第105話:要塞と基地
奈良南部・メリディエス帝国軍基地
「やはり。」
「そういうこと。」
千明と千影の姉妹は帝国の要塞を調査しに来ていた。戦力では足を引っ張りかねないということで自ら志願した彼女たちの“戦い方”である。そして2人がやはり,と言ったのは、メリディエス帝国軍の“基地”は奈良の南部に存在していたということである。
「あの東大寺の近くにあるのは飽くまで“出入口”。」
「本拠はこっちだ・・・。」
姉妹はメリディエス帝国軍には“要塞”と“基地”が別に存在しているという事実を突き止めた。東大寺付近に現れた巨大な要塞の遥か南方に要塞のおよそ2倍程の規模の“基地”があり、メリディエス帝国軍の半数はこちらの基地に待機していたのである。
「千明、あれ。」
「うん、次元孔。」
千影が指さす先には次元孔発生装置があった。そこに一個中隊が入っていく。
「多分、あの次元孔が要塞と繋がっていて。」
「要塞の門から敵が出て来ているように装っている。」
姉妹の見立ては正しかった。同時刻、姉妹が目撃した中隊とそれと同等の中隊、計2個中隊が東大寺付近の要塞の門から現れていた。
「・・・通信機が使えない。」
「報告に戻ろう。」
姉妹が踵を返した時、2人の前に立ちはだかる瘦せ型長身の男が不敵な笑みを浮かべていた。
「フッ・・・まさかバレるとはなァ・・・。“完全変身機基地版”で完璧にカモフラージュしていたハズだが・・・。」
痩せ型長身の男は姉妹の眼を注視する。
「ああ、エッジ・スライサーがしくじったのはそういう事か・・・。」
姉妹は“透気眼”を発動していた。でなければこの“基地”を発見することはできなかったであろう。
「にしても、だ。何故あっちの寺近くの“要塞”が本丸じゃねェと気付いた?」
「聞いてどうする?」
「敵に教えるとでも?」
「今後に活かせるだろ?それに、お前らが死ぬ前に訊いておかねェとなァ。死人に口なしってヤツだ。」
姉妹は答えなかったが、姉妹が要塞の他に基地があるかも知れない,と考えたのは、要塞から戦車部隊が現れた時であった。元暗殺者としての感覚のおかげか、“殺気”や“気配”に姉妹は敏感であった。そのため、それまで要塞に存在していなかった戦車部隊の気配が突如として現れたことに違和感を持っていたのである。そこから“千里眼【隼】”を使って基地の場所を特定したのである。
「まあ答えねェならそれもいいさ。寿命が縮むだけだからなァ!」
痩せ型長身の男が右腕を上げた瞬間、姉妹は左右に跳び退いた。
「おお、これを避けるのか。やるじゃねェか。避けられた褒美に俺の名を教えてやる。」
「別にいいけど。」
「知りたくないけど。」
「アルゴン!!・・・少将をやってる!お前らを殺す野郎の名くらい覚えときな。」
「千明。」
「千影。」
『同じ理由で覚えておきなさい。』
「面白ェ・・・!」
奈良北部・和神たちVSシルバー少将の戦場
「ほぅら、テメェの力を過信してるとこうなんだよ・・・!」
フウは魔剣で胸を貫かれていた。陽子は倒れ込み、狗美は和神を庇うように覆い被さって倒れている。
「精霊サマも妖怪も、“キメラ”の前には無力ってことだ。」
「・・・ミネ・・・ルヴァ・・・。」
「他人の心配してる場合かよ!?」
他の3本の腕、3本の刀剣がフウのトドメを狙う。
『まったくアナタは、幾度死にかけるおつもりかしら?』
ミネルヴァに語り掛けるは優しき慈愛に満ちた聲。
『アナタはわたくしのお気に入りですのよ?もっとご自愛なさってくださるかしら?』
「私は・・・救いたいのです。あの方達を・・・。」
『ええ、知っておりますわ。されどそれは、わたくしにはどうでもよろしくってよ?アナタが生きていれば、ね。』
「でも、私らしく生きなければ・・・価値はないでしょう?」
『ああ言えばこう言う・・・すてきよ❤ミネルヴァ。アナタの護りたいモノ、此度は自らの能力で護ってみなさい。“祝福”はなし。“1”だけあげる。』
「ありがたいです・・・。」
『でも気を付けて?“前の時”みたくならないように。』
「前の・・・時?以前、私はなにか・・・?」
『アナタじゃない。彼じゃない。でも彼には気を付けて。彼をあの子にしてはいけない。』
ミネルヴァは目を覚ました。




