び込むって言う女性ひとを黙って見送れるほど、俺は落ちぶれてない!』ってさ。」

「まあ。」

 陽子が両手を口に当てる仕草をする。

「驚いたよ。陽子も少しは分かるだろうけど、あいつ普段はあんなにおっとりのんびり喋るのくせに。・・・思ったよ、大切に想われてるのかな?って。その時はそんなこと考えてる余裕なかったけど、時間が経つに連れて・・・。」

「惚れた、と?」

「そこまでじゃないけど・・・いや、それ以上なのかも知れない。ゴロツキの残党がしつこく攻めてくるかも知れないからとか、犬神の暴走を抑えるためとかって名目にはしてるけど、私は多分、和神から離れたくないと思ってるから。恋人とか友達とか、そんな肩書きはどうでもいい。ただ、そばに居たいんだよ。もしかすると、あいつが“受け容れし者”だからかもしれないけど、それが和神なんだから、それでもいい。」

 狗美の直線的な想いに陽子は不思議な感覚に陥っていた。嬉しいわけでも悲しいわけでもないのに目に涙が溜まり、胸の奥が熱く暑く、締め付けられるような感覚。それが、和神と狗美に素性を隠匿している罪悪感から来ているものなのか、初めて聴く生の男女間の機微への興味と興奮から来るものなのかは分からないが、このとき陽子はある決意を固めた。

「和神さまも、同じきもちだと良いですね。」

「ああ。・・・さぁ、もう寝よう。」

「はい。」

 ベッドに仰向けになりで眠りに入る陽子。

(ただ傍に居たい、か。わたしもそうだ。ただ、たまや流乃さんや護国院の屋敷のみんなと一緒に居たいだけだったんだ。友達とか、上下関係とか、九尾とか関係なく、ただただ傍に居られればそれでいい。もっと早く気付けていたら・・・いや、今からでも遅くない。いずれにしても“あの2つ”だけは何とかしないと、本当にただ傍に居ることもできなくなっちゃうから!!)


 翌朝、和神の部屋にて朝食後、陽子は2人に真実を告げる。この日、陽子が前日と明らかに何かが違うことに和神も狗美も気付いていた。何か芯の通ったような覚悟を決めたような瞳をしていたからである。

「わたしは、ただの“妖狐”ではありません。その9倍の妖力と僅かな霊力を内包する“九尾”です。また、ただの陽子ではありません。姓を護国院といいます。わたしは京都・護国院家の令嬢であり“京都守護妖候補きょうとしゅごあやかしこうほ”護国院陽子と申します!」

 この告白を聞いた和神と狗美は同時に口を開いた。

「“きょうとしゅごあやかしこうほ”って何?」

「えっ!?」

 陽子は目を丸くし言葉を失った。


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