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八話・迷宮でRTA

 翌朝目が覚めると、ティーファを起こして朝早くから出発の準備に取り掛かる。


「このローブはティーファがつけてくれ」

「ファッッ!?」


 ティーファが迷ったように首を傾げるが、アイテム欄から強引に装備させる。

 すると、ティーファの体を覆うように光の粒が集まりだした。

 光が収まると、ティーファの体にヨダレかけのような布が一枚付いていた。


 これが……あれだけの効果を誇る装備なのか?

 物凄く普通だ。

 というか、もはやローブですらないんだが……。

 まあ、効果が変わるわけじゃないからいいか!


「あ、でも擬似天使化した時は装備させてくれよな。裸はさすがに恥ずかしいし」

「ファッッ!!」


【神光衣アテナスのローブ】は特殊効果的に、ティーファが持つべき装備なのは間違いない。

 ティーファに魔法の即時発動とか反則もいい所だ。

 リキャストタイムに引っかからない限り、マシンガンの様に魔法が乱れ飛ぶはずだ。


 当面の目標はレベルアップと、素材集めだな。

 昨日の内に用意した食料を携帯すると、準備は終わった。


「よしっ! いくか!?」

「ファッッ!!」


 まだ朝日が出て間もない時間帯に、そっと家の扉を開ける。

 一応書き置きもしてきたし、マリナたちには昨日の内に言ってあるから心配はしないだろう。


「あ、シンヤ!! もう行くのですね?」


 家の奥の方からバタバタと音がすると思ったら、寝癖がついたマリナが慌ただしく後を追いかけてきた。


「うん。今日は昼から予定があるから、早めに行って、肩慣らしをしてから帰ってくるつもりです」

「予定……ですか?」

「ちょっと冒険者学校に行こうと思って」


 実は昨日、冒険者ギルドから帰る途中に、グリゼリスと偶然会った。

 その時に課外授業での無礼への謝罪と、助けてもらった感謝を同時に受けた。

 と同時に、一つ相談事があるという話だった。


 過ごした時間は短いけど悪い子じゃないし、一時でも先生と生徒という関係だったのだ。

 真剣な目で迫られたら断ることはできない。


「そうですか……。気をつけて行って下さいね」


 マリナがスッと腕を後ろに回し、手に持っていた何かを隠した。


「マリナ、何か持ってきてくれたの?」

「あ、いえ、お昼の腹ごしらえにお弁当を作ったのですが………今日はいらなかったみたいですね」

「え? せっかく作ってくれたんだから、持って行くに決まってるよ」

「……でも」


 必要かどうかは問題じゃない。

 恐らく、俺が寝た後にでも作ってくれたのだろう。

 その気持ちが嬉しかった。


 マリナが後ろに隠した手提げ袋を強引に奪うと、自然と笑顔が出た。


「ありがとう。行ってきます」

「あ………………行ってらっしゃい」


 マリナは呆気にとられた様にぽかーんと口を開けると、少し経ってからようやく言葉が出てきた。

 朝日を背に、ティーファと並んで走り出した。







「はは! ティーファよ! 俺の速さについてこれない様だな」

「ファァァァァ…………」


 ティーファは迷宮の前にたどり着くと、力尽きたようにコロリとお腹を見せて寝転がった。

 ティーファのお腹が荒い呼吸とともに上下に激しく動く。


 素早さ対決ではさすがに俺の勝ちだ。

 ティーファは自分の限界以上の速さで走ったせいで、迷宮に入る前から死んだような状態だ。

 たまには俺もやるっていう所を見せておかないとな。


「あら、シンヤ君にティーファちゃん。お久しぶりね!」


 横から聞こえてくる声は久しぶりのべネッサだ。

 ホーリーロードのメンバーが西の方から続々と現れた。


「あああ!! シンヤの兄貴!! お久しぶりです!!」


 カリスが俺たちを発見すると、超ダッシュでこちらに駆け寄ってくる。

 他の面々はそんな様子をニコニコしながら眺めている。


「カリスさん、かなり久しぶりですね」

「兄貴こそどうしてたんですか!? あの事件以来めっきり見なくなったので、心配してたんです!」

「ちょっと諸事情で、冒険者活動を休止してたんです」

「それって腕のことかい? でも見た所腕はしっかりとあるようだけど……」


 モルスが怪訝な表情を浮かべると、ゴーンがバシバシとモルスの肩を叩く。


「ガッハッハ。そんな噂を信じてたのか!? 俺はあのシンヤが負傷するなんて想像さえできなかったぞ」

「イタッッ!! ゴーン痛いって!」

「なんだかんだ言って、ゴーンも嬉しそうじゃない?」


 ナターシャが魔法使いを気取ったフードを外し、俺たちの前に顔を晒した。

 あ、今の天職は本当の『魔法使い』で合っているのか。


「あっ、今また失礼なこと考えてたでしょ!」


 ナターシャが俺を睨み、頬をいっぱいに膨らませると、べネッサが膨らんだ頬を指先でつつく。

 するとプッという音が鳴る。


「ほらほらナターシャ。久しぶりに会った一言めがそれだと失礼でしょ。それにそんな顔していると、可愛い顔が台無しよ」


  べネッサに促されるようにして、ナターシャがサッと手の平を上げた。


「久しぶり……シンヤ」

「久しぶり、ナターシャ」


 前までよりもぎこちない感じはなんだろうか?

 よく分からないけど、まあいいや。


「兄貴!! 今日ここにいるっていうことは活動を再開ですか!? 」

「はい。今日からもう一度、迷宮で活動を始めます」

「じゃ、じゃあ、早速合同作戦はどうですか?」


 カリスはキラキラとした瞳をこちらに向けて様子を伺ってくる。

 だけど、今日はちょっと無理だ。

 今日の目的の一つが上がった敏捷値で、どれだけ速く迷宮の奥地に進めるかを試してみることだ。


「ゴメンなさい。今日は色々試して見たいことがあって。来週なら時間は取れるので、その時に是非」

「ほ、本当ですか!? 兄貴!! 絶対ですよ!!」


 カリスは俺の両手を握りしめると、激しく上下に揺さぶっていく。

 興奮した犬のようでちょっと面白い。


「ホーリーロードは転移石を使うんですか?」

「ええ、そうよ。直接13層に行くの」


 苦しそうに寝ているティーファのお腹を摩っていたべネッサが答えた。

 ティーファよ、その体調で迷宮は大丈夫なのか?

 その様子に不安になりながらも、ティーファなら大丈夫かと思い直す。


「ではここでお別れですね。俺たちは1層から進むので」

「そうなの? 残念ね」



 べネッサたちはお辞儀をしてから迷宮の入り口に入って言った。


「ティーファ、そろそろいけるか?」

「ファッ……」


 まだ少し呼吸は乱れているけど、ティーファは立ち上がった。

 そのまま俺に近づくと、肩の上によじ登ってくる。


「今日はそこで座ってるか?」

「ファッッ!!」


 ティーファの返事を聞くと、迷宮の入り口に入って行く。

 すると、いつものギルド職員のおっちゃんが、椅子に座って冒険者たちを見送っていた。


「おう、坊主じゃねーか。あの日以来だな!」

「お久しぶりです。また今日からよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくだぜ。あの日、坊主が迷宮の異変を教えてくれたお陰で、冒険者を素早く招集できた。街の被害を最小限に食い止められたのも、 坊主のお陰だ。街の人間を代表して礼を言う。ありがとう」


 ギルド職員のおっちゃんが椅子から立ち上がると、深々と頭を下げた。


「いや、そんなの当たり前のことをしただけです。頭を上げて下さい」


 ギルド職員のおっちゃんは頭を上げると、ニコリと笑い「無事に帰ってきてくれよ」と言って送り出してくれた。


 今日は朝からヤル気が出ることが多い。

 よしっ! 頑張るぞ!!



 迷宮の1層を走り抜ける。

 2層に向かう道は暗記しているので、迷うことなく進んでいく。

 所要時間、僅か2分で2層の階段に到着。


 ちょっと気になっていたのは、走ることでのティーファに対する影響だった。

 かなりの速度で急な方向転換を繰り返すので、肩に乗っていると風圧で落ちたり、怪我をするんじゃないかと考えていたのだけど、ヨダレかけが微かに光り、色々な衝撃を吸収しているようだ。

 ティーファの様子を見ると、至って快適そうだった。


 1層をまた2分、3層を約3分で突破。

 なんという驚異的なラップタイム。

 このペースなら10層まで行くのに一時間もかからない。

 しかも、ティーファの召喚魔法なしでだ。


 ついに俺の時代がやってきた。

 いや、時代が俺に追いついてきたのだ。



 4層は草原が生い茂る、広大な大地が続いていく。

 こういう場所でこそ、俺のスピードが活きてくる。

 これまでは壁に囲まれた迷宮だったので、どうしてもスピードは抑え気味になる。


 ここから先は全力で行く!


 4層から活動する冒険者の数も飛躍的に数を増す。

 その理由は、4層からが冒険者として安定して生活をできるラインであり、草原という死角が少な居場所で、罠も殆どなく、生存率も高いからだ。


 それと、今は冒険者学校の卒業を控えた時期であり、クラン管理員もそれに備えて、無名の新人冒険者を取りたがらない。

 そういうこともあり、1層、2層、3層は人が少ない。


 ここからの行動は目立つけど、大丈夫だと思う。

 なぜならーー。



 二、三回草原の上で飛び跳ねて感触を確かめると、大地を思いっきり蹴り飛ばす。

 ズバンッッという土が抉れる音を背に、一気に最高速度まで上げていく。

 パンッッ、パンッッという空中を叩く音が響く。

 空気を振動させながら、草原の上空を突き進む。



 誰かが異変を感じて空を見上げても、その時には俺の姿はもうない。

 恐らく、音速すら越える速度で走っている。

 走りだしてからすぐに迷宮の出口が見えてきた。


 4層突破タイム。

 7秒。


 更に驚異的な記録が生まれた。

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