第118話:流動~戦況~
バチバチッ、と音を立てて弾ける電流。それは紛れもなく和神の腕から放出されていた。
(これ・・・あの食べるとパチパチするやつを腕でパチパチさせてるみたいだ。)
そんな呑気なことを思っている和神だが、当然気を抜いているわけではない。目の前で血塗れで倒れ込む瀕死の陰美がいるのだから必死である。だからこそ目覚めて頭がガンガンする状態でも敵と思しき男にいきなり電撃を放てたのである。だが、残念ながら目覚めた理由は陰美がピンチだったからではなかった。遠くから途轍もなく禍々しい気が流れてきたからであった。
「陰美さん・・・!」
陰美に向かって歩き出す和神、しかしスティール中将の痺れは既に解けかかっていた。
「受け容れし者・・・!この姉ちゃんはもう保たッ・・・!!」
スティール中将の背中に激痛が走る。振り返った視界には痺れさせたはずの女・狗美がいた。その手には魔剣が握られている。
「アンタ・・・!」
「返してもらうぞ。」
狗美の魔剣による猛攻がスティール中将を襲う。剣で必死に捌くスティール中将だが、キレた狗美の太刀筋は荒く重く、やがて剣は弾き飛ばされ、その身に刃が刻まれていく。
「くっそ・・・!終わるわけには行かねえんだよ!こっちも国が懸かってんだ!」
“スタンフィスト”
狗美の猛攻中、無理矢理拳を突き出したスティール中将であったが、狗美はこれを魔剣で受け止めた。これによってスティール中将の右の手甲と狗美の魔剣、互いの武装が砕け散った。だが、狗美の猛攻は止まない。剣など元より使い付けない武器。狗美には自前の“武器”がある。妖力を纏わせた爪による斬撃と腕や脚による殴打がスティール中将を襲う。
“ショックインパクト”
左の手甲の掌から電磁波を撃ち出したスティール中将。予想外の攻撃に狗美はこれを受け、体の痺れにより足を止める。
「あばよ!」
“スタン・・・!”
狗美に追撃を放とうとしたスティール中将を電流が襲った。
「何・・・だとっ!?まだ・・・撃てたのか・・・受け容れし者!?」
“陰陽術・雷遁・電磁流波”
狗美がスティール中将と戦っている間に和神から妖力を分けてもらうことで僅かに回復した陰美が放った術であった。
「陰美さん、今は回復に専念して下さいよ、死にますよ?」
「フッ・・・お前の大事な女が殴り飛ばされそうだったのにか?」
「狗美は・・・あんなんじゃ死にませんから。多分。」
「多分じゃない・・・!」
痺れから復帰した狗美は痺れているスティール中将の顎に渾身のアッパーを食らわせた。スティール中将は5mほど上空に飛ばされた。
「私は、お前たちを護り切るまで死なん!」
狗美の全身から妖力が溢れ出す。そして、かつてない程の速度で空中のスティール中将を何度も通過するように連撃を浴びせた。切り傷で血塗れになるスティール中将に狗美はトドメの拳を顔面へと打ち込み、地面に激突させた。その衝撃で大地は穿たれ、土煙が舞い上がる。
奈良南部・帝国軍基地
「貴女方の陣営にサンクティタス王国の者は1人もいないのですか?」
「何故だ?」
リキッドの質問に問う千明。
「私がもう貴女方の敵ではない,と言ったのは、こういう理由でして。」
そう言うと、リキッドは目的の部屋のドアを指紋認証で開ける。近未来的な機械式のドアが開くと、そこには数人のメリディエス兵がデスクで仕事をしている。メリディエス兵と言っても研究員といった出で立ちで戦闘力は皆無に等しそうだと、千明と千影は直観した。
「あれをご覧ください。」
部屋の正面にある大きなモニター画面には映像が映し出されていた。それは、サンクティタス王国の貴族院の外観の前で、貴族院長オーディン・エンシェント・ホワイトに見慣れぬ女性が片膝を着いて忠誠を誓っているように見えた。よく見ると、その女性の背後にいる1個小隊ほどのメリディエス兵も平伏している。千明と千影は貴族院と貴族院長は知識として学んでいた。
「あの女性は?」
千影の質問に、リキッドは答える。
「我が国の王妃、ディアナ・メリディエス・オニキス様です。」




