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閑話・黒髪の勇者2

 北リメリア大陸西海岸に立ち並ぶ国家群。

 冷帯から温暖な気候までを海に沿うように、縦長の国家を形成しているリンカ王国。

 リンカ王国の歴史は古く、現リンカ王国の王であるニジンまで約500年も続く伝統ある国家である。

 その成り立ちは覇王ロードリックによって建国された、ガルダナ統一王朝が分裂した時に始まる。

 北リメリア大陸を圧倒的な武の力によって統一した覇王ロードリックは、中央集権の体制を敷き、強権的な政治を行った。

 ロードリックは、国ごとに異なっていた言葉、文字、通貨、法を、ガルダナ統一王朝に合わせることを全ての人々に強制した。

 ロードリックは、国内の全ての基準を一つにまとめることに執着したのである。


 だが、ロードリックの死後、抑圧に耐えかねていた人々は一斉に蜂起し、それぞれが自らの旗を掲げた。

 覇王ロードリックが北リメリア大陸を制覇してから120年後、ガルダナ統一王朝は完全に瓦解した。

 法も道徳もなくなった世界で、人々は互いに騙し、奪い、争った。


 長い暗黒時代の幕開けであった。



 長い時の中で幾つもの国家が興り、消えていった。

 しかし、戦争を止めようする国は出てこなかった。

 その理由は覇王ロードリックが作り上げた国家という形、概念だった。


 王たちが目指したのは覇王という頂点の称号。


 北リメリア大陸を制覇し、次なる支配者を目指すことが、王となる最低限の資格であると考えられていた。

 覇王という称号が、束の間にできた平和ですら邪魔をした。



 北リメリア大陸は血で大地が染まり、死臭漂う暗黒の大陸となった。

 人々の怨嗟の念は限界を越え、遂に形となって姿を現した。


 大気中を満たし始めた悪性の魔素が、ダンジョンから、魔族の出現を促したのだ。


 躍動する魔族と魔物の群。


 世界は北リメリア大陸から滅びを迎えようとしていた。


 人々が世界に求めた救いを呼ぶ声のお陰なのか、それとも………。


 魔の力に相反するように現れた、勇者と呼ばれる五人の存在。

 彼らは圧倒的な力で魔物を葬り、世界の混乱を沈静化に導いた。


 世界を救った勇者という存在のその後を知るものは殆ど存在しない。

 そして、五人の他にも召喚された男がいたことも知られていない。

 彼は歴史の陰に隠れ、勇者たちを陰ながら支え続けた。


 リンカ王国の王の出自について記載されている本は現存しないが、その召喚された男が作り上げた国がリンカ王国であった。




 △▲△▲△▲




「アツシ………我が国の初代王と同じ名であるとはめでたいな」


 近藤篤を含め、生徒たちは玉座に踏ん反り返るニジン王の前に並ばされていた。

 ニジン王は先王が若くして病死してしまったため、12歳という若さで王となった。

 即位してから数年は大人しく王としての使命を全うしていた。

 だが、ニジン王は成長とともに人並外れた欲を示し始めた。


 ニジン王は性欲の虜になったのだ。


 下級貴族の子女、街の娘や奴隷、妙齢の女性と見るや次々と手を出した。

 ニジン王は政務を重臣に任せて、寝室にこもって昼夜を問わずに行為を行った。

 遂には重臣の妻や娘にも手を出し始め、公爵家がクーデターを起こすという騒ぎにまで発展した。


 そのクーデターも公爵家であるセオルド=モンジューが中心となって、完全に鎮圧することができた。

 だが、ニジン王の意識が変わることはなかった。

 三十半ばになっても未だに性欲が衰える気配がないばかりか、強まっている節もある。

 重臣たちの多くがニジン王を恐れて、妻子を領地に残していた。


 そんなニジン王の御目当ては勇者と呼ばれる伝説の存在。

 それが女であれば、自分の物にしたいと考えていた。

 だが、ニジン王の予想に反して大勢の人々が現れることになった。

 今この瞬間、ニジン王は今日の床の相手を一人一人品定めをしているのだ。


 鑑定が順調に終わり、一通りの説明を受けた後、ニジン王は列に並ぶ一人一人と会話をしていた。

 近藤篤の次に並んだのは樋口結衣である。

 樋口結衣は日本人の母と、アメリカ人の父とのハーフで、この国の人間に近い容姿をしている。


「ほう、そなたは治癒術師か。珍しい職業であるな」

「は、はい」


 ニジン王は結衣の右手を乱暴に掴むと、ヤラシイ手つきで揉んでいく。

 結衣の肌の弾力に、ニジン王の腹は決まった。

 ピクピクと眉を動かし、静かに時が過ぎるのを我慢する結衣。


 そんな結衣の状況に、怒りの表情で玉座を睨んでいた男がいた。

 丞相であるセオルドは瞬時に王の腹づもりを理解したのだ。

 それとともに、不穏な空気も感じ取っていた。


(まさか、国王は勇者様一行にまで手を出されるおつもりだとは。国王の今の行動で空気が完全に変わった。我々が勇者様たちを品定めしていることと同じように、勇者様方も我々を品定めをしているのだ! 何という馬鹿なことをしてくれる!! 本気で国を潰す気なのか!?)


 セオルドは言いようのない苛立ちを感じながらも、自らの仕事を全うすることに集中する。

 内心とは裏腹に、冷静なセオルドの声が玉座の間に響いた。


「国王、今日はそれくらいにしておきましょう。勇者様たちも今日この世界にやってきたばかりなのです。お疲れなのですから、すぐにでも休息を取っていただくべきです」


 軍事に内政に、この国の(マツリゴト)を一手に引き受けるセオルドに進言されれば、ニジン王であっても無下に断ることはできない。

 ニジン王は結衣の手を離すと、静かに頷いた。

 ニジン王が素直に話を聞いたことにセオルドは安堵とすると、指示を飛ばしていく。


「ホーネット、一人一人に給事の手配をしなさい。それと、同性の担当になるように注意しなさい」

「はっ!!」

「へクスは食事の手配を早急に行いなさい」

「はっ!!」


 一通りの指示が終わると、セオルドは生徒たちを異なる部屋に導いていく。


「では勇者様方、それぞれのお部屋のご用意は出来ております。それぞれ騎士がご案内致しますのでついて行って下さい。お食事のご用意ができましたら、その時またお呼びします」


 生徒たちはセオルドの指示に従って、玉座の間を後にした。





 玉座の間に残ったセオルドとニジン王の二人。

 セオルドは口を開くとキッパリと言い切った。


「国王、勇者様たちに手を出すのはおやめ下さい。下手なことをすれば勇者様たちの反感を買い、この国は滅んでしまいます」



 ニジン王は考えた。


 確かに国が滅ぶのはマズイ。

 自分のやりたい放題の生活がなくなってしまい、抱きたい女も抱けなくなる。


 だが、誰かに言われて抱きたい女を抱けないのも気にくわない。

 自分はこの国の王なのである。

 たとえ勇者であろうとも、この国にいる限りは王が法であり、王に跪くのが筋であると。


(あの女を今日抱きたい!)


 ニジン王の下腹部が滾りだすと、セオルドは声を張り上げた。


「国王!!!! いけません!!」


 セオルドの怒鳴り声のような一喝に、ニジン王の下腹部は勢いをなくしてしまう。

 ニジン王は血走ったようなセオルドの瞳を見ると、完全に気圧されてしまい、セオルドの言葉に頷くしかなかった。



 セオルドのこの言葉により、勇者とリンカ王国との対立は避けられたが、ニジン王はセオルドに恨みを持つようになった。

 この日からセオルドはニジン王に遠ざけられ、政局での力を徐々に失っていった。

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