第117話:流動~戦力~
「貴女方がこの基地のシステムを落とす少し前にアダマス元帥は戦場へ向かいました・・・最後の調整を加えて。」
「調整?」
リキッド准将に前を歩かせ、千明・千影姉妹は後ろから警戒を怠らずに基地の廊下を歩いていた。
「そう、調整。我らメリディエス帝国軍は戦争を行わず、故に貴女方は情報がなく苦戦を強いられた。違いますか?」
「・・・否めない。」
「実は小さな戦闘は数回しているのですが、それは帝国の傘下になろうとしない国を取り込むために行ったもの。“メリディエス火山の内側での戦闘”です。つまり表立った戦争は1000年以上前、流界に侵攻した時以来しておりません。では、そんな表立った戦闘をしていない我々は何を基準に“階級”を付けていると思いますか?」
「!確かに・・・。将校にまでなる程の年齢ではないし・・・。」
「1000年以上も大きな戦争もないのでは戦績で昇進したとは考えられない・・・。」
「仰る通り。そして、答えは至極単純。我らの階級は“手術の進捗状況”で決まっているのです。」
「!!?」
「我らの能力、貴女方もご覧になったアルゴン少将の“キメラモード”や腕からの魔弾の射出などは全て“兵器改造手術”によるものです。我らメリディエス帝国は弱き民の集まり。強さを手にする為にはこうする他なかった・・・というのが元帥閣下のお考えです。」
「それで・・・元帥自身も手術を?」
「ええ。そして元帥閣下の兵器改造手術回数・進捗度は郡を抜いております。あの方は最早、生物兵器であると言えましょう。」
奈良北部・東・サラとカッパー中将が戦う戦場にて
サラは肩に魔力の戦斧を担いで横たわるカッパー中将を見下している。カッパー中将のムカデの脚は残っている数の方が少ない。
「おじさんにしてはよく保ったほうだと思うよ。偉い偉い。でももうフィニッシュね?」
(要塞がある方に出てきた魔気がヤバ過ぎる。幾つか強い妖力があったのに、全部消えかけてる。)
「余所見!!」
要塞の方へ視線を向けたサラにカッパー中将が飛び掛かる。
“MAKIWARI”
飛び掛かって来たカッパー中将の頭を戦斧で一閃。大地にめり込ませた。それからサラは上空に高く跳び上がり、トドメの一撃を放つ。
“ブラックエクスキューション”
上空から一気に降下し、カッパー中将の曲がった腰部分に露出した甲殻の隙間に戦斧で渾身の一撃。それは何故か、ミネルヴァがシルバー少将にトドメを刺した時と同様に処刑を彷彿とさせる光景であった。
ズガァン!!
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
カッパー中将の悲痛な叫びが戦場にこだまする。カッパー中将の人型部分とムカデ部分を両断しても尚落ちない戦斧の威力は大地を穿ってようやく止まった。
「ごめんね?一緒には逝けないの♪」
動かなくなったカッパー中将の亡骸を一瞥し、すぐに南の方角、東大寺の方に目を向ける。
「まさかのここから本番・・・的な?」
珍しく顔が引きつるサラ。ふぅっ、と一息ついてからミネルヴァたちの向かった西の方へ歩き出す。
「コムスメェェエエエエエエエエエエエエ!!!!!」
サラの背後から怒号が轟いた。ムカデ部分と切り離されたカッパー中将が上半身、腕の力のみでサラに向かって突撃してきたのである。さながら妖怪てけてけのように。サラが振り返った時には既にカッパー中将は跳び上がり、口いっぱいに含んだ消化液をぶちまけていた。消化液の雨がサラに降り注がんとしたその時。サラの1mほど前の大地に亀裂が走り、地中から岩石の如く硬質な腕が出で・・・。
“オリンポスオーバーブローver.20min”
地中から出でた岩石化したオリンポスマーメイドは消化液の雨をものともせずにカッパー中将へと直進し、その堅牢な拳を顔面に見舞った。その名の通りオリンポス火山のように熱く、その噴火の如き威力を秘めた拳は、キメラモードから解除されていたカッパー中将を跡形もなく消し飛ばした。
奈良南西部の丘陵地帯・陰美とスティール中将の戦場
陰美の眼前に迸った電流。今度こそ死を覚悟した陰美であったが、その電流はあろうことかスティール中将を襲っていた。
「んなっ!ん・・・だと・・・!?」
まともに電流を浴びたスティール中将はその場に膝を着く。瀕死の陰美がぼやける視界でスティール中将がいるのと反対の方を確認する。そこには、気絶していたはずの和神が、片膝を着きながら右腕をスティール中将へ向けている姿があった。そしてその腕には電流を纏っているように見えた。




