第110話:死を運ぶキメラ
奈良南部・メリディエス帝国軍『基地』
ミネルヴァが移動を開始した頃、千明と千影は危機に瀕していた。当初はアルゴン少佐の武装を見切り、優位に立っていた2人であったが、アルゴン少佐の“キメラモード”の発動により戦況は一変した。
「飛ぶとは・・・。」
「厄介・・・。」
“キメラモード”になったアルゴン少佐は背から翼を生やし、飛行していた。脚も鳥類のような脚へと変化し、まさに“鳥人”といった出で立ちである。
「“ワルキューレオウル”・・・って言っても知らねぇか?死を運ぶって言われてる梟だ。魔界生物でもその大半がコイツに殺られても気付かねえ・・・気付いた時には死んでいるっつー“魔界の暗殺者”だ。」
その言葉に2人は反応する。
「暗殺者・・・。」
「ならば負けるわけには。」
『行かない・・・!』
2人は隠し持ったクナイを投げる。
「無駄だ・・・!」
アルゴン少佐は両手から見えない波動を撃ち出し、これを撃墜する。しかし、このクナイはただでは落ちなかった。アルゴン少佐の放った波動が当たった瞬間クナイに掛けられていた術が発動、黒い霧が立ち込め、アルゴン少佐の視界を奪った。
「煙幕か?こんな子供騙しでどうにかなると思ってんのか?」
アルゴン少佐は霧を吹き飛ばそうと翼を羽撃かせる。晴れた霧の向こう側に、2人の姿はなかった。
「なに?逃げたのか?小癪な・・・!」
アルゴン少佐は基地上空を旋回して消えた2人を探す。
キメラモードになったメタル中将のいる奈良北部・南
フウに言われた通り和神たちはメタル中将の前にいた。
「あれ・・・全身が武器になってるのか?」
呟く和神に頷く狗美。
「そのようだな。」
「生き物かどうかも怪しいですね・・・。」
陽子はメタル中将を取り巻く気配に生命反応のようなものを感じ取れず、妙な不気味さを感じていた。
「敵、確認。排除。」
メタル中将の頭部甲冑の眼のような隙間が赤く光り、一息に殺気が増大した。
“妖壁”
咄嗟に陽子は妖力の壁を作り出した。そこへメタル中将の出鱈目な砲撃が撃ち込まれる。偏に砲撃と言ってもその中身は弾丸から小型ミサイルのようなもの、ビームのようなものまで様々である。数秒もかからぬ内に“妖壁”には亀裂が生じ、やがて撃ち砕かれた。だが、その先には既に和神たちの姿はなく、狗美はメタル中将の背後を取っていた。フウと別れる際に持ってきた魔剣を振るう。が、メタル中将の武器は背後にも対応していた。剣を振るおうとする狗美に容赦ない砲撃が放たれる。
「くっ・・・!」
どうにか魔剣で攻撃を弾いていく狗美であったが、近距離での集中砲火に流石に弾き切れず、その身に砲撃を食らってしまう。
「・・・!」
爆煙に飲み込まれる狗美に注視する和神。吹き飛ばされた狗美が煙の中から転がり出てきて、態勢を立て直す。
「簡単には行かないか・・・。」
どうやら無事な様子に、ホッとする和神。しかし、メタル中将の砲身が再び狗美に狙いを定める。そのメタル中将を上空から黒い光線が飲み込む。
“陰撃”
陽子である。陽子の“陰撃”にメタル中将の立つ地面は見る見る抉られていく。だが当のメタル中将本人は微動だにせず、ただ背中の砲身を陽子に向けていた。
“レフ・キャノン【キメラ】”
サラに放った“レフ・キャノン”の高威力版が陽子に向けて放たれた。降り注ぐ“陰撃”を貫きながら魔力の光線が陽子に飛来する。
“八重楯結界”
陽子は“陰撃”を切り、自身の正面に守りの結界を展開した。
バリィン!!
“レフ・キャノン【キメラ】”は“八重楯結界”を砕き、陽子を飲み込んだ。




