五話・波乱の予感
「なんていう驚異的な破壊力なんだ……」
「ファッッ!?」
「ああ、こっちの話だ」
ティーファが起きてきたから、二人でBPの使い道を決めることにした。
前からティーファには使いたいだけ使うといいとは言っているんだけど、ポイントはまだ使っていない。
明日の夕方には擬似天使化の魔法で、左腕を回復させることができる。
今日の内に色々なことを決めておく方がいいだろう。
「ということで、ティーファ! 使い道は決まったのか?」
「ファッッ!!」
ティーファは元気よく返事すると、ステータス画面を出せと急かしてくる。
ティーファは早速スキルの画面を見ていく。
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名前 :ティーファ
年齢 :0
性別 :雌
種族 :神鳥
職業 :銀光の神鳥
レベル: 14
<スキル>
【BP】290
【HP】1400
【MP】3500
【SP】1100
【筋力】45
【器用】24
【敏捷】56
【頑強】57
【魔力】604
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ティーファの場合、ステータスは俺の魔力を吸うことで確実に成長していっている。
やっぱり欲しいのはスキルのようだ。
<スキル>
【創造魔法】レベル2
【召喚魔法】レベル3
【火魔法】レベル4
【水魔法】レベル1
【風魔法】レベル1
【土魔法】レベル2
【光魔法】レベル1
【回復魔法】レベル1
これがティーファの持っているスキルの一覧だ。
どうやらティーファは【リキャストタイム短縮】のスキルを取るつもりのようだ。
これがあればティーファの【召喚魔法】には鬼に金棒。
BPを90使って【リキャストタイム短縮】をレベル5まで習得した。
更に【火魔法】をレベル6にして35ポイント。
【回復魔法】をレベル3にして15ポイント。
【水魔法】【風魔法】【土魔法】をそれぞれレベル3にして18ポイント。
ここでティーファの翼が止まると、満足したように声を鳴らした。
「ファッッ!!」
「うん? これでいいのか? まだポイントは余っているぞ?」
ティーファは首を横に振ると、俺のステータス画面を指し示す。
「俺にポイントを使えといっているのか?」
「ファッッ!!」
ティーファはそうだと言わんばかりに、首を縦に振った。
うーん、これだと前回使った分も含めて平等じゃないんだけど………。
「本当にいいんだな?」
「ファッッ!!」
ティーファは嬉しそうに俺の顔を見た。
ティーファがそう言うなら今回は使わせもらおう。
「ありがとうな。ティーファ」
「ファッッ!!」
俺のステータス画面を見て、羽をバタつかせて喜びを表現する。
せっかく使わせてもらうんだから、ティーファのためになるスキルが欲しいところだ。
とすると……【錬金術】だな。
このスキルでティーファの装備を作ってあげることができる。
まあ、貴重な素材はすぐには無理だけど、買うよりは良いものが作れるだろう。
この世界の装備は効果が薄いのに、べらぼうに高いのが多い。
超レア素材である【暗黒神ゼーガの肉片】も手に入ったしな。
【錬金術】スキルのレベル1を取ってみる。
レベル1のスキルの効果は【アイテム精製】
これだと武器や防具は作れそうにない。
次が【アクセサリー精製】になっている。
レベル2の【アクセサリー精製】も取ってみる。
するとようやく【武具精製】の名前が現れた。
レベル3の【武具精製】も取っておく。
次の【錬金術】レベル4のスキルは【魔力付与】になっている。
説明欄を読んでみると、精製するアイテムに所有者の魔力に応じた力がアイテムに付与されるらしい。
ここまで使ったBPは60ポイント。
残りBPは72しかない。
次の【魔力付与】を取るには40ポイント必要になる。
どうしよう?
なんかヤバいことを思いついた気もするし、ここは取っておくか。
【魔力付与】の項目を念じると、更にレベルが上がった。
最後に【信仰強化】と【偶像崇拝】の二つのスキルを取って終わりにした。
この二つは実際に使って、効果を確かめてみないと分からないことが多い。
この二つで8ポイント使い、残りポイントは24だ。
ある程度はもしものために残しておく必要がある。
少し前に比べればかなりBPに余裕があって、取れるスキルも増えている。
次のレベルアップで魔力の強化と【神速剣】のスキルを取れるだろう。
明日の擬似天使化が楽しみだ。
【魔力付与】でどれだけの装備が出来るんだろうか?
気になってしょうがないが、明日のために早く寝よう。
俺とティーファは一緒のベッドで眠りについた。
翌朝、眼が覚めるとマリナは早々に冒険者ギルドに向かった。
そういえば昨日は会議のようなものがあると言っていた。
今日は夕方まで何をしようか?
いつものように片手で剣を持って振るい始めると、自分の予定の無さに愕然とする。
せっかく異世界にやってきて最近は暇をしているのに、やっていることは街をぶらぶら散歩するか剣を振るうことだけ。
明日は迷宮探索に戻ることだし、俺も久しぶりに冒険者ギルドに行って、モンスターの勉強でもしようかな。
ルルとニョニョも街の寺小屋みたいな所で勉強をしに行くことだし。
素振りを一時間。
基礎体力練習を一時間こなすと、寝ているティーファを籠に移して家を出た。
「よお! マリナちゃんの所の兄ちゃん! 今日もお出かけかい?」
近所のおじさんが声をかけてきた。
最近は俺の顔も知られるようになってきて、マリナの家に居候している男ということになっている。
近所の評判は悪くない……はず。
「はい。今日は冒険者ギルドへ行きます」
「あれ? 兄ちゃんも冒険者ギルドの関係者かい?」
「いえ、違います。俺は一応冒険者です」
「そうかい。それは大変だなぁ。怪我しないように頑張ってな」
「ありがとうございます」
近所のおっちゃんとの世間話を終えて、北区にまでやってきた。
北区には大きな建物が並んでいて、公爵家の屋敷やそれ以外の貴族の屋敷が建っている。
魔術ギルドという組織の建物も存在する。
魔術ギルドは冒険者ギルドと対立しているわけではなく、魔法を使える人は両方に所属していることが多い。
魔術ギルドは魔法使いの権利や地位を高めるために存在し、依頼があれば報酬を受けて、クランにギルド員を派遣したりする。
一回建物の中を覗いて見たいけど、敷居が高そうで厳しい。
俺、まだ魔法使えないしな。
色々考えていると冒険者ギルドに着いた。
掲示板には何が書いているかな?
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特集記事。
最も人気のクラン管理員は誰の手に?
まず筆頭に挙げられるのはグランス=ホークウッド管理員。
彼の担当クラン筆頭は迷宮都市最強と呼び声高い『竜王の血脈』
その傘下にはCランクの『ドラゴンフォール』も存在し、収入もクラン管理員で断トツトップを誇っている。
次に名が挙がるのはジェイコブ=バーバリン管理員。
『竜王の血脈 」と並ぶB級のクランである、『地の底を這う影』の担当である。
今となっては迷宮都市ただ二つのB級のクラン。
人が集まるのも無理はないだろう。
そして、今をときめく『ホーリー・ロード』の管理員である、アンジェリカ=パスタール。
今や彼女の名前を目にしない日はなくなった。
ギルド職員の虐殺を奇跡的に回避し、宙ぶらりんになったクランを一手に引き受けるその度量と人気は計り知れない。
だが、そろそろ容量に限界がきているとも見て取れる。
そして最後に筆者が押したい管理員がいる。
名はマリナ=リシュタルト。
別名、死神のマリナと呼ぶ者もいる。
10層を突破したという『エンジェル・ロード』の管理員でもある。
マリナ管理員の過去は遡れば遡るほど悲劇に見舞われている。
両親の死に、担当クランの壊滅……関わった者の多くは不幸にあっている。
だが……それは果たして彼女が原因だったのだろうか?
筆者はそんな迷信に近い噂話を信じる気にはなれない。
彼女の持つ知識量は管理員でもトップクラスで、情に厚く、人柄も良い。
そして何よりも美しい。
現在は担当クランがただ一つしかないという事実が、彼女の人気を底上げする要因となるかもしれない。
冒険者学校の卒業を間近に控え、新人冒険者の争奪戦はもう始まっている。
優秀な者はすでに内定をもらっているだろう。
今年の人気トップは誰の者になるのか?
結論を言うと、筆者はマリナ=リシュタルトを押したいと考えている。
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マリナのことが書いてある。
この筆者、絶対にマリナのことが好きだろ!
ちょっと贔屓していると思う。
他の人は性格とか容姿とかまで書いてないのに。
まあ、マリナがクラン管理員として活躍するのは嬉しいけど。
でも今まで独占していたから、これから違うクランも入ってくるとなると、ちょっと寂しい気もする。
『他のクランを先に処理するので、しばらく待っていて下さい』とか言われるんだろうな。
少し切ない気持ちになりつつも、冒険者ギルドの扉を開いた。
一階のホールでは依頼書が壁に貼られていて、多くの冒険者がその紙を穴が空くほど見ている。
取り敢えず、マリナの所に行ってみるか!
モンスター図鑑のことも聞いときたいし。
二階のマリナの元に向かうと、何か騒ぎが起こっているようで、人集りが出来ている。
何か嫌な予感がしたから、人混みの中を割って入る。
「どうしてだよマリナ!! 俺じゃダメなのか!?」
「申し訳ありませんが、その好意には答えることができません」
男の荒々しい声と、マリナの声が聞こえてくる。
言い争っているというより、男が一方的にマリナに言い寄っている感じだ。
「じゃあ、せめて俺のクランを担当してくれよ!」
「………申し訳ありません。今は他のクランを担当する気は無いのです」
「そんなの嘘だろ! 下の掲示板にも担当しているクランは一つしかないって書いてたぞ!!」
人混みの中を揉みくちゃにされながら、ようやく先頭に出ることができた。
というかみんな周りから見ているだけで、なんでマリナの手助けをしてあげないんだよ。
マリナが俺の方を見ると、目をパチリと開き、少し安心したような顔をした。
「シンヤ!!」
「マリナ!! この騒ぎは一体どうしたんだ?」
マリナの机に駆け寄ると、若い男が俺の存在に気がついた。
ジロリと俺の顔から足下まで視線を動かす。
そして少し鼻で笑った。
「あんたが、エンジェルロードのシンヤか?」
「ああ、そうだが?」
はっきり言って、マリナに対する態度でムカついていたし、見下した態度もちょっとムカついた。
男は勝ち誇ったようにこう言った。
「あんたからならマリナは簡単に奪えそうだ。言っておくが俺は狙った女は逃がさねえ」
「で、言いたいことはそれだけか?」
男の言葉に俺もプッツンと切れていた。
いつ男が襲ってきてもいいように、臨戦態勢に入る。
「ああ、それだけだ。不細工なおじさん、じゃあな」
男がその場を発つと、周りを囲っていた人混みが男に従うように一斉に動き出す。
今の人混み、全部がこいつの仲間だったのか?
どういう冒険者なんだ?
「ありがとう。シンヤが来てくれて助かりました」
「マリナ! 今の男は一体?」
マリナは疲れ果てたように、机にうつ伏せになる。
「はぁあああああ。今のは今年冒険者学校を卒業予定のアルフレッド=ヴァイデン。コーリン=ヴァイデン子爵の次男です」
「貴族の息子? どうしてそんなのが冒険者に?」
「たまにそういう酔狂な人が現れるんです。下手に人脈や権力を持っているから凄くややこしいのです」
「マリナのことを俺の物にするとか言ってたけど……」
マリナはガバッと顔を上げると、心底嫌そうな顔をした。
「冗談ではありません! 誰があんな人! 絶対に無理ですから」
「……そうだよな。マリナがあんな奴に……。でもあいつしつこそうだった」
「三日前くらいに現れてから酷くなっていきます」
「えっ、三日も前から? そんなこと知らなかった……」
そんな重要なこと、俺に一言でも言ってくれたら良かったのに。
マリナは申し訳なさそうに、視線を下に落とした。
「ゴメンなさい。シンヤも腕がなくて大変な時期だから、心配かけないほうがいいかと思って…… 」
違う……。
そうじゃないんだ……。
「違うんだ、マリナ! 心配なのは何も言わずに、取り返しのつかないことになることだ。俺って、マリナにとってそんなに信頼できない人なのかな?」
何故か言わなくてもいいことまで口に出してしまう。
女々しいとも思うけど、言わずにはいられなかった。
「…………いえ、シンヤは誰よりも頼りになります。亡くなった父のように全てを預けられる存在です。…………だからこそ、怖かったのかもしれません。そんな存在に全てを任せて、またいなくなってしまうことが…………。シンヤはずっと…………私のそばにいてくれますか…………?」
そうか……。
マリナが肝心な所で人に頼ろうとしないのは、失う怖さのあらわれ。
大切な人が次々に亡くなったトラウマなんだ。
捨てられた猫のように揺れるマリナの瞳を見て、何も考えずに口を開いていた。
「ずっとそばにいる! 俺は絶対に死なないから!」
マリナは椅子から飛び出し、俺に抱きついてきた。
力のこもった抱擁に対して、包み込むように優しく抱き返した。




