二話・魔法武具
防具屋さんの中に入ると、色々な装備が目に入ってくる。
さすがは迷宮都市というだけあって、品揃えは豊富だ。
店主のおじさんの視線が俺たちの方を向くと、「いらっしゃい」と野太い声が聞こえた。
「ファッッ!! ファッッ!!」
ティーファが興奮気味に店内を駆け回る。
それにルルとニョニョが続いていく。
「こら! ルル、ニョニョ、お店の中で暴れないの!」
「「はーい!」」
最近冒険者たちの間で流行っている防具は、鎖帷子とかの軽装タイプの鎧だ。
その上に服を着て迷宮に潜っている。
前衛でない限り、こういう動きやすい装備の方が適しているんだろう。
俺の今日の目的もこういうタイプの防具だ。
鉄製の全身覆うような鎧はカッコいいけど、俺の戦闘スタイルには合わない。
機動力を活かして、敵を撹乱させるタイプだ。
攻撃も受けるというよりは、避けて対応するスタイルだし。
「シンヤ!! これなんてどうですか?」
マリナが指差した先には、黄金色に輝く巨大な鎧だった。
キラキラしていて、凄く高そう。
どれどれ、値段は……………800万ルク!?
高ッッーーーーーーーー!!
家一軒建つじゃないか!!
「これはちょっと高いし、俺の戦闘スタイルに合ってないですね」
「うーん。確かにお値段は張りますが、これは魔法武具と言って、オリジナル魔導具を参考にして作られた魔力を宿した鎧なのです。魔法武具は様々な効果を発揮し、冒険者の力を底上げしてくれます。道具の良し悪しは、そのまま冒険者の実力でもあるのです」
マリナはどうやらこの鎧を俺につけて欲しいみたいだ。
だけど……俺は嫌だ。
正直鎧の効果どうこうよりも、この派手な見た目は正直言ってセンスが悪い。
マリナのセンスが悪いと言っているわけではないんだが……。
「えーっと、実は気になっている鎧があるんです」
「えっ!? どれですか?」
俺が指差した先には白色の服が飾ってあった。
どうやらあれも魔法武具の一つで、神眼の力で服の効力を知ることができた。
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【天珠の法衣】☆☆
対斬撃防御力+21
対刺突防御力+15
対衝撃防御力+6
対魔法防御力+32
状態異常耐性+22
<特殊効果>
闇系魔法のダメージを10パーセントカット。
精神操作系の魔法を無効にする。
<概要>
闇や魔を払う効果を持つ【天珠の法衣】のレプリカ。
レプリカとしては高度な再現率を実現しており、高い効果を期待できる。
<製作者>
セレーナ=クリンス
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パッと見た感じ、レア度を示す星の数が唯一二つだった。
効果もマリナが選んだ金色の鎧よりも総合的に高い。
流石に対衝撃や、対刺突効果は負けるけど、あっちの特殊効果はHP+20とかいうショぼさ。
使う人が使えば+20は大きいけど、これからレベルが上がることを考えれば大した数値じゃない。
BPを1使うだけでHPは15上がるからな。
【天珠の法衣】のレプリカを手に取ると、重さと触り心地を確かめる。
シルクの布を触ったような、サラサラとして気持ち良い肌触り。
「オッ! やっぱり軽い。これなら俺の戦い方に合ってるな」
「えっ? これにするんですか? いくら何でも軽装過ぎじゃあ……」
マリナは不満げな様子だけど、俺はこれに決めた。
「ほう……坊主。よくそれを見つけ出したな」
少し厳つい顔をした中年の店主が俺の前にくると、感心したようにニヤリと笑った。
「これって有名な防具なんですか?」
何か意味ありげに話しかけてきた店主に、疑問をぶつけてみた。
店主はゴホンッと一度咳をすると、店の奥に向かって声を張り上げた。
「おい、セレーナ!! お前の作品を手にしたお客さんが来たぞ!」
「え!? これを作った人がここに居るんですか?」
「ああ……俺の娘でな。中々、才能があるだろ?」
これをこのおじさんの娘が!?
俺に何かを目利きする力はないけど、説明欄には高い再現度を実現していると書かれている。
「これ凄いですよ!! 他のどの防具よりも価値があると思います!!」
「そうか!! そうだろ!! セレーナは一度見た装備を、そっくりそのまま作ることができるんだ。ただ魔法武具の扱いはまだまだ慣れてないせいで、これを仕上げるのに一年を費やした」
一度見た物をそのまま作れるなんて、それは凄い才能だ。
初めて来た店だけど、優良店に来たのかもしれない。
だけどその肝心のセレーナという人が姿を現さない。
「おっとすまねえ。あいつは人見知りが激しくてな。それでそいつは買うつもりなのか?」
「あ……大体幾らくらいしますか?」
これだけの性能だ。
金の鎧と比べても1000万ルクは超えるだろう。
価格次第では手が出ない。
「そうだな……。実はこれは非売品のつもりだったんだが……ここまで褒めてもらった以上は売らないわけにはいかないな。100万ルクと言いたいとこだが、今回は特別サービスだ。50万ルクでどうだ?」
まじか!! 安い!!
「買った!!」
間髪入れずに返事した。
店主の気が変わる前にこいうのは取引しておかないと。
結局製作者であるセレーナは姿を現さなかったが、良い取引ができて大満足だった。
俺たちは防具屋である『ヴァンガルドのアジト』を後にし、昼ごはんも兼ねて評判の焼き鳥屋さんにやって来た。
「はうわぁああああ……良い匂い」
「シンヤ!! 早く並ぼう!!」
ルルとニョニョが匂いにやられたようだ。
二人同時に俺の背中を押してくる。
「分かってるって! 心配しなくてもルルとニョニョの分は多めに買うから」
「ファッッ!! ファッッ!!」
そこにティーファの鳴き声がした。
どこか余裕のない鳴き声は、悲しい時に出す声に近い。
俺は失念していた。
ティーファが鳥だったという事実を。
そんなティーファに向けて焼き鳥だ、なんだのと言って盛り上がっていたのだ。
ティーファの気持ちを全然考えていなかった。
ごめんティーファ! 今回はルルとニョニョには悪いけどなしにしよう。
美味しいお店はいっぱいある。
必死に抗議するティーファを抱き上げようとする。
ティーファの青い宝石のような目はウルウルとしていて、今にも大きな水滴がこぼれ落ちそうだ。
うん?
なんか冷たい。
俺の腕が徐々に湿っていく。
原因は何処にあるのか、下を向けば明白だった。
くちばしの横から濁流のように流れる液体。
主に人が食欲を駆り立てられた時や、睡眠中に知らず知らずに垂れ流すもの。
俗に人はこれをヨダレと呼ぶ。
ティーファは力一杯左右の翼をバタつかせると、俺の腕からスルリと抜け出した。
そして駆け足で列の最後尾に並びだした。
お前も食うんかい!!
心から出たツッコミに動じず、ティーファは口いっぱいに焼き鳥を頬張った。
もちろんティーファの分も増量したのは言うまでもない。




