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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第4章:帝国の侵攻 編
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第119話:流動~帝国~

「へへっ・・・。」

笑うのはスティール中将。しかしその笑みは余裕の笑みではなく、自分自身に呆れた“苦笑”であった。

「まだ息があったのか。その妙な虎みたいな姿のお陰か?」

本気でトドメを刺すつもりで殴りつけた狗美は驚いたが、すぐに代わりのトドメを刺しに掛かろうと抉れた地面に仰向けに倒れているスティール中将に近付く。

「やめてくれ・・・もう、動けねえんだ。無理して身の丈に合わねえ“力”を取り込んだ所為だろうさ。魔物こいつの能力の3割も引き出せてねえ。こいつの持ち味は敏捷性にあった。それを封じられた時点で詰んでたんだ。」

その声は命乞いでも何かを企んでいるような声でもなく、ただただ弱々しいものである。

「野獣みてえな姐さんよぉ、アンタのお陰で頭に昇ってた血が抜けて冷静になれたぜ。よくよく考えてみりゃあ、当然の結果だったんだ。俺らの国に伝わる伝説じゃ“受け容れし者”が俺らを導いてくれた・・・だから今あの“受け容れし者”を攫って国に入れればきっとまた導かれるって閣下も俺も信じてた。だが“受け容れし者”が敵として現れた時点で気付くべきだったんだよなぁ・・・。」

狗美は右手に溜めていた妖力を鎮めた。スティール中将の表情かおが、あまりにつらく嘆いているように見えたから。

「気付くべき・・・?」

狗美が問う。

「“俺らが、間違ってる”ってよ・・・。それこそがよ・・・『“受け容れし者”の導き』だったんだよな・・・。」

狗美がトドメを刺すまでもなく、スティール中将はゆっくりと静かに息を引き取った。


奈良北部・ミネルヴァとフウと気絶している陽子

「ミネルヴァ・・・サンクティタスの援軍・・・まだか?」

「それが・・・。」

ミネルヴァは軍服の腰元から壊れた通信機を取り出す。

「先程、上空にて飛行艇を落としている際の天力と魔力のぶつかった衝撃で破損したものと思われます・・・。」

申し訳なさそうに言うミネルヴァのもとへ隠密部隊副隊長・暗が音もなく現れる。

「お伝えします!」

「びっくり・・・。」

「戦場で音もなく現れるのはやめてください。」

暗はすいません・・・,と困り顔をする。

「それで、お伝え,とは?」

「あ、はい!それが、先ほどサンクティタス王国より連絡が入り、メリディエス帝国王妃ディアナ・メリディエス・オニキスからの申し出により、メリディエス帝国が降伏致しました!帝国最高戦力だという大将マキーナ・メリディエス・オニキス、並びに少佐以上の階級を持つ帝国兵を10名拘束し、他の帝国兵にも戦闘の意思はないものと断定した模様です。」

「!!?」


奈良南部・帝国軍基地

「そもそもどうしてこの部屋は機能している?」

千影が訊く。

「今ですか?まぁ構いませんが。この部屋には基地に何が起こってもすぐに非常用魔力が供給されるようになっているのですよ。この基地第2の中枢機関ですね。」

千影が納得したように頷くと、今度は千明が訊く。

「何故・・・降伏など?」

「本題ですね、いいでしょう。元より、帝国民の半数以上・・・いえ8割の者は戦争に反対していたのです。しかし、過去の呪縛に囚われた哀れな王は残りの2割を率いて戦争を強行したのです。あのアダマス王の言うことに、8割の反対派は逆らえない。何故なら彼が帝国で最も権力を有し、最も武力も有していたから。でも、逆らわなかったのは表向きだけ。反対派の者達は裏で団結・連携し、この機会を窺っていたのです。2割の強硬派が戦争に向かい居なくなるこの瞬間をね。かく言う私も反対派。私が反対派の者達の意思を密かに戦争を嫌がっているディアナ王妃とマキーナ大将に伝え、彼女たちに次元孔発生装置を流したのです。」

「お前、ワルだな。」

「ああ、しかし1つ分からない。アダマス王が囚われた“過去の呪縛”とは?」

姉妹の質問にリキッドは簡単に答える。

「約1000年前の戦争。アダマス元帥は当時大尉としてあの戦争に参加していたのです。」

『何っ!?』

姉妹の驚きの声に、部屋にいた研究員たちがようやくリキッドと姉妹の存在に気付き、どよめき出す。

「皆さん落ち着いて下さい。君、1000年前の戦争、流界では何て言いましたっけ?」

リキッドが研究員の1人に訊ねる。これは研究員たちの動揺を緩和させる狙いがあった。

「えっ・・・えと、前に戦争をしたのは約850年前で我らは“流界侵攻”と、流界では確か“保元ほうげんの乱”と・・・。」

「そうでしたね。まあ850年前、保元の乱。」

「年月や戦の名称などどうでもいい!」

「それよりそんな妖にとっても昔の戦争に出た者がまだ生きている!?」

問いただす姉妹に、リキッドは普通に答えた。

「さっきの言ったでしょう?手術で階級が決まると。その最上位にいるのがアダマス“元帥”なのですよ?」

「!・・・つまり、手術で不老不死になったと・・・!?」

「ええ、定期的な手術と薬の摂取でね。正確には“老いを遅らせている”だけですが。」

「メリディエス帝国の技術はそこまで・・・。」

「なので、戦争など必要ないという者が殆どなのですよ。この技術を外界に提供すれば、きっと支援や協力も受けられるでしょう?現に、その条件でたった今、降伏を受け入れてもらったわけですし。」

「ということは、残りはもうアダマス元帥1人のみ、ということか?」

「本当に貴様が抵抗しないのならば。」

「ええ、その通り。ですがあの方は850年もの間、手術を繰り返しその身を改造し続けてきた男です。加えて実子には母体にいる時から様々な実験と改造を繰り返してきた異常者でもある。国が彼を見放そうと、妻子が裏切ろうと、決して止まらない。850年前の報復を終えるまで、流界・妖界を蹂躙するまで、決して。」

リキッドは振り返り、今までの笑顔をやめて真剣な眼差しで姉妹の眼を真っ直ぐに見据え、言う。

「奴の報復を止めるには、過去の呪縛を解くには奴を殺すしかありません。そして奴がいる限り、メリディエス帝国民は奴から解放されることはない。どうか・・・!奴を・・・王を、止めて下さい!」

リキッドは周囲の研究員の眼もはばからず、深く深く、こうべを垂れた。



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