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二十四話・冒険者学校

「えええええ!! 俺が行くんですか?」

「そうですよ。これはギルドの正式な決定です」


 副ギルドマスター室に呼ばれると、待っていたのは昇格試験というややこしい話だった。


 十層を突破してからまだ二日。

 本来ならもっと承認に時間のかかるランクの昇格が、今回の昇格試験を受けることですぐに認められるらしい。

 リンカ王国の冒険者ギルドでは、ランクを上げるためには昇格試験を受けることが当たり前らしい。

 ただヴァルハラ迷宮都市の冒険者ギルドでは、ランクはどの階層まで継続的に活動できるのかが基準になる。

 昇格試験は一応あるが、形式的なことだけだ。


「これはマリナちゃんのためでもあるのよ。シンヤ君」


 副ギルドマスターは嫌がる俺を諭すように言った。


「わ、わかりました。いつ行けばいいんですか?」

「明日からよ」


 副ギルドマスターはニッコリと笑い、俺はうつむいて副ギルドマスター室を出て行った。


 朝早くから呼び出されたと思ったらこれか。

 ついてない。

 明日俺が行かないといけない場所は学校だ。


『ヴァルハラ冒険者学校』


 この都市の中心産業である冒険者の質を、効率的に高める為に作られた学校だ。

 学校というと惨めだった昔を思い出す。


「はぁ……。なんで今更」


 マリナのために頑張らないといけないのは百も承知だ。

 俺がこの昇格試験を受ければマリナの降格はなくなるからな。


 俺だって学生として行くならここまで気分は下がらない。

「先生として行くのよ」だもんな。

 簡単に言ってくれるよ。


 俺はまだ年齢的に高校生だし、冒険者になってから一ヶ月程度の新人冒険者なんだ。

 こんなのが何を教えるのか? 現場を想像しただけで頭が痛くなる。


 今回はエンジェルロードとしての参加らしいから、ティーファと一緒に冒険者学校に向かった。




 △▲△▲△▲△▲△▲△▲



 冒険者学校の前に着くと、大きな校舎が建っている。

 高さは三階建てくらいありそうで、入り口には鉄製の大きな門があり、周囲を柵で覆われている。

 厳重そうな雰囲気だ。

 この学校に通っているのは裕福な家庭か、才能のある人が殆どらしい。

 貴族の三男以下とか、村で飛び抜けた才能を持ったやつとか、扱いにくそうな経歴の持ち主がそこら中にいる。


 門を開けて普通に入ろうとすると、警備の人が駆け寄ってきた。


「ちょっと、ちょっと。あなた学校の関係者?」


 怪しい奴を見るように目を細める警備の人。

 視線が足元から顔に移って行く。


「関係者ではないんですが、ギルドの昇格試験で今回、この学校で臨時教師として教えに来ました」

「ああ、君か! 話は聞いているよ! 一応ギルドからの書類を見せてもらってもいいかな?」


 副ギルドマスターから貰った書類を渡すと、すんなりと中を通して貰った。

 ついでに職員室への行き方を教わった

 校舎に入るとまだ生徒は誰も登校していないのか、人気は殆どなかった。


「えーっと、職員室は左に行ってその後右か」


 綺麗に掃除された床や壁は冒険者ギルドよりも小綺麗で、お金をかけているなーという印象を持つ。

 職員室に入ると総勢16名の男女がそれぞれの作業をしている。


 年齢、レベル、天職、それぞれバラバラだが、並みの冒険者よりも強い。

 一人を除いて、ホーリーロードには届かないが。


「お主が、臨時講師であるシンヤか?」


 声をかけて来たのは白髪頭に、白い髭を無造作に生やしたお爺さん。

 眉毛も綿菓子がついているみたいだ。

 見た目は賢者とか魔法使いって感じで、天職も賢者だ。

 期待を裏切らない。

 ステータス、スキル的にも、この人が頭ひとつ抜けていて一番強い。


「はい、今日はお世話になります」

「聞いていた通り、礼儀正しくていい子そうだの。そんな所で立ってないで、さあ、こっちに来なさい」

「失礼します」


 なんだか学生の時の職員室に入る光景が頭に残っていて、少し緊張してまう。

 爺さんに案内をされるがままに、職員室の奥に向かう。

 他の先生方は俺の方をチラリと見るが、作業に忙しいのかすぐに下を向く。

 奥にはもう一つ部屋があり、そこの椅子に座るよう促された。


「緊張せんでええ、緊張せんでええ」


 体が硬くなっているのが分かったのか、髭もじゃの爺ちゃんが俺の肩を揉む。


「シンヤよ。今回の臨時講師は別に教壇に立って、講義をしろというわけじゃなかろう」

「え、そうなんですか?」

「そうじゃよ。聞いておらんかったか。今日は三回生の課外授業で、迷宮探索を行うことになっておる。今回は10組のパティーが参加する予定なんじゃが、都合がつく教員が九人しかいなくての」


 なんだ、そういうことか!

 それならそう言ってくれよ、副ギルドマスターの婆ちゃん。


「今回、やるべきことは簡単だシンヤよ」

「俺が生徒たちを無事に返せばいいんですね?」

「うむ。概ねそういうことじゃ」


 よしっ! これなら俺の得意分野だし、当初考えていた内容よりもかなり良い。

 いつもとやることはほとんど変わらない。


「ギルドに依頼を出したのだが、まさかエンジェルロードを寄越してくるとはの」


 髭もじゃの爺さんは、顎に蓄えた髭を弄りながら嬉しそうに俺を見つめる。


「エンジェルロードのこと、知っていたんですか?」

「もちろんじゃ。今はホーリーロードの方が知名度は上だが、ワシはエンジェルロードの方に興味を惹かれていたんじゃ。だって格好いいじゃろ? 男一人に鳥のクラン。渋いのー。」


 エンジェルロードのことを知っている人も段々と増え始めているんだな。


「ありがとうございます。えーと」


 名前を聞いてなかったな。

 神眼のスキルで知ってはいるけど、口には出させない。


「名乗るのを忘れておったわ。わしの名前はエルトじゃ。昔は百識のエルトなんて言われておったが、歳をとると物忘れが激しくていかんのー」


 頭をポリポリと搔くエルトの爺ちゃん。




 その後もエルトの爺ちゃんと今日の段取りを聞いていると、大きなベルの音が鳴った。


「始まりの時間じゃて、そろそろ行こうかの」


 担当の生徒がいる教室に案内された。

 中に入ると生徒が十五人椅子に座っていて、男の教師が二人、教壇に立って今日のことを説明している。

 教師の男二人はどちらも冴えない感じだ。

 俺が言えた顔じゃないけどな。


「これで役者は揃ったの」

「エルト校長、こちらも組み分けは終わりました」

「シンヤをどのパティーの担当にするつもりかの?」

「シンヤさんには、グリゼリスさんをリーダーにしたパーティーの担当をしてもらおうかと……」


 さっきまでニヤニヤしていた、エルト爺ちゃんの視線が鋭くなる。

 鋭い視線を感じて口籠る教師。

 なんだろう? もしかして俺が担当する生徒って問題児?


「それは構わんが、何かあった時はお主が責任をとるのじゃぞ」

「え、あ、はい……」


 エルトの爺ちゃんから放つ威圧感が、男の教師をしどろもどろにさせる。


「シンヤよ、何事も経験じゃ。頑張るんじゃぞ」


 肩をポンポンと叩くと、教師の二人に「後は任せたからの」と言って教室を出て行った。

 とんでもないフラグを置いて、出て行ったような気がしないでもない。

 やるべきことは予め聞いていたので、教師から促されると同時に自己紹介をした。


「冒険者をやっているシンヤです。クラン名はエンジェルロード。よろしくです」

「ぶっさあああ」

「ぷぎゃああああ」

「目がくさるーー」

「ぎゃハッハッハッ」


 俺の自己紹介に、生徒たちが一斉に声を上げて笑いだした。

 年齢は結構バラバラで、下は十三歳から上は二十歳までいる。

 確かに冒険者の学校に来るだけあって、良さそうな天職を持っている人はチラホラといるようだ。


「こら! せっかく冒険者ギルドから今回のために来て頂いたのだぞ! 失礼な真似をするんじゃない!」

「お前たちの先輩になる人だぞ!」


 さっきのエルト爺ちゃんの睨みが効いたのか、場の収集に必死に努める教師たち。


「えー、じゃあシンヤ先輩ってランク幾つなんですか? 俺たち自分よりも弱い奴を尊敬なんてできませーん」

「俺も無理っす。冒険者は実力の世界。俺たちを教える立場なら、それなりの実力は見せてもらないと駄目っすね」


 こいつらウゼー。

 自分たちが守られた存在だと分かった上で、挑発するような口調で話している。

 まあ、ほとんどの奴は今日いっぱいの付き合いだ。

 いくらでも舐めてもらっても構わないさ。

 冒険者学校の生徒という肩書きがなくなった時、同じような舐めた態度でいられるのかは疑問だけどな。


「今はまだGランクのクランですね」

「G? ジーーーーィ!?」

「嘘だろ? 超初心者の冒険者じゃんか」

「幾ら何でもひでーよ。冒険者学校も落ちたもんだぜ。こんなのを代理とはいえ教師として呼ぶんだからな!」


 教室内の至る所で会話が起き、収拾がつかなくなる。


「もういいから出発するぞ! さっき話した通り、バルトをリーダーとしたパーティーはベルドミール先生に。ハサンをリーダーとしたパーティーは俺の所に。グリゼリスさんをリーダーとしたパーティーはシンヤさんの所に」

「卒業検定の評価は今から始まっていると思え! 期間は三日間! それまでに帰ってこない場合は0点とみなす。他人の力を使っても0点だ。分かったな」

「はい、はい」


 どうやら舐められているのは俺だけじゃなくて、この教師たちも同様のようだ。

 このクラスの中で更に曲者と思われる生徒を担当するのか。

 胃が痛くなってきた。

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