第129話:狗美VSアダマス元帥
サラへの奇襲、2撃目がサラの体を斬り裂いた瞬間、テラコッタがアダマス元帥へ飛び掛かる。しかし、アダマス元帥は素早くテラコッタに2太刀を浴びせて迎撃し移動。霊漸との憑依と“守為ノ破道”を使ったことによる疲労で動けないでいる陽子にその切っ先を向けた。
“大気防壁”
陽子の近くにいたフウが大気の壁を作り出し、アダマス元帥の斬撃は止められた。だが、アダマス元帥は幾度も剣を振るい、大気の壁を壊さんとしている。大気の壁がアダマス元帥の剣を受ける度、フウの存在が一瞬希薄になるのを陽子は感じていた。
「フウさん、あの・・・。」
「気に・・・しない・・・。世界の大気が、少し不安定になるだけ・・・。」
“存在”を削りながら防御するフウに目にも止まらぬ速さの斬撃を加え続けるアダマス元帥であったが、ここで邪魔が入る。その気配に感づいたアダマス元帥は振り向きざまに一閃を放つが、気配の主はこれを斬撃で防いだ。爪による斬撃によって。
「ふん、貴様か。いや、貴様しか居らぬか、妖。そこの巫女は力を使い果たし、精霊もその存在を維持するのがやっと。先刻も私と見えたスーツの女は傷の蓄積が大きく、エルフもかなり消耗していると見える。魔物は腕を飛ばし、体を斬った・・・いや、それ以前に既にだいぶ消耗していた様だがな。オリンポスマーメイドも同じく・・・。残ったのは貴様と“受け容れし者”の2名のみだ。そしてあの“受け容れし者”は未だ覚醒しておらぬと見える。つまりはただの人間。」
アダマス元帥は目の前に立つ狗美に魔剣を向ける。
「貴様を討てば、あとはどうとでもできるというわけだよ、妖女。」
「私を討てたら、な。」
アダマス元帥は高速で狗美に斬りかかった。だが狗美はその太刀を回避し剣戟の合間を縫ってアダマス元帥の顔面に蹴りを入れた。
「ぐぬっ!?」
思わぬ反撃に態勢を崩すアダマス元帥だが、すぐに攻撃を続行する。超高速の魔剣の乱舞に対し、狗美は魔力を纏った爪の斬撃で受け流したり、躱したりとその剣戟を見切る。
実のところアダマス元帥は、鎧を失ったことをメリット・デメリット半々であると認識していた。絶対的な防御力を失くした代わりに絶対的な機動力を解放したのだから、敵の攻撃を“受け止める”から“当たらなくなる”へ、むしろ好転したとさえ思っていた。しかし、狗美にとっては真逆の理論が成り立っていた。狗美の攻撃は、生身の人間が受ければそれはただ事ではすまないような一撃であるが、こと妖界の戦いにおいては“軽い攻撃の連続”と判断されるものが多い。つまり、鎧を貫通するような一撃より、無数の剣戟を避けつつ確実な一撃を与えていく方が得手だということである。
「ガフッ!」
今度はアダマス元帥の腹部に蹴りが入った。
(何故だ、この女!さっき魔物の女を斬った時は私の速度に反応出来ていなかったはず!だというのに、何故こうも我が太刀筋を見切り、確実に攻撃を当ててくる!?)
アダマス元帥の誤算は鎧の件ともう1つ。それは狗美の学習能力。ほぼ野生で生きており、学び舎にも通っていなかった彼女には“余白”が多い上、戦闘に対する学習は“生きるために”絶対に欠かせないものであったために非常に秀でていた。即ち、アダマス元帥の太刀筋は、既に“普通に”見えていた。
「ガア!」
今度は少し重めの回し蹴りが顔面を捉えた。その高速の戦闘は傍からはまるで干渉できないようなレベルの戦いであった。しばらくアダマス元帥が見えない速度の攻撃を行うと何故かアダマス元帥が仰け反る,ということが繰り返されているようにしか見えていなかった。エンジェルアローサルやデビルスタイル以上の高速戦闘に、狗美は自覚のないまま到達していた。




