第106話:群雄割拠
奈良・東大寺付近メリディエス帝国軍『要塞』
千明と千影が『基地』で目撃したメリディエス帝国軍の魔鎧兵中隊2つが要塞から出撃し、北上を開始する。
「閣下はこの京を迅速に制圧することを望まれている!延いては妖界日本、流界日本全域の制圧をお望みだ!速やかに障害を排除し、閣下にこの国を捧げるぞ!!」
「応ッ!!」
2つの中隊を束ねる総隊長・アイアン大佐が兵たちを鼓舞しつつ進軍する。やがてフウの“風武百連陣・魔剣の舞”によって破壊された戦車の残骸が見えてきた。
「よし!A中隊は・・・」
指示を出そうとした瞬間、兵たちの眼前から総隊長の姿が消えた。足を止める兵たちは右舷から妖気の群れを感じ、臨戦態勢を執る。
「おー。当たったか~、この鉄の塊は投げるのに丁度イイなァ。」
「馬鹿力もたまには役に立つもんやな。」
妖気の群れは護国院が招集をかけた、京都・奈良周辺に住む妖たちであった。それも、喧嘩好きの猛者ばかりが集っていた。
「フン・・・!肩慣らしには丁度良い!!」
そう啖呵を切ったアストロ少佐が率いるA中隊が妖たちと対峙した。B中隊は引き続き進軍を続けようとしたが、左舷からも妖の群れが迫っていることを確認し、断念した。
「こっちもか・・・。」
テツ准佐率いるB中隊は左から迫る妖の群れと対峙した。
「何だ?こっちにスッ飛んできたこの鎧野郎は?」
左から迫る妖の群れの先頭にいる3m程ある妖がB中隊目掛けてアイアン大佐を放り投げた。総隊長は消えたわけではなく、右から来た妖が投げた戦車の残骸に吹き飛ばされていたのであった。
「クソ・・・低俗な妖どもめが・・・!」
憤るアイアン大佐はゆっくりと立ち上がり、剣を抜いた。
ミネルヴァとカッパー中将が飛行艇と共に落ちた場所・サラの戦う戦場の西
目覚めたミネルヴァは少し離れた所にある飛行艇の残骸の下から起き上がる巨大な昆虫の姿を目の当たりにする。そのおどろおどろしい姿に身の毛がよだつのを感じつつ立ち上がるミネルヴァ。“聲”が告げた通り、ミネルヴァの能力は“1”に、即ち100%に回復していた。
「ウガアアアア!!」
雄叫びとともに飛行艇の残骸を吹き飛ばした昆虫(正確には足が7本以上あるため昆虫ではないが)はムカデのような姿をしているが、人型の上半身と老人の顔を持っている。
「・・・老兵、貴方なのですか?」
「フッフッフ!驚イタカ?コノ偉大ナ姿ニ!コレガ我ガ国ノ研究ト努力ノ賜物!“キメラモード”ヨ!!」
「見た所・・・魔界に棲んでいる蟲の一種、“ムシュフシュオオムカデ”に類似しているようですね。」
「ホホウ、博学ダナ!エルフノクセニ魔界ノ知識モ持ッテイルトハ。如何ニモコノ姿ハ“ムシュフシュオオムカデ”ヲコノ身ニ取リ込ンダモノダ。ソレガ“キメラモード”・・・!」
「なるほど、強大な魔物の能力をその身に取り込んでいるのですね。」
ミネルヴァの目は冷めていた。そんな科学力を持ちながら、このような戦争を引き起こす帝国が酷く滑稽に見えたからである。そのミネルヴァの冷めた目に、カッパー中将は気付いた。
「ソウダ・・・ソノ目ダ!才アル者ガ弱者ヲ愚弄スル目ダ!!弱キ者ノ努力ヲ見下ス目ダ!!私ハソノ目ヲ許サナイ!!」
カッパー中将はミネルヴァに襲い掛かる。虫は人間の大きさがあれば、その速度は地球上のあらゆる生物より速いという。当然だ、足が6本もあるのだから。それを踏まえてこの“ムシュフシュオオムカデ”、足の数は約100本。まさに“百足”。その速さは、魔界の中でも上位に位置する。故に、サンクティタス王国が定める“魔界危険生物一覧”において“ムシュフシュオオムカデ”は第二級危険魔界生物に属している。




