第101話:和神くんで帝国を惑わそう大作戦❤の効果
奈良南部・メリディエス帝国軍基地内・特別医療室
アダマス元帥は縦になった酸素カプセルのような装置の中から冷たい蒸気とともに歩み出た。近くに側近のリキッドが待機している。
「体調の方は?」
「ふむ、問題なかろう。」
そう言うと、アダマス元帥は足早に専用の兵装準備室へと向かう。その道中でリキッドが現在の戦況を伝える。
「元帥閣下が一戦交えました女と同格かそれ以上の女たちが5人確認されており、内1人は精霊、1人はエルフ、1人はサキュバスではないかと・・・戦況は芳しくありません。」
「ふん。誰かキメラモードを発現したか?」
「はい。シルバー少将が。それと戦車部隊をメタル中将が、飛行艇部隊をカッパー中将が率いております。」
「ならば問題あるまい。手に余るようならば将校たちにはキメラモードになることを躊躇うなと伝えよ。」
「かしこまりました。それと・・・その、信じ難い事なのですが・・・。」
「何だ?早く言え。」
「戦地に・・・“受け容れし者”が確認されております。」
アダマス元帥が足を止める。
「確かか?」
「“霊力”の球と“魔力”の球を撃ち出した,と報告されているので間違いないかと。」
「“受け容れし者”・・・何故“そちら側”に付く・・・?」
再び歩み出すアダマス元帥。
「スティールを出せ。“受け容れし者”を回収するのだ。彼の者を手にすれば、我らの行く末は明るかろう!」
「はっ!」
サラの提案した“和神くんで帝国を惑わそう大作戦❤”は見事に機能を発揮したことになる。否、実際はサラの思惑よりもずっと効果があった。サラとしては伝説上の存在である“受け容れし者”が“ここにいるという事実”をぶつけることで帝国の指揮系統を崩せればそれで成功であった。しかし、メリディエス帝国にとって“受け容れし者”は、ただの伝説上の存在ではなかったのである。“伝説上の”存在ですらなかったと言える。
リキッドは通信室に向かいながら、幼少の頃から親に聞かされ、学校でも“歴史”として習った話を思い返していた。
「“受け容れし者”が、我らメリディエス帝国民の祖先を強き者たちから護り、此の地へと導いた・・・。」
奈良北部・上空
エンジェルアローサル状態のミネルヴァが飛行艇に向けて“天力”で形成された弓の弦を引く。
“アルテミスアロー【チャージ・オブ・オルカ】”
これは“アルテミスアロー”の中でも最大級の大きさと攻撃力・破壊力を有した技である。飛行艇の機体は“魔鉄鋼”で作られており、普通の攻撃では“魔鎧”同様傷1つ付かない。“アルテミスアロー”を持ってしてもそれは飽くまで同じこと。しかし、“アルテミスアロー”は“天力”による攻撃。“魔力”を宿す“魔鉄鋼”との“反応”が生じる。即ち、両者は弾け、衝撃が発生するのである。それは“天力”と“魔力”が拮抗した時に限られるが、両者の値が大きければ大きいほど、大きな衝撃を生むのである。そして、飛行艇に使われている“魔鉄鋼”の有する“魔力”と“アルテミスアロー【チャージ・オブ・オルカ】”の“天力”は拮抗していた。
バァン!!
大きな衝撃音とともにミネルヴァの放った“アルテミスアロー”が弾け消える。一方、飛行艇もこれと同等の衝撃を伴う。つまり、1技に過ぎない“アルテミスアロー”は衝撃によって消え去るが、頑強な硬度を誇る飛行艇は衝撃によって消え去ることはなく、バランスを崩す“だけ”で済むのである。
こうしてまた1機、飛行艇は墜落した。
「ふう、やっと5機ですか。」
少し疲れの色を見せるミネルヴァ。当然である。“アルテミスアロー”はエルフ族の上級者ならば誰しもが備える標準的な兵法。だが“【チャージ・オブ・オルカ】”は謂わば兵器。人間がミサイルを機械で撃ち出す威力を素手で投げて出すようなものなのである。ミネルヴァでなければできない所業と言えよう。
「さて、あと・・・15機ほどでしょうか?」




