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三十話・死が蔓延する街で3

 高度を上げるに連れて、抱きかかえた二人から上がる悲鳴が増す。


「きゃああ! 凄いです! お股がスウスウするです!」

「ロリス、私もう駄目!! 死んじゃいそう!!」

「シャーリー姐、死んだら駄目です! こういう時は下を見たら駄目です!! 上を見るです!」

「うえ……? 上からイケメ¥&@×ga! はぁはぁ……」

「んにゃ!! 何か飛んできたです!! …………血? どこからです? あっ! シャーリー姐の鼻血です! 興奮しすぎて逝っちゃってるです! 流石、彼氏いない歴二十二年六ヶ月は伊達じゃないです!! ヤバすぎです!!」


 二人の話が嫌が応にでも入ってくるが、集中してティーファの姿を探す。

 視力や視野の広さは、擬似天使化を使う前に比べて飛躍的に上がっていて、遥か先まで見通すことが出来る。

 って、そんな力は無意味だと言わんばかりの自己主張の強さが宙に浮いている。


 空に浮かんだ巨大な円形の魔法陣。

 白い模様が描かれた魔法陣は、脈を打つようにして鼓動している。

 そこに魔法陣の淵から赤い点が現れ、赤い点は円の淵を赤色に染め、模様の内部に流れていく。

 魔法陣は血が流れ込んできたように鼓動を速め、模様全てが赤に染まった時、大きな光を放った。


「眩しい!」


 マリナたちが眩しさのあまり目を瞑るが、俺は魔法陣に向かって進む。

 外に放出された光は一転して、流れに逆らうように魔法陣に逆流していく。

 その光を吸収するようにして、魔法陣の上に大きなシルエットが生まれた。

 そして魔法陣に浮かんだ赤い模様が光と同化するように消えていく。


 光はそれの肉となり、魔法陣はそれの血となる。

 眩い世界の中で俺にはそういう風に見えた。


「ティーファ!!」

「あっ! シンヤーー!!」


 ペガサスに乗ったティーファの横に来ると、嬉しそうに振り向いてくる。

 うん!

 ティーファに怪我はないようだ。


「無事でよかった!! こっちはどうだ?」

「うん!! これでみんな集まったよ?」


 やっぱりそうだ。

 この目の前に佇む巨大な塊はティーファが最後に残していたとっておき。

 この世界でも特別な存在である竜。


【赤竜】


 レベル27


【HP】1290

【MP】 318

【SP】489

【筋力】206

【器用】79

【敏捷】132

【頑強】260

【魔力】86



 スキルは【火魔法】レベル7、【硬化】レベル4、【飛爪】レベル7、【竜気】レベル1、【威圧】レベル3、【火属性吸収】レベル1、【飛翔】レベル9、【火炎のブレス】レベル5。



 この世界における竜という存在は、お伽話、絵本、世界史、絵画、国旗、ありとあらゆる所でその存在を感じることが出来る。

 俺がルークから聞いた話では、最後にその姿が目撃されたのは300年もの前に遡る。

 当時、ローレル王国の直ぐ東にアリゾス王国という国があった。

 険しい山々の麓にできたアリゾス王国は鉱山に恵まれ、莫大な国富を築いていた。

 だが、その国富の殆どは王の元に集まり、国民は明日の食事にも困るほど生活は困窮していた。

 王は民を顧みず、民は王を憎んだ。

 そんな中、王は外敵からの侵略に備え、新たな王城をロッグ山脈にそびえる、山の頂上の一つに作った。

 地上2000メールを超える山の頂上での作業は困難を極め、幾人、幾千もの命が犠牲となった。

 国民の血で汚れた王城は50年もの月日を要し、遂に完成を迎えた。

 王はその完成を大いに喜び、国の重鎮を集めて一ヶ月以上にも及ぶ宴が行われた。


 国民の怨嗟の念は遂に、この大地を揺るがした。


 宴に惚けるこの国の搾取者たちの頭上に舞い降りる巨体。

 巨大な翼は一度羽ばたくだけで強烈な突風を呼び、硬い爪はこの国の技術の結集である鉄製の門を引き裂き、口から放たれるブレスはありとあらゆる生物を焼き殺した。


 重鎮たちのほとんどは竜の襲来によって死に、また王も王城の中で跡形もなく灰となった。

 竜は王城を焼き払うと、満足したのかロッグ山脈の奥地に舞い戻ったという。

 民はこの襲来をきっかけに、新たな国造りを行なった。

 それが現在のグールド自治国。

 ドワーフの国だ。


 ドワーフたちはこの事件から竜を崇め、天罰を司る象徴とした。

 また、この話はローレル王国、リンカ王国にも伝わり、竜の存在は正義の象徴として伝わっている。


 そんな伝説的な存在が目の前に現れたんだ。

 俺もちょっとその大きさにビックリしている。

 体長は尻尾も合わせると40メートルは超えていて、その背中には何人でも乗れそうだ。


「グルルルル」

「▼×ak?$@!?」

「ひゃ!?」

「うそ!?」


 竜の存在に気がついた三人はそれぞれ驚きの声を上げた。

 俺と竜の距離はほとんどなく、竜の呼吸で髪が揺れるほど近い。

 そして、その存在感にロリスとシャーリーは気を失ってしまった。


「一体これは……そんな……あり得ない」


 マリナも目の前の存在に動揺を隠せず、正気を保つことで一杯一杯のようだ。

 というか、擬似天使化もそろそろヤバい。

 いつ効果が切れてもおかしくない。

 ということで、一時的に竜の背中に降り立った。


「あ、ぴーちゃんのせなかおっきーー! ティーファものりたーーい! 」


 ティーファを乗せていたペガサスも、赤竜の上に降り立った。

 ていうか、ぴーちゃんって面じゃないだろ! ティーファよ。

 どっちかというとティーファの方がお似合いの名前だぞ?


「ティーファ、状況はどうだ?」


 そう声をかけたと同時に、擬似天使化の効果が終わった。

 危ない、危ない。

 もう一回擬似天使化を 起こしているとはいえ、こんな空の上で効果が切れれば悲惨なことになる。


「んーーと、のんちゃんはメイキュウにむかってるよ。くーちゃんはそらからゆうげきちゅう」


 誰がどれでなんのこっちゃ?

 ティーファが召喚できるのはボーンナイトが三体。

 ペガサスが二体。

 赤竜が一体。


 ただ、ボーンナイトは迷宮から抜けるために二体召喚していて、残りのリキャストタイム経過まで20分くらいあるだろう。


 ということは、迷宮に向かっているのんちゃんが残りのボーンナイト。

 ペガサスの一体はティーファが乗っていて、残りの一体がくうちゃんで、空から遊撃中と。

 で、赤竜のぴーちゃんが参加して現在の最高戦力が整った訳だ。

 状況としてはティーファ自身も攻撃に加われるから、今から反撃開始という感じだな。


 これからどう行動すればいい?


 残った擬似天使化は最後の切り札だ。

 できるなら死霊の魔導師レギレウスとの戦いまで残しておきたい。

 ただ、ニョニョとルルの捜索が問題だ。


 どうすれば……。

 赤竜はこのまま問題の震源地である迷宮の入り口に向かわせた方がいい。

 あそこを突破されればいよいよ手がつけられない。

 ティーファとペガサスは……いや、ティーファにはこのまま赤竜の上で火力になってもらおう。

 そして俺がペガサスに乗ってニョニョとルル、そして死霊の魔導師レギレウスを探しに行く。

 後は、マリナと残りの二人をどうするかだ……。

 安全な場所……。

 うーーん、地上があの感じだとここが一番安全だと思う。

 マリナには悪いけどこのままいてもらおう。


「ティーファ! 続けざまで悪いけど、このまま赤竜を迷宮の上まで飛ばしてくれ。そこで迷宮から街に死体が溢れないように殲滅してくれ」

「うん! ぴーちゃんもいっぱいあばれたいって」


 あ、あんまり無茶苦茶なことは……。

 そう思ったけど、こんな状況だ。

 変なことを言って制約をつけてしまうことは命取りになるかもと思い、喉まで出てきた言葉を飲み込んだ。


「マリナ、ごめん。この上で落ち着くまで待っていてくれ」

「え、あれ? いつものシンヤ? え!? この竜の上!? 一体何がどうなって…………。もうだめ……頭が痛い」

「ごめん、落ち着いたらまた話すから。俺はニョニョとルルを探しに行ってくる」


 そう言うと、ティーファと入れ替わるようにしてペガサスの上に飛び乗った。


「わ、私も…………いえ、お願いします。シンヤ」

「行くぞ! えーとお前の名前は……」

「うずらだよ?」


 うずらってティーファよ!

 もっといい名前はなかったのか?


「まあいいや。うずら、頼む! 力を貸してくれ!」


 うずらは俺の言葉にブルルンと音を鳴らして返した。

 そして俺の指示に従うように翼を羽ばたかせ、赤竜の背中を離れていく。


 二人の居場所は心当たりが全くない。

 マリナを見つけたのも偶然だった。


 二人の笑った笑顔が頭から離れない。

 その笑顔を失いたくないと強く願った。


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