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閑話・黒髪の勇者3

 私立南鳳学園高等部、一学年二組の生徒たちの生活は激変した。

 彼らは生活の安全を保障される代わりに、この国の戦力となることを約束させられたのだ。

 だが、今の彼らでは力が足りない。

 国の剣という役割を果たすためにはレベルを上げるしかないのだ。


 その際、戦闘職と生産職に別れることになった。

 生産職は城内でそれぞれの職にあった物を作り、レベル上げを行った。

 戦闘職の生徒は王城内の地下にある、王家御用達のダンジョンで日々力を蓄えることになった。

 戦闘職内でも、二つのパーティーに別れて行動することになった。


 第1パーティが、勇者である西園寺勇太を中心にしたメンバーである。


 西園寺勇太・勇者

 真中鉄平・ 聖騎士

 山本龍之介・竜騎士


 樋口結衣・治癒術師

 西田葵・魔法使い

 中村愛奈マナ・召喚士


 井上光貴・魔法剣士

 西本公平・戦士

 佐々木心愛ココア・探索者



 第2パーティーが、勇者である東條飛鳥を中心にしたメンバーである。


 東條飛鳥・勇者

 中野里奈・治癒術師

 加藤夏樹・弓使い

 若槻舞・剣士


 古川京介 戦士

 田中孝司 盗賊

 矢沢修平 拳闘士


 加賀美莉飛斗リヒト・魔物使い

 奥村麗音レオ ・賢者



 それぞれの仲の良さと、前衛、後衛のバランスをとった結果、配置は決まった。

 当面の目標はレベル上げだったのだが、その前に彼らは生死を賭けた戦いに慣れなくてはいけなかった。

 この世界の命の重みは日本にいた時とは違う。

 モンスターと言えど、普通の高校生が命あるものを殺すことは容易ではなかった。

 結果、すぐに順応していった子と、できない子に別れた。



 第1パーティーは連携も取れ始め、順調にレベルを上げることができた。


 だが、第2パーティーは召喚から三ヶ月が経っても、未だに戦闘面でも人間関係でもぎこちなかった。

 その原因は若槻舞を中心とした女性陣と、古川京介を中心にした男性陣との不和である。

 古川京介、田中孝司、矢沢修平の三名は学内でも有名な不良少年で、この世界に来る前から度々問題行動を起こしていた。

 この三人の考えは簡単だった。

 さっさとレベル上げを終わらして、この堅苦しい王城から抜け出したいというもの。

 自由な場所でやりたい放題をしたかったのだ。


 そんな三人を苛立たせたのが東條飛鳥だった。

 東條飛鳥は未だに戦闘に慣れることなく、戦いの最中でも怖くて目を瞑ってしまう有様だった。

 勇者であるが、最も隙の多い東條は中衛に回されることになった。

 そんな東條に嫌味を言う三人と、東條の友達で最も気の強い若槻が言い争う場面が目立った。

 加賀美と奥村はそれぞれ一匹狼気質の人間で、積極的に会話に入ることはない。


 すでにチームとして形を成していなかった第2パーティー。

 そこに追い打ちかけるように、大きな事故が起こった。



 戦闘中に若槻舞が死んだのだ。



 前衛である、古川、田中、矢沢、若槻の四名は三体のオークと対面していた。

 オークの側面からの攻撃に、本来は古川が対応すべきだった。

 しかし、古川がオークを避けたことで、オークが振り下ろした棍棒が若槻の頭部を直撃したのだ。


 若槻の頭部はオークの怪力に押し潰され、即死の状態だった。

 その血をまともに受けた東條は錯乱状態に陥り、そんな東條を無理やり引っ張って、命からがら第2パーティーは逃げ出すことになった。


 勇者という特別な存在だからこそ、誰もが期待を込めていたのだ。

 責任を果たせなかった東條に向けられる辛辣な言葉と、痛くなるほどのクラスメイトからの視線。


 東條は若槻の死後、部屋を閉ざして一歩も外に出ることはなかった。


 心の折れた勇者に、リンカ王国の重臣たちも苦慮していた。

 だがそんな東條の穴を埋めるように、もう一人の勇者は凄まじい成長を見せていた。

 重臣たちの間には、この国の剣は西園寺だけでも十分だという認識が広まっていく。


 勇太たちの急激な成長の裏にはニジン王の存在があった。

 あの日、結衣の手をいやらしく握った時のニジン王の顔は、獣のように理性で抑えきれない欲望を覗かせていた。

 勇太たちの心に宿った不信感は未だに拭えていなかったのだ。

 その不信感が勇太たちの成長を促すことになった。



 そんな折、セオルドの領地であるヴァルハラ迷宮都市が、モンスターで溢れたという情報が舞い込んだ。

 その機を見逃さなかったのが二大公爵家の一つである、ホルスタン家であった。

 ホルスタン家の当主であるガーデルは、王とセオルドの不仲を利用し、ニジン王に進言を行なった。


「自らの領地を管理できない者が、国家を管理することができるでしょうか? 確かにセオルド卿には数多くの功績がございます。ですが、乱世に向かうこの世界で、私はこの国の行く末を考えるに、セオルド卿では力不足だと考えます」


 ニジン王はガーデルの話に納得したように頷くと、内密に手紙を出し、セオルドに丞相の任を自ら降りろと命令した。

 ニジン王としては口うるさいセオルドがいなくなることは、願ってもないことだった。

 穴のなかったセオルドを易々と罷免するわけにはいかなったが、今回の件が罷免をするいい機会を生んだのだ。


 セオルドは王からの信任がなくなったのを実感していたが、できる限り国のために尽くすことを第一に考えていた。

 しかし、ニジン王からの手紙には選択肢すら残されていなかった。

 もはや、セオルドが国家の運営に携わる術は残っていない。


 あるとすればただ一つ……。

 だが、その選択肢を取ることは、死んでいった親友を侮辱することに繋がる。


(ああ…………。この国は激動の時代の波にさらわれてしまうのだろうか……。この国の民は一体………。こうなってしまった以上、私がすべきことは自らの領地と市民を守ること……。レイオールよ……あの日、お前がとった行動は正しかったのかもしれん……)


 リンカ王国は過去に、三大公爵家と呼ばれた時代があった。

 ニジン王の性質を危ぶみ、クーデターを起こしたシャールロン公爵家が取り潰しとなり、今の二大公爵家となったのだ。

 その時に率先して鎮圧したのがセオルドであり、シャールロン家の当主、レイオールとは親友の間柄だった。


 セオルドがとった行動は国家、国民のため。

 レイオールがとった行動もまた国家、国民のためであった。


 同じ志を持ちながら、互いに進んだ道が違った二人。



 セオルドはこの国の行く末と、自らの進む道を考えながら王に提案した。

 中央に影響力を残さない条件として、勇者である東條飛鳥を要求したのだ。


 ニジン王にとって、勇者でありながら女という存在は希少価値が高い。

 しかしその幼い見た目と、白人と違い、目鼻立ちがはっきりとしない容姿は、ニジン王の好みから程遠かった。

 女性としても興味はなく、戦えない勇者などくれてやってもよかった。


 しかし、セオルドにとって東條飛鳥は違う意味を持つ。

 勇者という存在は一つのシンボルであり、勇気を与えてくれる象徴なのだ。



 こうして、レギレウスの襲来から五日という早さで王都の政局は決着がついた。



 リンカ王国歴492年3月5日。

 セオルドと東條飛鳥を乗せた馬車が、ヴァルハラ迷宮都市に向けて出発したのだった。


 そして、東條飛鳥の後を追うように、三人の男が密かに王都を抜け出した。


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