第137話:式典
「あ、さっきごめんなさい。勝手に“ともだち”とか言ってしまって・・・。」
池のほとりでの会話のあと、和神とともに護国院母屋の廊下を歩く陽子がそんなことを言ってきたので和神は思わず聞き返す。
「え?」
「和神さんにとってはわたしはただ助けた人の1人に過ぎませんよね。わたし、勝手に・・・。」
「いえ、友達でいいですよ。むしろ友達だと思われてて嬉しいですよ。」
和神は割と必死に否定し、気持ちを伝えた。
「それならよかったです。」
にこにこの陽子。それを見て和神も頬が緩む。
「・・・楽しそうだな・・・。」
庭先から狗美がジーっと見ていた。
「狗美さん!ちょうどよかったです!」
内心少し修羅場感を感じていた和神とは対照的にあっけらかんとしている陽子。肝が据わっている・・・というより、“そういう事”に対しては疎いみたいだ,と和神は1人思う。
「丁度良かった?・・・水を差したかと思ったが。」
「?狗美さんも着付けに行きましょう!今日の式典にその服装ではけしからん・・・みたいなことを陰美が言ってましたので。」
式典。京を危機から救った功労者全員を称えると同時に、特に目立った働きをした“護国院の外の者”である和神と狗美に特別な褒章が与えられることになっていた。陽子と陰美は護国院内部の者のため、言うなれば京を護って当然の者であるためこれに該当せず、ミネルヴァとフウは護国院よりも立場が上のため、上の者に“与える”ということをするわけには行かないため該当せず、サラとテラコッタは魔族のため問答無用で該当しなかった。
昼頃。
式典は護国院本殿・司守の間で催され、外部の者は立ち入れない状況で行われた。京を護るのに人間や素性の知れない妖の手を借りた,という事実は護国院上層部としては隠したいという思惑があった。陽子やミネルヴァが異議を申し立てようとしていたが、和神が「目立つの嫌だからいいですよ・・・?」と言ったことで式典は予定通り執り行われた。
この式典にて、和神は結婚するのかと言わんばかりの紋付き袴を着せられ、狗美も着物を着させられていた。珍しい狗美の着物姿を見られたのは良かったと思う和神であったが、狗美はずっと落ち着かない様子であった。
護国院特別功労賞、それが和神と狗美が授与された賞の名であった。副賞としてまたも見たことのない宝石と金一封(5000万円)をそれぞれ貰った。バイトを辞めるハメになってしまった和神であったが、取り敢えず生活には困らなそうである。
魔界・オリエンス王国
「・・・というのが今回の一件です。」
サラは跪いて今回の戦争についての報告を済ませた。
「ご苦労様です、サキュバスNo.777。報告の内容はサタン様に伝えておきます。」
サタンはここ数日城を空けていた。そのため、報告は秘書の女性魔人に告げた。加えてサラはおずおずと要望を申し出た。
「あと、出来れば・・・なんですけどぉ。」
「?何か?」
「私への魔力供給量を上げてもらえないかなぁ~なんて・・・。」
「?何故です?貴女には“戦闘型サキュバス”として十分な魔力が割り当てられているはずですが?」
「いや、それが今回の戦いでは少し足りなかったというか、火力不足だったというか・・・。」
サラの申し出に凄まじく眉間にシワを寄せる秘書。しばらくの沈黙の後、口を開く。
「・・・貴女は一介のサキュバス、軍曹のようなものに過ぎない・・・ですが“受け容れし者”に付いている貴女の要望はなるべく聞き届けるようサタン様からも仰せつかっておりますゆえ、その旨はサタン様にお伝えしておきましょう。」
「!わーい、あざーっス!」
「・・・その口調はやめなさい。」




