第133話:最期の策
アダマス元帥の体内に流入した天力がアダマス元帥自身の魔力とぶつかり合い、暴走を始めていた。最後の“道連れ”という策も徒労に終わり身動きも取れない今、最早アダマス元帥に残された道はない。
「ぐおおおおおおおおおおあああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
アダマス元帥の魔獣のような雄叫びが一帯にこだまする。
「あのままでは和神様が!」
ミネルヴァの危惧した通り、アダマス元帥は和神の30㎝前で爆死しようとしている。その爆発の規模は分からないが、その距離では和神が被害を受ける、爆発に飲み込まれる可能性は99%を超えていた。
“春零番”
突風が吹いた。和神とアダマス元帥の間、アダマス元帥が持つ和神に突き刺さる2本の魔剣の間に現れたフウが巻き起こしたのである。この異常気象的突風により、アダマス元帥は和神から100m以上吹き飛ばされた。そして・・・。
「おのれ“受け容れし者”オオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
アダマス元帥は凄まじい閃光と轟音と衝撃を生じさせながら爆死した。その爆発の衝撃は100m以上離れた和神のいる場所にまで届くものであったが、爆発の瞬間に狗美が庇うように和神を包み、フウも爆発に対して大気の壁を発生させた為、和神がその衝撃を直に受けることは避けられた。
「えっ・・・。」
フウがそんな声を漏らした。爆発の轟音でその声は掻き消されていたが、和神は目の前で口から血を流す狗美を見て視線を下ろす。魔剣が、狗美の腹部に突き刺さっていた。正確には背中から刺さり、腹へと貫通していたのである。
アダマス元帥は最後の策こそ尽きていたが、“最期”の策は未だ用意していたのである。自身が爆死する直前に金縛りで動かない腕を和神の方に向けておき、あとは爆発の衝撃に乗った魔剣が勝手に飛んでいくという寸法。爆発は魔力を発生させる器官がある体の中心から起こることを察したアダマス元帥は一瞬爆発が遅れる手の先に最期の報復心を懸けたのであった。1本の魔剣は爆発に巻き込まれて砕け散ってしまったが、もう1本の魔剣は見事弾丸のように高速で飛来し、フウの大気の壁をも貫通し、フウの身体も貫通したが、狗美の身体を貫通しようとしたところで狗美が瞬間的に腹筋に妖力と力を込めた為に、その威力は殺されたのだった。
「狗美・・・!」
「ぐっ・・・大丈夫だ。それより、お前の傷を治さないと・・・。」
和神は自身が死にかけていることも忘れて狗美に妖力を送ろうとしていた。狗美もまた、自身に魔剣が刺さっていることには目もくれず、和神に妖力を送ろうとしていた。程なくして爆発の衝撃が収まると、周囲にいた皆が和神と狗美に起こっている事態を把握し、駆け寄る。そして狗美に刺さった魔剣を引き抜き、皆で2人に各々の力を送った。妖力を持つ陽子と陰美は狗美に、霊力と天力、魔力を持つフウ、ミネルヴァ、サラ、テラコッタは和神に。ミネルヴァとサラ、テラコッタは互いの力が当たらないように慎重に・・・。
3日後。
護国院母屋
襖を開け、朝靄の中に微かに見える池を眺める。美しい女性の肌が見えるような、しかしその脚は魚のような。しっかりと確認する前に、声をかけられた。
「ダメですよ、そんなにジロジロ見ちゃ。」
陽子である。その声に気付いたのか、池に何かが飛び込む音が聞こえた。
「あの池には時々いらっしゃるんですよ人魚さん。でも警戒心が強いので、特に人間には。今度、ちゃんと紹介して差し上げますね。和神翔理さんですよーって。」
皆に輸血ならぬ“輸力”をされた和神は、一度に多くの力を受け容れたのと戦いの疲れと傷とで気を失い、3日間眠り続けていたのであった。
「大変でしたよ、狗美さん。ご自身も疲弊してらしたのに、和神さんの事ばかり気にして。」
「狗美、無事なんですね?」
「もちろん。あんな傷では死にませんよ、妖は。」
ほっ,と、胸を撫で下ろした。




