第108話:メタル中将のキメラモード
サラに向けて放たれた2発目の“イ・レーザー【ホーミング】”。3mもない距離から発射された魔力の光線に、サラは“フレア・フレグランス”を放出しつつ“デビルスタイル”の翼を羽撃かせ、超低空飛行状態から僅かに身体を上昇させた。“イ・レーザー”はサラの“残り香”を撃ち抜いた。
「もらったァ!」
2発目の“イ・レーザー”を見事に躱し切ったサラは意気揚々とメタル中将の右肩にある“イ・レーザー”の銃口に突撃する。
“デビルクロー”
魔力の槍を形成する際と同じ手法によってサラは魔力を右手に凝縮・固定させ、黒く硬質な“悪魔の手”を作り出した。しかし・・・。
“セイラーマシンガン”
突っ込んできたサラに対し、メタル中将は腕の下部、袖の下のような位置から小型の銃口を展開させ、魔力の銃弾をマシンガンのように撃ち出した。
「セイラーって!」
色んな意味で突っ込みながら身体を仰け反らせ、サラは上空へと緊急回避した。そのサラをメタル中将は逃さない。
“レフ・キャノン”
メタル中将の背部から砲台が展開、魔力をチャージした。
「消滅。」
眩い光と共に発射された“イ・レーザー”とは比較にならない程に巨大な魔力の光線は、真っ直ぐサラに向かってくる。
「ヤバし。」
魔力の光線は空に立ち込めていた雲を穿ち、束の間の晴天を戦場にもたらした。この“レフ。キャノン”にいち早く反応したのはカッパー中将とシルバー少将であった。
ミネルヴァ対カッパー中将の戦場
「ふっふっふ!この戦も終わりを迎えそうですな!」
和神たち対シルバー少将の戦場
「ハーッハッハ!!こりゃあ楽しくなってきたぜ!!」
高笑いするシルバー少将の四刃にはフウが突き刺されている・・・。
再びサラとメタル中将の戦場
メタル中将の全身を覆う鎧から蒸気のようなものが噴き出し始める。
「魔導機構温度上昇。全武装展開準備完了。“キメラモード”発動。」
メタル中将は機械的にそう発すると、両腕上部から斧状の刃を展開・外側から銃口を展開・胸部から巨大な砲台を展開、その周囲に小型の砲台を展開・腰の脇から小銃を展開・膝から角のような突起物を展開・脛に刃を展開・脛の側面に小銃を・・・とにかく全身から武具が展開され、メタル中将が武器の塊のようになった。
「キメラモード・・・展開完了。」
これが、メタル中将のキメラモードであった。他の“キメラモード”が外界の魔物の力を取り込んだものであるのに対し、メタル中将のキメラモードはメリディエス帝国内の力を凝縮して取り込んだものであると言える。謂わばメタル中将はメリディエス帝国軍の軍事力そのものなのである。
和神たち対シルバー少将の戦場
「くっ・・・。」
「大丈夫か?狗美。」
和神に覆い被さるように倒れていた狗美が起き上がる。腕に大きな切り傷を負っているのを見て和神が心配する。
「この程度、どうという事はない・・・。あいつ、一時的に凄い速さになるが、一撃はそんなに重くないな。」
狗美の読み通り、倒れていた陽子も切り傷を負いながらも立ち上がり、命に別状はなさそうである。
「それよりも問題はサラのいる方だ。あっちから急に大きな魔力を感じた。」
「和神、狗美、陽子。ここは我だけで・・・十分。そなたらは・・・サ・・・ラの“いた”方へ向かえ。」
口を開いたのはフウであった。シルバー少将の魔剣に突き刺されながらも皆に指示を出した。そんなフウを見てシルバー少将が軽口をたたく。
「オイオイ、どーこーが十分なんだ、どこが?今、状況見えてる?精霊チャン。」
フウの目が見開かれ、瞳孔まで開き切った。
「調子に乗るなよ、雑魚魔人風情が・・・!」
周囲を取り巻く風の流れ、大気の重みが変わったように感じた。和神たちはフウの言った通り、サラの“いた”戦場・メタル中将のいる戦場へと向かった。




