第125話:新式・天帝結界
「あうっ!」
サラはアダマス元帥に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられていた。和神を担いだ狗美は無事に難を逃れて着地し、和神を肩から下ろす。その隣に陰美も着地する。ミネルヴァが3人のもとへ駆け寄る。もうエンジェルアローサルは解けていた。
「すみません、私たちだけでは抑えきれず・・・。」
「そんな、ミネルヴァ様が謝られるようなことではありませんっ!」
頭を下げるミネルヴァに陰美は必死に否定の弁を述べた。空中からアダマス元帥がゆっくりと着地する。
「ほほう、有象無象がごちゃごちゃと。だが、んん?見たところ女ばかり、男は1人・・・それも人間ではないか?フッハッハ!これは驚いた!暫く見ぬうちに妖は女を前線に出すような脆弱で腑抜けた軍勢に成り下がったか!!」
態とらしく笑って見せるアダマス元帥。
「その脆弱で腑抜けた軍勢に負けかけてるのはどこの軍勢だよ・・・。」
和神の呟きに少なくとも“4いいね”は来た。サラは起き上がりながらメチャクチャウケている。ミネルヴァは不謹慎ながら,といった様子で顔を隠しながら肩を震わせて笑っている。フフッ,と吹き出しているのは狗美。あの陰美までもがクスクスと笑っている。各々のウケ方を見せる狗美たちに、アダマス元帥の笑いは止んだ。
「よかろう、ギガンテス!京を滅ぼせ“金剛巨兵砲”を!」
「あ、やべ。」
「まったく、貴様が余計なことを言うからだ、和神!」
陰美が文句を言いながらアダマス元帥のもとへと突撃する。要塞巨人ギガンテスが再び“金剛巨兵砲”のチャージ体勢へと移った。
護国院本部
「な・・・なんだあの巨大な機械の塊は・・・!」
「一撃で・・・偉大なる“天帝結界”を・・・!」
「それを今一度放とうとしているなど・・・!」
会議室で議論しかしない高官たちはただただ頭を抱えるばかり。中には祈り始める者まで見受けられる。議論というよりもむしろ“感想発表会”のようにすら見える。彼らの頭脳には“天帝結界”が破られる,などという事象は露ほどもなかったのであろう。陽子の進言もまともに取り合っていた者はここにはいなかった。“偉大なる天帝結界”と称した者がいたように、彼らは“天帝結界”と“京都守護妖”を崇拝していたのである。されど、過度な崇拝は妄執となり正確な判断を鈍らせ、思考を停止させていた。故に彼らの“議論”は永久に結論が出ない。考えていないのだから、考えているフリをしているだけなのだから・・・。
そんな使えない高官たちとは違い、現場の者たちは要塞巨人ギガンテスが現れた時から素早く行動に移っていた。護国隊、陰陽隊ともに彼の巨人を見た瞬間に、何か大きな攻撃を放つであろうということを予測し、手を打っていたのである。その内の1つが“天帝結界”の補助であったが、これは徒労に終わった。だが、それだけが“手”ではなかった。護国院長、即ち陽子の父からの命により、地下に建造していた施設がある。それを使う機能させる。その施設の名は、『新式・守護の社』。内部や外装の細かな装飾は出来ていないが、必要最低限の設備は整っていた。
護国院・地下最深部『新式・守護の社』
「では、そこに書かれている通りの手順でやるのだ!陽子様立案の方式だ、間違いなどない!出来なければ貴君らが間違えているのだと知れ!!」
陰陽隊長・難波が指示を出す。そこには陽子が立案した新たなる天帝結界の術式が書かれた書面を持つ約50名の高い妖力を持つ妖が集まっていた。
「現・京都守護妖であらせられる霊漸様の“天帝結界”が破られた今!京の明暗は貴君らに懸かっている!必ず成功させてほしい!さあ、配置に着け!!」
「はっ!!」
日本中から集められたこの妖たちは妖力の高さだけでなく、その性格・気性も見込まれて招集されていた。即ち真面目で誠実、冷静で温和な者たちということである。そうでなければこの役目は務められないからである。誰か1人が欠ければ成立しない術式であるが故に。
「全員配置に着いたな。では、始めよ!!」
社の中の指定された位置で座禅を組み、全員が同じ印を組み、同じ術を発動させる。
“新式・天帝結界”




