第109話:キモ過ぎ!ドン引き!あり得ない!!
“レフ・キャノン”が命中する直前、サラは自身を魔力で包み込み硬質化させ、黒い鉄球のようなものを形成して身を護っていた。“レフ・キャノン”は貫通性能よりも規模を重視した砲撃であったため、サラは魔力を消費して遥か上空に飛ばされただけで済んでいた。
「どうせ落ちるしこのままでいっか。」
サラは球体のまま地上へと不時着した。黒い球体を解除し、さながら他の惑星にやって来た人間のように地面へ降り立つ。
「うーん、見たことのない地質だ・・・なんつって。」
「サキュバス!何故ここに!?」
「サラだってば。てかあれ、ムシュフシュオオムカデ?」
サラが降り立ったのはメタル中将との戦場から東に位置していたミネルヴァとカッパー中将の戦場であった。
「そう・・・いえ、正確には違いますが・・・。」
キメラモードのカッパー中将がその口から薄ら黄色い液体を吐き出してくる。左右に飛び退き避けるミネルヴァとサラ。2人が立っていた地面は液体が掛かり、じゅわ~という音と共に溶けている。
「キッモ!キモいよ!やっぱムシュフシュオオムカデじゃん!」
「あれは、敵の老兵が“キメラモード”という状態になった姿です。貴女の使う“デビルスタイル”のようなものです。」
「あんなのと一緒にしないでくれる!?」
カッパー中将を挟んで言い合う2人。
「ふっふ!応援が来て、余裕が見えるなエルフの娘。それほど頼りになる援軍だと言うのか、この・・・小娘が!」
サラに対して高速で突進するカッパー中将。
「マ・ジ・で!虫の突撃とか・・・!」
サラはジャンプし、ムーンサルトをするようにカッパー中将の突進を躱す。
「キモ過ぎ!ドン引き!あり得ないから!」
“RPG-777ジャベリン”
ムーンサルトで回避した空中で魔力の槍を生成し、カッパー中将の背を目掛けて投擲する。見事に命中せしめたが、カッパー中将はその長い体を捩って空中にいるサラへ再び突進を仕掛ける。
「うっわ!よく見たら爺さんだ!?」
「ですから・・・。」
“エンジェルアローサル”を発現させたミネルヴァが天力の剣でカッパー中将の横から突進斬りを見舞う。カッパー中将はその硬質化した“カッパー中将自身の腕”でこれを防御、しかし軌道は逸れてサラは難を逃れた。
「あれは、メリディエス帝国の老兵です。」
「じゃあ、あっちにいるのもそーなんだ?」
「あっち?」
「あー、さっきまでアタシがいた・・・。」
サラはきょろきょろと辺りを見渡し、今の自分のいる位置を把握する。
「あー!あっちだ!和神くんたちが戦ってる奴!あれもその“キモイモード”でしょ!?」
「“キメラ”です・・・和神さんたちが戦っている相手も“キメラモード”とは厄介な・・・。」
「あれはねー、アスラタイタンだよ。割強なんだよね~、脛やれば一発だけど。」
「!」
サラの発言に目を丸くするミネルヴァ。
「そのような弱点はサンクティタスでは記録されておりませんが・・・。」
「あー、魔界でもあんま知られてないからねー。ほら、前に言ったアタシのチョー優秀なスパイが教えてくれたんだよね~。オリンポスマーメイドとアスラタイタンは住んでる場所近いからさ。」
「ふっ。オリンポスマーメイドのスパイ・・・よもや我が帝国基地に送り込んでなどいまいな?」
カッパー中将が不敵な笑みを浮かべながら2人に近付く。とはいえ未だ距離は15mは離れている。
「やだー、ガールズトーク盗み聞きとか趣味悪いよ?おじさん。でも、そう。送り込んだよ、メリディエス帝国軍の基地に。」
「ふふっ・・・そうか。あの小娘、貴様の手先であったか・・・ふっふっふ!部下と上官、どちらも甚振れるとは!傑作よ!!」
大きく余裕の高笑いをするカッパー中将。サラの方に目を向けたミネルヴァは、一瞬身の毛がよだつものを感じた。
「ミネルヴァちゃん、和神くんたちにアスラタイタンの弱点、教えに言ってあげてくれる?」
「・・・。」
ミネルヴァは黙って頷くと、和神たちが“いた”戦場へと向かった。本来なら魔界生物の言う事に従うなど躊躇うミネルヴァであるが、今回は事情が違った。ここはもう、私の戦場ではない,と直感していた。




