第1話:雨中の出逢い
「ハァ・・・ハァ・・・!」
丑三ッ刻の雨の樹海、息を切らしながら木々の枝上を疾走する女性。それを追走するスーツ姿の男たち、スーツから出ている顔や手足は異形である。
早朝、和神翔理はコンビニから帰ってきて、自宅の前で立ち尽くしていた。春先の空は生憎の雨天にも関わらず明るく、街灯は夏炉冬扇と化していた。和神は早朝のアルバイトをしているため、アルバイトが休みの日でも朝早くに目が覚めてしまう癖がついており、この日も4時頃に目が覚めた上、腹も減ったので朝食を買いに外へ出たのである。和神の住むアパート“とこしえ荘”から最寄のコンビニ“エミリーマート”までは片道5分ほど。少し立ち読みをして朝食を購入して帰ってきても、家を空けたのはおよそ15分弱。だというのに、外出したときには無かったものがそこには在った。
横たわる女性―。
迷彩色のロングコートに、黒いタンクトップ、ホットパンツにブーツを身に着けた見知らぬ桜色の髪の女性が自宅前に倒れている。よく見ると、女性は全身に細かい傷が付いている。
「すみませーん、朝早くにすいませーん。」
和神は早々に隣に住む大家さんのインターフォンを鳴らした。女性が目覚めてからでは何かと厄介だと判断したからである。扉が開き、寝ボケまなこの大家さんが目を擦りながら出てきた。
「なぁに?和神くん、大家眠いんだけど・・・。」
見た目30歳前後の大家さんは自身を大家と呼ぶ。が、本名が大家というわけではない。
「すいません、家の前に知らない人が倒れてるもんで。」
そう言う和神が指す指をなぞるように大家さんは倒れている女性に目線を向ける。
「あらやだ和神くん、自分が捨てた女性の事も覚えてないの?」
「いやいや、俺彼女とか作ったことないですから。」
大家さんが度々放つこういう冗談に和神はいつも冷静に返答していた。齢22になる和神に彼女が出来たことがないという発言はさておいて,といった様子で大家さんは女性に近付き・・・。
昼12時頃。和神は昼に長寿バラエティ番組“笑ってませんよ”を見るのが習慣化している。トカゲさんの神懸かり的な相槌を見ながらいつも通りの昼食を摂る。今日の昼食は冷凍食品のチャーハン。最近の冷凍食品のクオリティを噛み締める、いつもと変わらない昼。そう、和神のベッドに女性が眠ってさえいなければ。
「何で俺の部屋に置いとくんだ?」
大家さんの発案であった。
6時間38分前。
「和神くんちの前に倒れてたんだから和神くんが責任持つのは当然でしょう?」
このアパートの責任者は大家さんじゃないのか?という疑問を投げかける前に大家さんは和神の部屋に女性を運び込み、覗いちゃダメよ,と外で和神を待たせて女性の服を着替えさせたり、応急処置を施したりした。和神は本当に覗かなかった。ただ最近思いついた妄想の中のストーリーを展開させながら大家さんが出てくるのを待っていた。20分程で大家さんは出てきた。
「取り敢えず私の浴衣着せておいたけど、ちょっとサイズ小さいから後で合う服買いに行ったほうがいいね。傷の方は大したことないけど、大分体力減ってるみたいだからしばらくは安静にして、起きたら何か食べさせてあげて。」
「だったら尚更大家さんがやった方がいいんじゃ・・・?」
そういう和神の口を大家さんが指で抑える。
「あなたの家の前に倒れていたのは、ただの偶然かしら?」
そう言い残すと、大家さんはあくびをしながらのんびり自室に帰っていった。
・・・偶然だろ。和神はそう思いつつ眠れる女性の居る自室に戻った。
初投稿で、拙い文章と挿絵ですみませんが、読んで下さった方々ありがとうございます。