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二十二話・大切なこと

ヴァルハラ迷宮は各階層をクリアすると、そこには必ず安全地帯が存在する。

一層、安全地帯、二層、安全地帯といった造りになっている。

十四層は特別で、安全地帯、十四層、安全地帯、ボス部屋、安全地帯、十五層という造りになっているようだ。


三層をクリアしたのはいいんだけど、ちょっと困ったことになった。

安全地帯の特性として魔法と武技は使用不可となっている。

どうやら召喚魔法で呼び寄せたボーンナイトは、安全地帯の中に入れないらしい。

ティーファもこれは予想外だったらしく、しょんぼりとした様子でボーンナイトを帰還させていた。


「そんなに落ち込むなよ。前衛にはまた俺が立つからなんとかなるって」


出番がなかった三層とは違い、四層では出番がありそうだ。

俺が取ったスキルは無駄じゃなかったんだ!

暗黒面に心を支配されかけていた俺に、一筋の光がさした。


ん? ちょっと待てよ。


ボーンナイトのリキャストタイムは一時間。

ティーファが召喚してから一時間は経っているはずだ。

ということは…………。


また俺の出る幕なし!?


ティーファもそこに考えが至ったのか、重かった足取りが急に軽やかになった。


「ファッッ!」

「分かったって!」


急かされるように安全地帯に入ると、複数の冒険者が先客でいた。

俺たちはかなりのスピードで階層を降りていっているはず。

転移石を使ったのかもしれないな。

狐につままれたような表情をする冒険者たち。

関わらないように、安全地帯を早足で抜けていく。


「なんだ? あの訳の分からんコンビは」

「黒髪に鳥? 意味不明ね」

「散歩しにきたみてーな格好だな」

「あいつらがどうなろうが俺たちには関係ないさ」


仲間内で話している内容が、神眼の効果で筒抜けだ。

今回は絡まれることなく、四層に入ることができた。


四層から八層は一番活動しているクランの数が多い。

一層から三層までを中心に活動をすると生活が厳しく、四層以上を活動拠点にしてやっと冒険者として安定した生活が送れるらしい。

三層までのコボルトだと、売れる素材は小さな魔石とコボルトが持っているチンケな武器だけだ。


四層では鬼牛というモンスターが出現する。

この鬼牛は乳を搾り取って売ることもできるし、肉もギルドで買取されている。

どちらも美味だとはいえないが、この世界の動物の肉は希少で高いことから、庶民食としてよく食べられている。

実は俺も風来亭で何度か食べたことがある。

モンスターから出る素材は傷みにくく、夏場でも二ヶ月近くは持つということも、買取価格が安定している原因かもしれない。

実力がないクランは鬼牛を中心に狩って生計を立てているため、『酪農系クラン』と揶揄されることもあるらしい。


そんな鬼牛を中心にした四層は、これまでの迷路のような造りと違い、だだっ広い草原の迷宮だ。

見渡す限り一面、くるぶし辺りまで伸びた緑色の草が生い茂っている。


ティーファは安全地帯を出ると、早速念じ始めた。

こんな見通しの良い場所で召喚するのはどうかと思ったけど、ボーンナイトが居ると居ないとでは危険性が違う。


ティーファが念じ始めてからゆうに一分は経過したが、魔法陣が出る気配はない。

なんでだろうと思い、ティーファのステータスを見るとMPは有り余っている。

スキルを見るとボーンナイト0/3となっていた。

ティーファが魔法を使ってから一時間は経っているはずだ。

それなのにリキャストタイムの一時間は経っていないことになっている。

考えられる原因はリキャストタイムの開始が、召喚の効果が終了してからだろうか。

となると、使用回数が回復するのは今から一時間後になる。


そのことをティーファに説明すると、納得したように頷いた。

よし、ここから先は二人で行きますか!


「ティーファ行くぞ!」


ティーファは俺の声に反応すると、スタスタと後ろについてくる。

視点を遠くに移し、できるだけ視野を広げて前に進む。

近場は神眼でカバーできるのがありがたい。


と、後ろをついて来ていたはずのティーファが立ち止まった。

どうやら上の方を見ているらしい。


なにかあるのか?


そう思い俺も上を見ると、地上の世界と同じように太陽と、雲ひとつない青い空が広がっている。

綺麗な光景だけど何かあるという訳じゃない。


「ファッッ!!」

「ん? また何かいいことでも思いついたのか?」


ティーファは左右にステップを踏んで、何かを説明しようとする。

いつもよりぎこちないのは生い茂る草のせいだろうか。


危ないぞ。


そう言おうとした時、ティーファは「ファッッ?」っと間抜けな声を出して、頭から草むらに突っ込んだ。

どうやら草に足を取られたみたいだ。


さっと起き上がったティーファは説明をすることを諦めたのか、魔法を念じ出した。

強い魔力がティーファの体から練り上げられていくのを感じる。


まさか!? ここで火魔法?


確かに草が生えているから燃えやすいとは思う。

でも前の十四層と違って、ここは他のクランが複数活動している。

酪農系クランとして、家族のために頑張って働いているお父さんもいるだろう。


ティーファを止めようとした時、ボーンナイトの時よりも大きな魔法陣が草むらの上に浮かんだ。


これは召喚魔法……対象は…………ペガサス!?


チカチカと白い光を点滅させる魔法陣。

点滅する速度を上げていくと、一際大きな光が草原を包んだ。


え? まじで?


感じ取れるステータス値はボーンナイトの上をいく。

俺はその瞬間悟った。

あ……これ、また俺の出番ないな。


レベルは26。


【HP】421

【MP】174

【SP】118

【筋力】59

【器用】38

【敏捷】93

【頑強】59

【魔力】61


所持スキルは【風魔法】レベル5、【光魔法】レベル9、【回復魔法】レベル4、【馬闘術】レベル4、【MP回復速度上昇】レベル2、【MP消費量減少】レベル1、【飛翔】レベル9、【視界拡張】レベル8


うげえ……完全に敗北だ。

こいつ一体で、トップクラン並みの力を持っているのかもしれない。

ホーリーロードのメンバーと比べると、そんな感想を持ってしまう。


見た目は白馬だけど、ファンタジーなアニメを見た時と同じように大きな翼が付いている。

体高は二メートルはあり、横幅は純白の羽も含めると六メートルくらいありそうだ。


ティーファはペガサスの登場に、羽をバタつかせて喜びを表現している。

ペガサスもティーファの真似をして白い羽をバタつかせる。

同じ羽持ち同士、なんだか楽しそうだ。


「ファッッ! ファッッ!」

「ブルルッン!!」


なにやらティーファはペガサスに指示を出しているようだ。

その小さな後ろ姿は、正にリーダーと呼べるような風格を伴ってきている。

ティーファの成長を見ていると、目頭が熱くなってきた。


このクランのトップ会談が行われる中、俺は生い茂る草を一本ずつ抜いていた。

単純に暇だったからだ。


トップ会談が終わると、ティーファは俺の前までやってきた。

次の指示を待っていた俺はおもむろに立ち上がろうとした。

そんな俺の胸に勢いよく飛び込んでくるティーファ。

踏ん張りきれずにティーファごと後ろに倒れてしまう。


「ファッッ!! ファッッ!!」


ティーファは俺の顔の横にくると、甘えたように頬ずりをしてくる。


「ファッッ!」


何かを伝えようとするティーファ。

ペガサスと何か決まったのだろうか?

そう思っていると、ペガサスが俺の前まで歩いてくる。

そして目の前で跪いた。


「乗れって……こと?」

「ファッッ!!」


ティーファは今日一番の声を上げると、自分の頭を俺の方に寄せてくる。

そういえば迷宮に来てから自分の存在意義にとらわれ過ぎていて、ティーファを一度も褒めていなかった。


ボーンナイトがコボルトを倒した時のドヤ顔。

甘えたように頬ずりをしてきたこと。


ティーファは俺が褒めるのを待っていたんだ。


「よくやったぞ、ティーファ!」


ティーファの頭を何度も撫でてやり、頬ずりをお返しとばかりに何度もした。


俺がやれること。

やらなくてはいけないことは、身近にあったんだ。

大切なことをもう一度感じることができた。

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