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六話・手にした力

 俺はこの世界のことをゲームの世界だと思っていた。

 でも今はそれがよく分からなくなってきた。

 ここがゲームの世界だとしたら俺と喋っているルークやエレナは一体何なのか?

 誰かが作ったプログラム?

 そんなはずがない。

 二人は確かに自分で考えて、話し、笑い、泣き、怒る。

 ここで生活しているとゲームと現実との境界線が曖昧になっていく。


 俺はここがもうゲームの世界でも異世界でも別にどちらでもいいと思っている。

 日本にいた頃は暴力を振るう父さんとは顔を合わせるのも嫌だった。

 今は顔を合わせなくて済むので気が楽だ。


 この世界でもあまり良いことはないのかもしれない。

 でも顔の形が変わるほど殴られることもない。

 ちょっと小さいけど友達も出来た。

 厳しいけど俺のことを叱ってくれる人もいる。



 俺がこの村に来てから十日が経とうとしていた。

 この村での俺の評判は最悪だ。

 容姿の悪さと土下座して周ったことが悪評をよんでいるみたいだ。

 ほとんどの村人は俺と目すら合わしてくれない。

 それにこの村の人たちはよそ者には厳しいらしい。

 俺と普通に話してくれるのは村長とルークの家族だけだ。

 エレナですら数日間は口を聞いてくれなかった。

 初めて会った時は笑顔で喋ってくれていたのに。

 今は前と同じように話してくれているが、あの時はショックだった。


 この村での雑用は朝は村長の裏庭で薪割りだ。

 これがかなり体力を使うし、村長のように上手く割ることが出来ない。

 毎日が筋肉痛だ。


 お昼ご飯を村長の家で食べてからルークと一緒にパムの芋を収穫する。

 パムの芋はこの世界でよく食べられている一般的な食料らしく、種蒔きから収穫までの期間が短くて寒い時期にも育つらしい。

 俺が初めてこの世界で食べたのもパムの芋だ。

 パムの芋は地中深くまで根を伸ばし、根の先に芋が出来るので収穫するのも一苦労だ。


 日が沈む前には作業が終わり、それからルークの家で夜ご飯を食べる。

 ルークのお母さんはミルという名前で、モデルみたいに背が高くてスラッとしている。

 この家族は全員オレンジ色に近い赤色の髪で、村人の多くがそれに近い色をしている。


「シンヤ、そろそろこの村での生活にも慣れてきたか?」


 ジャガイモのスープをかき混ぜながらルイスの質問に答える。


「毎日驚くことばかりですが、それでも今は楽しいです」

「そうか。シンヤが今のように頑張っていたら、いつか村の連中も分かってくれるようになる」

「そうだ。シンヤは馬鹿だけどいい奴なんだから、いつか村の連中も気づくって」


 しばらく考え込んでいた俺を落ち込んでいると思ったのか、ルイスとルークが勇気付けてくる。

 俺が考えていたのは別のことなんだけどな。

 でも二人の言葉はすごく嬉しい。



 俺はいつもより口数少なく食事を終えて、自分の小屋へと戻っていった。

 この小屋は三畳ほどの広さで、たった二日間で完成させた風雨をしのげる程度の出来だ。

 村長の裏庭にあった木の幹を使っている。

 ここに置いているものは俺がこの世界に来た時に着ていた服と、薄い掛け布団だけだ。

 村長やルイスにこの服のことを聞かれたが、記憶がないと言っておいた。


 冷たい壁に背中を預けると、今日の夜に起こるであろうことを考える。

 今日まで獲得したGPはゼロだ。

 そもそも俺が喋れる人間の数は決まっていて、数少ない知り合いに訳の分からない神を信仰しろなどとは言えない。

 一応村長やルイスにアテナス神について聞いたが、二人とも聞いたことがないという。

 この国で崇められれいるのは神という存在ではなく勇者だ。

 一応神様も言い伝えられているみたいだが、この国の人間は勇者の方が重要らしい。

 GP獲得は人から嫌われやすい俺には厳しい道のりのようだ。

 たまにルークとエレナにアテナス神って凄いらしいよって、言ってはいるんだが。

 その結果は数字が物語っている。


 俺がこの村に来てから得た情報として、この世界の人々はそれぞれ職業を持っている。

 仕事を持っているとかいう意味の職業ではない。

 この世界の人間は十歳になるとそれぞれ、『天職』といわれているらしいが、職業を体に宿すらしい。

 職業には様々な種類があり、俺が知っているゲームの世界にはなかった『農民』や『漁師』などさまざな職業があるらしい。

 逆に俺がゲームの中で見知った『戦士』や『僧侶』といった職業も存在するとい

 う。

 自身が何の職業を宿したのかは脳内に職業の名前が響くらしい。

 そしていつでも分かるのだとか。


 俺はレベルについても聞いてみた。

 この世界にもレベルというものは存在していて、レベルが上がるとこれもまた脳内に音が響いて体が光るらしい。

 俺がやっていたゲームでレベルを上げるには、モンスターを倒して経験値を稼ぐことだったのだが、どうやらこの世界では少し違うようだ。

 普通に生活していてもレベルは上がるらしい。

 職業に合った作業を行うことでレベルが上がりやすくなるらしい。

『農民』はパムの芋を毎日収穫しているとレベルが上がるし、『戦士』はモンスターを倒せばレベルが上がる。

 もちろん剣を振っていても上がるらしいのだが、上がり幅が違うとルイスは言っていた。


 スキルについては聞いたことがないと言っていたが、レベルが上がることで『戦士』なら技、『魔法使い』なら魔法の使い方が勝手に理解出来て、使えるようになるらしい。

 呼び方が違うだけでスキルと役割は一緒なのだろう。


 これらの質問をしたら村長とルイスはビックリしていた。

 記憶喪失でもこれくらいのことは覚えていると思っていたらしい。

 それくらいこの世界では当たり前だっていうことだ。

 レベルを確認したいなら王都の冒険者ギルドに鑑定の魔導具があり、そこで確認できるらしい。

 職業は忘れるようなものではないらしいが、俺は記憶喪失ということでなんとか通している。


 一度その職業になってしまうと一生そのままなのかというと、そうでもないらしい。

 なりたい職業がよく行う作業をしていると、その職業へ変更出来るようになるらしい。

 どれだけ頑張っても変更出来ない人もいるみたいだが。


 能力値については二人とも同じように聞いたことがないと答えていた。

 レベルが上がると体が軽くなったり力が強くなったりするとは言っていた。


 この世界は《ヴァルキリー・クロニクル・オンライン》と似ているようで違う。

 この世界にある国の名前を教えてもらったが俺が知っている名前はなかった。

 俺が知っているレベル上げの方法は通用しないのかもしれない。

 俺はこの十日間でレベルは一も上がっていない。

 普通は職業を得た時にレベルが二つはすぐに上がるらしい。

 一気に五まで上がる子もいるとのこと。


 話が逸れてしまったが今日は二回目の天界に行く日だ。

 そして明日は、擬似天使化のリキャストタイムが終わる日だ。

 俺は擬似天使化を何に使うべきか迷っているのだ。

 ふらっと森に行ってモンスターを蹴散らすとかしたいのだが、あいにくこの森にはモンスターがいないらしい。

 モンスターが出る地域というのは決まっていて、モンスターがダンジョンから出てくることはないとのこと。

 ルイスの話では大昔にはあったらしいが詳しくは知らないらしい。


 モンスターが出てくる地域をダンジョンと呼び、冒険者たちはそこでモンスターを狩る。

 ルイスはモンスターから獲れる素材は様々なものに使えて、強い冒険者は貴族並みの財産を有していると言っていた。

 そのダンジョンなのだが近くにはない。

 多少遠くても擬似天使化なら行けるのだろうけど時間が十分しかない。

 行って帰ってを迷わずに行けるだろうか?

 俺には不可能だ。

 絶対に迷う。


 俺は今この場所を離れたいとは思っていない。

 この世界で唯一繋がりのある人たちがここに居るからだ。

 なので俺は二回目の擬似天使化を能力確認と、スキル確認の時間に使うことにしようと決めて眠りについた。



 気がつけばそこには十日前に見た不可思議な光景が俺の目の前に広がっていた。

 俺の足元は前回進んだ先にあった白いマスがある。

 特にやることもないので、俺は歩いてこの道の先がどんなマスになっているのか見に行こうとした。


 ーーその時あの天界アナウンスがまた響いてくる。


「所持GPがゼロです。またのお越しをお待ちしてます。所持GPがゼロです」


 その声を聞きながら俺の視界は黒くなっていった。

 まだ暗闇で周りが見えない中で目が覚めた俺は、さっきの出来事を思い出す。


「ちょっとくらい見学させろよっ! バカヤロウ」


 一つ叫ぶとスッキリとして、俺はもう一度眠りについた。


 翌日は朝からいつも通り仕事をこなしてから小屋に帰ってきた。

 ステータス画面上では昼前からリキャストタイムが終わっているのか確認済みだが、どうにも抜け出して擬似天使化を行うのは無理だった。

 こういう日に限っていつも別のことをしている村長が、俺と一緒に木の幹を切り始めたからだ。

 この力は隠しておかないといけない。

 どんなことで前みたいに死刑にされたりするか分からないからな。


 小屋に帰ると俺は深呼吸をしてから擬似天使化と強く念じた。

 すると前のように暖かい光が俺の体を包み込み、小屋の中が光に満ち溢れていく。

 この瞬間は嫌なことを全て忘れてしまうほどなぜかホッとする。

 満ち溢れていた光は俺の中に消えていく。

 そしてまた小屋の中は暗闇に変わっていった。



 俺は早速ステータスオープンと念じた。



 ______________________________

 名前 :ラファエル

 年齢 :18

 性別 :男

 種族 :天使族

 職業 :見習い天使(擬似天使化)

 レベル: 1

<アイテム>

<スキル>

【GP】 0

【BP】 0

【HP】12000

【MP】24000

【SP】9000

【筋力】850

【器用】1250

【敏捷】1400

【頑強】900

【魔力】3300

 _____________________________




 は? これカンスト超えてるんだけど。

 《ヴァルキリー・クロニクル・オンライン》ではHP、MP、SPのカンストは9999で基礎能力値は999までしか上がらないはずだ。

 全てのプレイヤーがその半分にすら到達していなかったのに。

 いや、これはゲームじゃないんだ。

 そう思い直し今度はスキルの項目に手を伸ばす。



 ________________________________


 スキル ・ 魔法


【簡易魔法】 レベル9

【火魔法】 レベル9

【爆炎魔法】 レベル9

【水魔法】 レベル9

【海氷魔法】 レベル9

【土魔法】 レベル9

【地動魔法】 レベル9

【風魔法】 レベル9

【暴雷魔法】 レベル9

【光魔法】 レベル9

【神聖魔法】 レベル9

【回復魔法】 レベル9

【空間魔法】 レベル4

【付与魔法】 レベル9


 ________________________________



 は? なんだこれ。

 半透明のガラス板にズラリと所持スキルが並んでいる。

 殆どの魔法がレベル9、カンストしていた。


 あ、あり得ない。なんだこれは一体?

 《ヴァルキリー・クロニクル・オンライン》の殆どの属性魔法があるじゃないか。

 種族特性のある闇魔法とか暗黒魔法はないけどこれはヤバすぎる。

 神聖魔法のレベル9なんて確か蘇生魔法だったよな。

 あんなの本当に使えたらどうなってしまうんだ?

 しかも空間魔法ってなんだよ、そんなのなかったぞ。

 お、落ち着け俺。

 時間がないんだ、これは後で考えよう。


 止まった指先を横にずらしていくと次々とページが切り替わってスキルが出てくる。

 武器スキルにも片手剣レベル9、その最上級スキルの神速剣レベル9がカンストしている。


 耐性系スキルも闇属性以外の魔法耐性系は全てはカンストしている。

 ゲーム内でカンストは無理だと言われた、毒耐性麻痺耐性などもレベル9だ。


 補助・生産系スキルでは共通言語、共通文字、飛翔、HP、MP回復速度上昇や、詠唱時間短縮、リキャストタイム短縮、がカンストしている。

 残念ながら生産系スキルは壊滅的なようだ。


 一通り目を通すと呼吸をすることも忘れて見ていたことに気がつく。

 俺は大きく息を吐き、次は大きく息を吸い込んだ。

 どうやらこのスキル構成を見ると得意なのは魔法に偏っているようだ。

 まあ魔法がなくても最強なのには違いないが。


 こうなってくると魔法というものを使ってみたくなる。

 画面の向こうにいるキャラクターが使うわけじゃなく、俺自身が使えるのだ。

 興奮しないわけがない。

 ただ使う魔法は慎重に選ばないといけない。

 攻撃魔法を使って森を焼け野原にしたらこの村で狩りをしている人が可哀想だし、俺だとバレたら追い出される。


 俺は手始めに前回失敗した簡易魔法レベル1の【ライト】を使ってみることにした。


「ライト」


 するとすぐに小屋の中は明るくなった。

 どこに光源があるのか分からないが、部屋全体が明るい。

【ライト】の効果時間はゲーム内だと確か10分だったはず。

 俺はゲーム内との違いが気になって簡易魔法の【ライト】の項目に指を触れた。


【ライト】8/9

 ・自身の半径三十メートル以内の暗闇を十五分間、光に照らす。

 ・リキャストタイムは一時間。

 ・消費MP1。

 ・スキルレベルが上がるごとに使用可能回数が増える。


 あれ? 俺の知っている【ライト】と少し情報が違う。

 まあそんなの今更か。

 でも情報が違うと、変わった部分を頭に叩き込むのはかなりしんどそうだ。

 これだけ魔法が使えるのなら何だって出来そうだ。

 情報を叩き込んだら危険じゃない魔法を一つ一つ試してみるか。


 俺はその後もスキルの説明を食入るようにして眺め続た。

 そして今回の擬似天使化が終わった後、暗闇の中である決意をする。


 この世界の能力、スキルの力は凄い。

 数値が上がれば新幹線より速く走れるし、スキルが使えれば人だって蘇らせることができる。

 そして俺の知らないスキルがまだこの世界には存在している可能性がある。

 この擬似天使化だってゲームの時にはなかった。

 天界に行けば能力、スキル、アイテムが手に入る。


 職業『農民』の仕事が農業なら、見習い天使の仕事はGP集めの可能性が高いと思う。

 それなら一石二鳥、違っていても損はない。


 俺はこの擬似天使化を使ってこの村からGPを獲得する。

 俺がダメでもラファエルならそれが可能だ。

 ライチ村、アテナス教布教作戦だ。


「明日からだ。明日起きたら十日後の作戦を決めよう」


 俺はそう決意して掛け布団の中に潜り込んで横になった。

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