第126話:京都守護妖の意志
天帝結界”が破られる直前、京都守護妖・霊漸は自身に残された全妖力を結界の維持にではなく、精神を飛ばすことに費やしていた。この結界を破らんとしている脅威を討ち倒せる可能性を持ち、打ち倒せる場所にいる者。そしてそれは、陽子に行き着く。気絶している者の方が覚醒している者よりも意識を飛ばしやすいということもあったが、霊漸自身が陽子ならば信頼できることを知っていたという事の方が理由としては大きかった。
霊漸は“天帝結界”で結界内にいる全ての事象を把握しているが、陽子とは直接対面したことがあった。陽子は幼い頃から時折屋敷を抜け出して霊漸に会いに行っていたのである。それは陽子が屋敷を抜け出したあの日まで続いていた。京都守護妖候補として自分の将来像に興味があったのか、或いはただの子供の好奇心か・・・理由は定かではないが、半年か1年に1度は会いに来る陽子に霊漸が少なからず愛着を持っていたことは確かであった。
京都及び護国院地下、新式・守護の社
京都全域を“新式・天帝結界”が覆った。それは数分前まで京を護っていた“天帝結界”と違わないものであった。
「難波よ、術は成功だ!京は再び結界に覆われた!」
護国隊長・天ヶ崎が新・守護の社に報告に来た。安堵の表情を浮かべる難波と術者たち。
「1回この結界を無理なく張るのに必要なのが妖力の高い妖25名。仮に先程のようなデタラメな攻撃が再び来て結界が破壊されたとしても、残りの25名が代わりでまた結界を張ればよい。その間に交代した25名が休み、妖力を蓄えれば・・・。」
「この戦中くらいは保ちそうか?」
「いや、間隔にもよるが・・・2発が限界かも知れん。止められて3発だ。何せ、結界は破られればそれに費やしていた倍の妖力を消耗するからな・・・。」
「お伝えします。」
ここで暗が帰ってきた。暗はミネルヴァからの言伝てを預かっていたが、それを伝えるまでもなく陰陽隊が結界を補助しているのを見て、行き先を護国院から守護の社へと移していたのである。京都守護妖・霊漸に直接結界の強化を頼む為に。しかしながら、霊漸は結界を強化するわけではなく、陽子に精神を飛ばす意思を示した。彼の巨人を挫くために。その直後、巨人の放った光線が結界を襲った。暗は、この瞬間唯一霊漸の近くにいたのである。そしてその最期も・・・。
「京都守護妖・霊漸様が、亡くなりました。」
“天帝結界”が破られる直前・陽子の意識の中
「陽子よ・・・。」
「霊漸・・・さま・・・?あれ?“守護の社”・・・出られたのですか?」
「残念ながら儂は生きているうちにそれは叶わぬようじゃ・・・。すまぬな。おぬしは自らの立場を危うくしてまで儂をここから出してくれようとしておったというに。」
「そんな・・・わたしはただ、許嫁が嫌だっただけです・・・。」
「解っておる。じゃが、あの日京を抜け出した理由が1つとも限るまいよ。」
「・・・ふふ・・・。」
「さて、刻がないのじゃ陽子。おぬしはいま気を失っておる。目覚めたらすぐに近くに聳え立っておる巨人のもとへ向かえ。よいな。あとは流れに任せよ。」
「・・・よくわかりませんが、わかりました。」
「ふむ、ではな・・・。・・・陽子よ。」
「?」
「我が娘の成長を見ているようで・・・嬉しかったぞ。」
「・・・わたしは、自分が京都守護妖になった時、してほしいことをしていただけですよ。」
「・・・。ありがとう・・・。」
奈良・北部 吹っ飛ばされたフウと目覚めた陽子のいる場所
目覚めた陽子はしばし放心状態になっていたが、やがて精神世界で霊漸に言われたことを思い出した。
「聳え立ってる巨人・・・?」
辺りを見回す陽子。探し物はすぐに見つかり、それに向かって真っすぐに走り出した。
「陽・・・子・・・?」
フウも陽子の後を追った。
奈良・北部南。和神たち対アダマス元帥の戦場
要塞巨人ギガンテスに2発目の“金剛巨兵砲”の命令を出して間もなく京に再び結界が張られたことを陰美とサラの攻撃を往なしながら確認したアダマス元帥は驚嘆と苛立ちの反応を見せていた。
「小癪な・・・!あれほどの結界をすぐさま張り直すだと・・・!?おのれ才能め・・・!」
加えて、巨人に向かう陽子の姿を視界に捉えた。
「小娘どもが・・・!」
“黒槍ダンス”
サラが魔力で形成した槍を5本、アダマス元帥の動きを封じるように地面に投げ刺した。
「イカせないよ?」




