第115話:サキュバスの怒り
第115話:サキュバスの怒り
千明・千影が基地のシステムをダウンさせた頃
奈良北部・東・サラとカッパー中将が戦う戦場にて
“ムシュフシュ消化液”
カッパー中将の口から消化液が噴き出されるが、デビルスタイル状態のサラはノーリアクションでそれを躱し、魔力で形成された漆黒の戦斧を振るう。
バガッ!!
破砕音と共に無数にあるカッパー中将のムシュフシュオオムカデ部分の脚が切断された。これで21本目である。ムシュフシュオオムカデは堅い外殻に覆われており、通常ならば大抵の攻撃は防ぎきる。しかし、足を曲げた時の関節の外側や体を丸めた際の甲殻と甲殻の継ぎ目部分などは、その性質上“柔軟でなければならない部分”となっている。サラはここを狙い続け、カッパー中将を一方的に且つじわじわと追い込んでいた。
「その脚全部折って、ミミズみたいにしてあげる・・・。」
サラの眼は獣のそれと等しくなっていた。見下されるカッパー中将は目の前の小娘の急激な増強に思考を巡らせていた。
(決してこの小娘の魔力や筋力が増大したわけではない。ただ、さっきまでのふざけた動きが嘘のように、洗練された戦士の動きへと変わった・・・!)
そうこうしている間にサラがカッパー中将に向かって駆け出す。
「おのれ・・・小娘がァ・・・!」
飛び掛かるカッパー中将の腕を掴み、そのままムカデ部分ごと背負い投げの形で地面へと投げつけるサラ。仰向けになったカッパー中将のムカデ部分の腹部、地面に叩きつけられた衝撃で僅かに浮かび上がった体に露出した柔軟な箇所目掛けて魔力の戦斧を振り下ろす。
ザカッ!!
「ぐああああああああ!!」
カッパー中将の悲痛な叫びがこだまする。
「大丈夫、誰も来ないよ♪気配がないもの、この周辺。だけど遠くには感じる・・・すごい魔力。でも大丈夫だからさ、続けよ?まだまだ付き合ってもらわなきゃ。それとも、もう終わっちゃったの?おじさん。」
「図に乗るな・・・小娘が・・・!」
「それはこっちのセリフなんだよ!クソジジイが!!」
余裕のヘラヘラ顔から一変、サラは激昂し、カッパー中将の顔面に戦斧を振るう。硬質化したカッパー中将の皮膚を砕くことは出来ないが、吹き飛ばせはした。
サラはブチ切れていた。テラコッタを嬲られたというその一点で。サラの脳裏にテラコッタと初めて出会った時の光景が蘇る。
一族から見放された落ちこぼれ、アームストロング・マグマイアン。それがテラコッタの元の名前であった。あまりに女の子らしくないということでサラが勝手にテラコッタという名前を与えたのである。それはもしかすると、いつか信頼できる誰かに名前を付けてもらい、ナンバーではなくその名で呼んでもらいたいという彼女自身の願望の表れだったかもしれない。
過去を振り返り、ふと思う。
(どうして助けたんだろ・・・?魔界で行き倒れてるヤツなんてごまんといるのに、どうしてテラコッタだけ・・・?なんか、あんな雰囲気の娘、前にも・・・?)
もやもやしてきたので、サラは頭を振ってカッパー中将への怒りを再燃させることで頭をスッキリさせた。
魔界の東・オリエンス王国・新生の間
新人サキュバスにサキュバスNo.782が説明する。
「つまりアナタは、これから人間でも魔人でもエルフでも魔獣でも何でもいいから眠りこけているオスから精力を絞り取ってここに持ち帰って新たなサタン様の僕を作り出すの。しばらくしたらアナタ自身の僕として使っていいって許可も貰えるかも知れないわ。あ、精力搾り取るって言っても○○とか○○とかするんじゃないわよ?幻惑魔法をかけて完全に堕としてから、吸精魔法で引っ張り出しちゃえばいいから。」
ぼーっと頷く新人サキュバス。かと思うと不意に口を開き、疑問を投げかける。
「わたし・・・死んだの?」
サキュバスNo.782は難しい顔をしながら答える。
「・・・城にいる魔導士とか魔人とかは生きてる、“生者”。んで、雑用とか雑兵として働いてる使い魔とか死霊とかは元々“死んでた体”にサタン様が魂を入れて生きてる風に見せてるもの。要は“死者だったもの”。で、私たちサキュバスはその中間みたいなもの。“死にかけていた生者”にサタン様が別の魂を捻じ込んで“生き永らえさせたもの”。こうして話したり体を動かしたりして意識を支配しているのはサタン様に捻じ込まれた方の魂。だけど、時折この体に入っていた元々の魂の記憶が、深層心理で意識を左右することもある・・・かも知れないわね。」




