第113話:暗躍する者達
メタル中将の消滅の数秒後、陽子の半妖態は解除された。陽子は無事を確認するように和神と狗美の方を振り返り、その姿を認識すると安堵の表情を浮かべ、その場に倒れ込んだ。
「陽子さん!」
和神が陽子に駆け寄ろうとすると、前にいた狗美が和神を横へと突き飛ばした。5mほど吹っ飛んだ和神は地面を転がり、倒れ込んだが、すぐに狗美の方へ視線を向ける。
“スタンフィスト”
狗美は腹に電流迸る拳を受けていた。
「勘がいいな、姉ちゃん。」
拳の主はそう言うと狗美から拳を離す。狗美は支えを失ったようにその場に崩れ落ちた。
「全くよ、ただ“受け容れし者”の兄ちゃん攫うだけのハズが、シルバーもメタルもやれちまうんだから大変だったぜ。あのバケモンみたいな姉ちゃんがぶっ倒れてくれたのはホントにラッキーだった。でなけりゃ俺ァ出る機会無くしてたぜ。」
そう語るのはアダマス元帥より“受け容れし者”の捕獲を命じられていたスティール中将であった。軽いノリに髭を生やした腹の内の見えない男である。陽子は気絶し、狗美は恐らく感電させられ、ミネルヴァとフウがこちらへ向かっている現状、和神は戦場に1人になっていた。和神は自身の無力さは知っている。取り分けこの“異界”においては。故に、逃げても無駄なことも解っていた。一か八か、和神は妖力を脚に集中させ、爆発的な跳躍力を発揮し、次に腕へと妖力を集中させた。
“妖拳”
「おっとマジで・・・。」
スティール中将は和神の拳をサッと躱し、“スタンフィスト”を脇腹に当て、気絶させた。
「マジで“受け容れし者”だな、こりゃ。気配はどー見ても人間、だが妖力を使うってのは。」
スティール中将は和神を肩に担ぎ、腕に装着した“透明化装置”と“気配遮断装置”のスイッチを入れ、和神諸共姿を消した。1分後、ミネルヴァとフウが駆け付けた時には、既に全てが終わっていた。
奈良南西部・丘陵地帯
スティール中将は戦場になっている平地を大きく逸れ、小高い丘になっている地域を移動していた。飽くまでも“受け容れし者”を連れ帰ることが彼の仕事。軽口は叩くが命令は聞く,それがスティール中将の出世の秘訣である。
「マキーナよぉ、この戦・・・まだどう転ぶかわかんねぇぜ?」
そんな独り言を呟いた時、妖力で形成された1本の槍がスティール中将の頬を掠め、大地へと突き刺さった。
「あっぶねっ・・・!」
立ち止まり、槍が飛んできた方角を見る。
「槍の形に形成することに気を取られ過ぎたか・・・姉様のようにはいかないな。」
セミロングの金髪に黒いスーツの女性が舞い降りた。その“眼”は透明化しているスティール中将をハッキリと捉えている。
「その人間を返してもらうぞ・・・帝国人。」
「へっ・・・どっから付けて来てやがった?姉ちゃん。」
スティール中将は“透明化装置”と“気配遮断装置”を切り、姿を露わにした。そして、担いでいた和神を地面に抛ると同時に電流のような迅さで攻勢に出た。
“プラズマダッシュ”
“スタンフィスト”
“陰陽術・土遁・岩鎧拳”
電流迸る拳と岩石を纏った拳がぶつかる。
「帝国軍中将・スティールだ、華奢な姉ちゃん。」
「護国院・隠密部隊隊長・陰美。」
奈良南西部・丘陵地帯での戦いが始まった。
奈良南部・帝国軍基地
「テメェら・・・やりやがったなァ!?」
アルゴン少将の怒号が基地内に響く。
『ああ、やった。』
「あんたは私たちと戦っていたつもりだろうけど。」
「私たちはあんたなんて眼中にない。」
『最初から目的はこれ。』
千明・千影姉妹は基地内部にて、大きな戦果を挙げていた。




