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二十二話・決闘3

 俺たちは階段を登り、三階にある一室に入ることになった。


「気を使わずに座ってほしい、シンヤ殿」

「さあ、シンヤ。座ってちょうだい」


 セオルドとグリゼリスに促されるにようにして座る。

 対面にグリゼリスとセオルド。

 俺の横にサラリアとマインだ。

 和やかな雰囲気の中で話が始まった。

 セオルドはさっきまでの厳しい表情ではなく、気の良いおじさんのような空気を醸し出している。


「グリゼリスに想い人がいるなど初耳であったが、この場で会えてよかった。実はシンヤ殿のことは噂で聞いたことがあったのだ」

「え!? セオルド様が俺のことを!?」


 一体どういうことだ!?

 俺のことが王都でも話題になったのか?

 擬似天使化のことか? …………でもそれは流石にバレていないはず。

 だとしたら……………あっ! もしかして東條さんから!?


 俺の中で答えが見つかると同時にセオルドが話を続けた。


「噂の出所は決闘の相手なのだ、シンヤ殿」

「ア、アルフレッドですか!?」

「いや……第三騎士団団長のゼウス。この決闘の相手を申し出たのも彼からなのだ」


 むむ?

 確かにお互いに顔は知っているし、マリナたちとも知り合いだという話も聞いた。

 でも話したことはレギレウスの一件以来ないし、興味を持たれるようなことはした覚えがない。


「ゼウスはシンヤ殿のことを高く評価しているようだった。機会があれば是非手合わせ願いたいと熱望するほどに。私はゼウスのことを一介の騎士だとは思ったことはない。いつか歴史に名を残す傑物だと確信している。そのゼウスがシンヤ殿を評してこう言ってのけたのだ…………真の化け物だと。私はそんな話をこの街に戻ってくるまでに聞かされていて、シンヤ殿と会えるのを楽しみにしていたのだ。まさかその噂の御仁がグリゼリスの想い人だとは思いもしなかった」


 ゼウスが俺の何を見てそう思ったのか知らないけど、過大評価にもほどがある。

 かなり強くなったとはいえ、ちょっと前までただの高校生だったのに。


「ゼウスさんのその言葉は嬉しいですが、ちょっと大げさ過ぎて……」


 自信なさげに答える俺に、何故かグリゼリスが話に割って入る。

 ちょっと興奮気味で鼻息も荒い。


「シンヤ! あなたは自分の能力を過小評価しているわ! あなたの類まれな才能は、ゼウスの言うように化け物クラスよ! 実際にこの目で見たのだから保証するわ」


 俺の横に座ったサラリアとマインが、同調したように深く頷いた。

 そんな三人の様子を見つめていたセオルドは、目尻に皺を寄せて嬉しそうに笑った。


「はっはっは。グリゼリスにまでそこまで言わせるとは、噂は間違いなさそうだ。決闘の結果もどう転ぶか分からなくなりそうだな」

「あ! セオルド様。もし決闘でシンヤが負けたら、アルフレッドとの話はどうなるのですか?」


 グリゼリスの問いに、セオルドは口角を上げて狡猾な笑みを見せた。

 ほのぼのした空間に緊張が走る。


「決闘の結果などで、可愛い孫娘の婚約を決めるわけがないだろう。そもそも今回の婚約の話は、私を蚊帳の外に置いて話を進めていたばかりか、グリゼリスの意向すら無視していた。今回賛同した全ての貴族を……という訳にはいかぬが、黒幕たちにはそれ相応の処罰は下すつもりだ。その辺りは安心して任してくれても良い」


 グリゼリスは心底ホッとしたような表情を見せると、満面の笑みでセオルドにお礼を言った。


「ありがとうございます。セオルド様」


 そんなグリゼリスを温かい目で見つめるセオルド。

 セオルドの腕がゆっくり動くと、グリぜリスの頭をポンッポンッと何度か叩いた。


「グリゼリス、自分の将来のことは自分の意思で決めなさい。その決定に誰が反対しようとも、このセオルドだけは応援しよう」

「ありがとう……おじい様」


 国の丞相という雲の上のような地位にいた人でも、孫の前では良いおじいちゃんになるという珍しい光景を目にすることになった。

 この国の領主は怖い一面もありそうだけど、基本的には良い人のように思える。

 セオルドは俺の方に向き直ると、打って変わって真剣な面持ちに変わった。

 何を言われるのか怖い感じがする。


「実はシンヤ殿にいくつか質問があるのだが……もしよければ答えてはくれないだろうか?」

「できる限りはお答えします」

「そうか……ありがとう。シンヤ殿は私がリンカ王国の丞相だったということは?」

「ええ、知ってますよ」

「では、この国で勇者様が召喚されたという話しも聞いたことが?」

「ええ、それはもちろん。というか、さっきのパーティーで紹介していましたし」


 なんでそんな分かりきったことを聞いてくるんだろう?

 この国に住む人間なら誰だって知っていることなのに。


「当たり前の質問してしまい、申し訳ない。それではこれで最後の質問とさせて頂きたい」


 セオルドが謝罪の弁を述べると同時に、視線がルイス村長が俺の嘘を見抜こうとした時のように鋭くなる。


「ミナミオオトリ学校という名を聞いたとがあるだろうか?」

 

 不意を打つようにセオルドから出てきた単語。

 さっきまでの意味のない質問から、いきなり何かの核心をつく質問に変わった。

 突然のことで、知っているとも、知らないとも答えられない。


 どうしてセオルドがその名前を知っているのかは簡単に想像できる。

 嘘をついても東條さんがいるのだからすぐにバレるだろう。

 それなら……いっそのこと懐に飛び込んで、こっちも知らない情報を得る方がいい。


 少しの間の後、答えた。


「知っています。俺が通っていた学校の名前です」


 セオルドは驚きの表情を浮かべると共に、何度か小さく頷いた。


「…………なるほど。正直に答えてくれてありがとう、シンヤ殿」

「いえ……。その代わりと言っては何ですが、俺からも質問があるのですがいいですか?」

「ああ、何でも聞きいてくれて構わない」

「東條飛鳥……いえ、アスカ=トウジョウ以外にもこの世界に召喚された人がいるのでしょうか?」


 セオルドは瞳を閉じると、考え込むように白髪混じりの(アゴ)の髭をいじりだした。

 微妙な空気が流れ始めると、セオルドはマブタを開けた。


「これから話す内容は未だに公にはなっていない事実が混じっている。いずれは周知の事実になるはずだが、今は隠しておきたい情報なのだ」


 セオルドはそう答えると、俺、グリゼリス、サラリア、マインに視線を送る。

 そんなセオルドの様子に察したグリゼリスが席を立つ。


「私たちは外で待機しています。行きましょう、サラリア、マイン」

「了解した」

「はい、グリゼリス様」


 部屋の扉の閉まる音が聞こえると、セオルドは口を開いた。


「単刀直入に言わせてもらう。リンカ王国にて召喚された勇者の数はアスカ様を含めて2名。そして、それ以外の学友29名が同時に現れたのだ」

「え!? 合計31名もですか!?」


 となると、人数的には俺以外のクラスメイトと一致する。


「アスカ=トウジョウ以外の名前も、セオルド様はご存知なのですか?」

「勿論だ。もう一人の勇者であるユウタ=サイオンジ……その友人であるリュウノスケ=ヤマモト…………」


 セオルドは全ての召喚者の名前をソラんじていった。

 上がった名前は全て俺のクラスメイトたち。

 一年二組は全員この世界に来ていることになる。


 正直、クラスメイトには良い印象よりも悪い印象の方が強い。

 全員俺のことなんて基本無視だし、不良たちには土下座させられたり、無茶振りで面白いことをさせられたり、騙されたりと、今思い出しても少ししか良いことなんてない。

 そんな中でも東條さんは馬鹿にするでもなく、普通に話しかけてくれたことがある貴重な存在だった。


「それで、彼らはどんな状況なのでしょう? アスカ=トウジョウの姿を遠くから見ても、普通ではない気がしたのですが……」

「はっきり言って彼らの立場は危うい。国王の彼らを見る基準は明白で、どれだけ役に立ち、尚且つ歯向かわない存在なのかだ。もし彼らが……特に勇者であるサイオンジ様が大きな失敗をすれば、他の学友たちがどういう扱いになるのか読めないというのが現実。そして……国王に歯向かえば、たとえ勇者であろうとも処断することを躊躇わないはず。そんな状況の中、アスカ=トウジョウは勇者という重責に耐えられなくなり、心が折れてしまったのだ」


 セオルドの話を聞く限り、他のクラスメイトたちも苦労しているようだ。

 東條さんがあんな風になるんだから。

 でも、他のクラスメイトの為に何かをしようという気にはならない。

 セオルドからもう少し話を聞きたかったのだけど、ここで部屋の外からノックされた。


「話の続きは決闘後に行うとしよう」


 セオルドが立ち上がって部屋の扉を開けると、外ではグリゼリスたちが待っていた。


「おじい様、決闘の準備が整ったようです」

「そうか。では向かうとしよう」


 セオルドを先頭にして、俺たちは貴族たちが待ち構える広間に向かっていく。

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