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二十話・武技

「はぁはぁ……。スピードでは負けてなくても、スタミナの面ではティーファには敵わないな」


 勝負の軍配はティーファに上がった。

 息切れをする俺に対し、ティーファはまだまだ余裕がありそうだ。


 スタミナを上げるにはどの能力が必要なんだろう?

 頑強か筋力か、細かいことはまだまだ分からないことが多い。


 迷宮の前に着くと、早くも列ができている。

 最後尾に並ぶと、俺の前のクランが後ろを振り向いた。

 俺の装備に目を通すと、侮蔑の視線を送って前を向く。


 自分でも分かっているけど、他の冒険者と比べると酷い装備だ。

 とても迷宮に潜る格好をしていない。


 前の男は革製の鎧に、ロングソードと盾を持っている。

 その横の男は金属製の鎧に、槍を持っている。


 どの冒険者も最低限、武器と防具を装備して迷宮の前で並んでいる。


 対して俺はどうか。

 ほとんど寝間着姿と変わらない衣服に、武器は所持していない。

 連れている仲間は可愛い鳥だけ。

 迷宮を舐めていると言われても仕方ない。


 でも、しょうがないんだ。

 金がないんだから。

 昨日はマリナの家に泊まったから、手持ちのお金は3000ルクのまま。

 このお金で生活できるのは、切り詰めても一週間が限界だ。


 ホーリーロードに渡した魔石はかなり貴重で、過去に例を見ない数ということもあり、査定の結果が出るまでに時間がかかりそうだと、副ギルドマスターは言っていた。

 今日の生活は今日稼ぐ。

 同じ貧乏の誰かが言っていたが、正にその通りだった。


「おう、お前生きてたのか。心配させんなバカ野郎!」

「いたッ!」


 俺の番になると、ギルド職員のイカツイおじさんからゲンコツを喰らった。

 実はこのイカツイおじさん。

 マリナが救援の依頼を出す前から、無報酬で俺のことを探してくれていたらしい。

 すごく良い人だ。


「心配かけてごめんなさい」

「色々あったかもしれないが、今日も迷宮に潜る以上は安全第一で行動するんだぞ! それだけは忘れるなよ」


 後ろが立て込んでいるので、少しの会話だけをして迷宮の中に入った。

 俺がお金を稼げるようになったら、このおじさんにはご飯でも奢りたい。


 迷宮の中に入ると人でごった返していて、ワイワイガヤガヤと賑やかだ。

 多くの人の中心にいるのはあのクランだった。


「カリス、もういいから早く迷宮に入りましょう!」


 ベネッサの苛立った声がここまで届いてくる。

 俺が報酬を貰ってないということは、ホーリーロードも貰っていないということ。

 貧乏に暇なしとはよく言ったもんだ。


 あの人混みに囲まれる前に、忍び足で一層に向かっていく。

 知名度が上がるのも考えものだ。

 そう思ったのも束の間、カリスの視線が俺の方に向いた。


「兄貴! シンヤの兄貴!!」


 俺は聞こえないフリをして歩を進める。

 ここで止まると面倒なことしか起きない気がする。

 俺が目標とするのは冒険者の頂点だけど、それはしっかりと地に足をつけて、一歩一歩確実に進んで手に入れたいものだ。

 実力以上の評価は今の俺たちに必要ない。

 いずれ俺たちが確実に通る道だからだ。


 だが、事は俺が思ったようには進まない。

 カリスは強引に人混みに突っ込み俺に近づいてきた。


 勘弁してくれよ。


 そんな思いも虚しく、ニカッと笑って俺の前に立つカリス。

 げんなりとした表情でうつむく俺。

 そんなカリスの行動を見つめる冒険者たち。

 その多くは10代、20代の冒険者で、下級天職に低レベルだ。

 めぼしいスキルを持っている冒険者はおらず、筋力、器用、敏捷、頑強、魔力の平均値は10〜15程度だ。

 神眼を手に入れたことにより、効果範囲内の全ての人の能力が分かってしまう。

 これって想像以上に使い勝手のいいスキルを手に入れたのかもしれない。

 モンスター相手だと、攻略本を片手に戦うよりも楽になりそうだ。


 一瞬で俺とカリスがこの場の中心になってしまった。


 ホーリーロードの方に目を向けると、ベネッサとモルスが手を合わせて頭を下げていた。

 あの馬鹿が申し訳ないと言っているようだ。


「兄貴! また奇遇ですね! 昨日といい、今日といい、俺たちの絆が深すぎて運命すら感じます!」


 奇遇にも、俺もカリスとは腐れ縁を感じていたところだ。

 これだけ人が多くて注目をされている。

 下手なことは言えないな。


「ホーリーロードも昨日の今日で、早速迷宮ですか?」

「そうなんですよー。お金がなくて……。それにゴーンが迷宮に行くってうるさいんです」


 カリスと当たり障りのない会話をしていると、周りを囲む冒険者たちの一人一人の会話が

 全て頭の中に入ってくる。


「あの黒髪のブサイクって誰? 知ってる?」

「知らないなー。冒険者にあんなのいたっけ?」


 確かに俺は冒険者になって二回目の迷宮で十四層まで飛ばされたからな。

 こんな目立つ姿でも、知らない人がいてもおかしくない。


「確か、数週間前にそういう男が迷宮にいたという話は聞いたことがあるな」

「ホーリーロード様とどういう関係なのかしら?」

「にしてもあのブサイク、カリスさんに対してちょっと偉そうじゃね?」

「鳥、かわいい、鳥、かわいい、鳥、かわいい」

「カリスさんもあんな奴にペコペコするなよ」


 疑問や不満が各場所で起こっているようだ。

 そろそろヤバそうな雰囲気だ。


「ではカリスさん。俺たちは先を急ぎますので、ご検討をお祈りしています」

「え? シンヤの兄貴! せっかく会ったのに別行動なんですか? 一緒に行きましょうよ!」

「ごめんなさい。今日はどうしてもティーファと二人で潜りたいんです」

「そうなんですか。また誘って下さい」


 カリスは残念そうに視線を下に落とした。

 やっと迷宮に潜れそうだ。

 そう思った時、カリスの後ろから声を張り上げて近づいてくる若い男がいた。

 年齢は17で、天職は木こり。

 レベルは14で、ステータスで最も高いのは筋力の19だ。

 装備は革製の甲冑に、一メートル近い斧を持っている。

 俺よりもいい装備だ。


「おい!! カリスさんの誘いを断るなんてどういう度胸してんだ!! この方はな!! もう直ぐ『世界樹に導かれし英雄』の代わりにBランクに上がられるお方だぞ! 本来なら、お前みたいなゴブリンとの合いの子みてーな顔のやつが、喋れるような人じゃねーんだよ!!」


 俺に突っかかってきたこいつの魂胆はなんとなく分かっている。

 カリスを持ち上げて俺を貶すことで、自分を売ろうと思っているんだろう。

 それともここで俺を倒してカリスに認められようと考えているのか。

 俺はその喧嘩、買わないけどな。


「ゴブリンの合いの子は合いの子らしく、迷宮に戻りますので。では失礼します」

「このッ!」


 俺が安全地帯を出た瞬間、逆上した男が俺に襲いかかってきた。

 ティーファの魔法は派手すぎて人が多くいる場所では出せないし、もう詠唱時間的に間に合わない。

 これはスキルを試す、いい機会だ。

<アイテム>から古びた剣を取り出す。

 ティーファにアイコンタクトを送り、俺は背を向けたまま相手が近づくのを待った。


 残り三歩。



 二歩。



 一歩。



 前を振り向くと同時に武技を発動。


【花鳥風月】


 俺の意思と同時に剣が青白く光り、横から薙ぎ払われる斧と剣が接した。

 衝撃は一切なく、斧が決められた道を進むように、剣の上を滑っていく。

 速度を上げた斧はその勢いのまま空を切った。

 男はその勢いに耐えきれずに斧を宙に放り投げ、派手に転倒した。


 ガツンッ!


 上を見ると、斧が上手いこと天井にささってしまったようだ。

 これであの男も戦うことはできないだろう。


 こっちが引いてやっているのに、キレて襲ってくるって最近の若者は怖すぎだろ。

 冒険者には血の気が多いやつが沢山いるのは知っていたけど、こいつは狂戦士っていう感じだ。

 目もちょっとすわっていたし。


 慌てて他の冒険者が襲ってきた男を取り押さえた。

 握っている剣を見ると、青白い光は消えていた。


 これが武技か。

 光ったのには正直ビックリした。

 魔法と違って発動までにタイムラグがないのが良い点だ。

 でも今回は流石に相手が弱すぎて、武技を使うにはもったいなかったかも。


「今の青白い光は一体なんだったんだ?」

「技? でもあんな光を出す技なんて見たことないわ」

「魔法の可能性もあるな」

「怪力のボスゴーレの斧をあれだけ簡単にいなすなんて……」

「しかも背中に目があるような動きは、何かの達人級に見えたぞ」

「何者なんだ……」



 もうこれ以上揉めたくなかったので、この場はホーリーロードに任すことにした。

 お詫びとして、ホーリーロードにご飯を奢ってもらうことも約束した。

 逃げるように一層の中に入ると、さっきの出来事を思い返す。


 俺ってもしかしてやらかしたのかな?

 言い訳になるけど、まさか武技が光るなんて思ってなかったんだ。


 はぁ…。


 溜息が漏れる中、一層を簡単に突破した。

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