第100話:悪魔的発想
サラの“RPG-777ジャベリン”が火を吹き、戦車部隊の前衛は悉く落とされていった。この事態に、戦車部隊の隊長を務めるメリディエス三英傑の一角でもあるメタル中将は戦車から降車。白兵戦へと移行した。
「厄介・排除」
機械的な声音で呟いたメタル中将は、その全身を特注の魔鎧で覆った“鉄塊”の異名を持つ男である。次々と戦車を無力化していくサラを補足したメタル中将は、その身に宿した武器を展開させる。鎧の肩部分からウイインという駆動音とともに機械的な質感の筒が展開され、その筒の先はまっすぐにサラの方向を向いている。これの気配を感じたサラは気配の発せられている方角、メタル中将の方へと向き直った。
“イ・レーザー”
その筒の先に一瞬光が集まったかと思うや否や、超高速の魔弾が射出された。デビルスタイル状態のサラは寸での所でこれを回避。魔弾はサラの背後にあった戦車に被弾した。
「うっわ、貫通してる・・・てゆーか溶けてる?」
サラの見立て通り、被弾した戦車には穴が穿たれ、その痕は熱で溶けたように変形していた。
「出た、メタル中将の“シークレット・アームズ”・・・!」
「これは“イ・レーザー”・・・!」
被弾した戦車の乗組員が口々に呟いていた。
「“イ・レーザー”・・・?プレデターっぽいのに・・・。」
サラの独り言を掻き消すように、戦車部隊が前進を始めた。これは、メタル中将の攻撃に巻き込まれないための措置であった。
“イ・レーザー”
2発目の魔弾がサラを狙っていた。
一方、和神たちと魔鎧兵が戦う戦場では和神たちの優勢が続いていた。
「ニッケル大尉!このままでは!」
「わかっている!喚くな!」
鎧が剣より弱いという弱点を突かれ、打つ手がない戦況にニッケル大尉も兵たちも困惑し、防戦一方となっていた。和神たちはこのまま押し切れると悟っていた。だがそこに、思わぬ者が現れた。
「よお、お前ら!ちと武器寄越せ。」
シルバー少将であった。
「シルバー!お前、何故キメラモードに!?それはもっと後の作戦で使うはずだろう!」
「あー、さーせんニッケルさん。こっちも大変でねぇ。」
話しながら近くにいる魔鎧兵から強引に魔剣を取り上げていくシルバー。キメラモードのシルバー少将には4本の腕が存在するため、長刀1本では能力をフルに活かせないのである。
「ようし!これで数は揃ったな。」
シルバー少将が手早く魔剣の“徴収”を終えた頃、和神の近くにフウが現れた。
「フウさん・・・怪我してます・・・?」
フウは腕や脚に幾つかの切り傷を負っていた。そこからは人のような血が流れ出ることはなく、霊力が漏れ出ている。
「大丈、夫。でも、アイツは、危険。ただの魔人、じゃない。」
それを聞いた狗美はより和神に近付く。
「あの、フウさん。これ良かったら・・・。」
和神は狗美に渡された魔剣をフウに差し出す。実はこの魔剣、和神・・・というより人間には重過ぎて振るえない代物であった。
「・・・そこら中に落ちてる・・・。あと、敬語。やめて。」
「あ、すいません・・・。」
和神は軽く頭を下げた。その時、ふと思いつく。そしてその発想を実現すべく、陽子を呼び戻す。
「さぁて、精霊サマ!続きを始めようか!!」
意気揚々とフウの方に剣を向けるシルバー少将であったが、その先に広がる光景に唖然とした。
「和神くん、よくこんなの思いついたね。」
「妖の私が言うのもなんだが、悪魔的だな。」
「・・・戦場だからな・・・やるしかないだろう?」
和神の発想は『フウの風で落ちている魔剣を相手に飛ばせないか』というものであった。フウはこの提案をより強力な形で実行した。
“風武百連陣・魔剣の舞”
それは本来ならば風で形成されるはずの“風武百連陣”の武器を全て周囲の魔剣に挿げ替えたものであった。宙に漂う無数の魔剣に、1度“風武百連陣”を受けているシルバー少将が叫ぶ。
「退避しろォォォー!!!」
何だかんだで100話まで到達しました!これからも精進して参りたいと思います。
今後も『異界嬢の救済』をよろしくお願いします。




