十四話・帰還
迷宮から出ると、外は真っ暗だった。
「今って何時くらいだ?」
「分からないわ。だって私たち、迷宮に入ってから十八日も経っているのよ」
ベネッサの言う通り、かれこれ十八日も地上に戻ってなかったようだ。
パワーレベリングといっても、レベルを三十まで上げるとなると一苦労。
「シンヤの兄貴! これからどうします? ここで一旦解散するか、一緒に冒険者ギルドまで行きますか?」
俺としてはまず、マリナに無事の報告をしておきたい。
この街で、俺たちの帰りを待ってくれているのはマリナだけだしな。
「多分、冒険者ギルドに行ってもマリナはいないから、直接行ってみます」
「オスッ! 今日まで俺たち、ホリーロードのメンバーをご指導して頂いて、ありがとうございました!!」
カリスはビシッと腰を曲げた。
「気にしないで下さい。だって俺たちは兄弟クランですよね? 助け合うのは当然です。それに俺は何もしていないですし」
「ーーッ! 兄貴!!」
半泣き顔のカリスが俺に抱きついてこようとするが、機敏にかわしていく。
こんなこともあろうかと、ステータスの敏捷値を上げておいた。
それは冗談だけど、ステータスを上げるとやっぱり動きが変わってくる。
特にホーリーロードのメンバーの動きは、とても冒険者として新人のそれだとは思えない。
このヴァルハラ迷宮都市の力関係や勢力図が、ホリーロードを中心にして変わっていくのかもしれない。
盛大に転けるカリスを尻目に、ベネッサが俺に右手を差し出してくる。
その手をしっかりと握る。
「シンヤ君、ティーファちゃん、ありがとう。あなた達と知り合えて本当に良かったわ。約束は必ず守るからね」
「ええ、俺の方も約束は必ず守りますよ。その時は迷宮の知識とか、また教えて下さいね」
ゴーンが俺とベネッサの間に立つと、ニヤリと顔を歪ませて口を開いた。
「おい、おい、辛気臭いぞ! 俺たちは同じ冒険者だぞ? どうせ今日もいつも通り、列に並んで立ち話でもしているだろ!」
いや、流石に今日くらいは休ませて下さい!
その不気味な笑みは一体何なんだ?
まさか!? 今から潜るとか言いださないよな?
「おい、おい、ゴーン! 今日は流石に休ましてくれよ。みんなゴーンほどタフじゃないんだ」
横を見ると、モルスがゲンナリとした表情をしていた。
イケメン風だった長い髪の毛はボサボサで、どこかの浮浪者のようだ。
まあ、それを言ったら男はみんな無精髭を生やして酷いものだし、女性も身なりに気を使っていても、疲れや汚れは誤魔化せていない。
「ちょっ、君。今、失礼なことを考えてたでしょ」
「ファッッ!!」
こいうことに妙に鋭いナターシャが、俺の頬を突いてくる。
前は目すら合わしてくれなかったのに、今は滅茶苦茶スキンシップをとってくる。
態度が大きく軟化したのは、天職を魔法使いに変えてからだと思う。
そんなナターシャの態度に対して、ティーファが反抗心を剥き出しにしている。
ナターシャに、どうして俺にそんなに触るのか聞いてみたら「玉の輿、玉の輿」と理由を包み隠さずに言っていた。
玉の輿って……俺って凄く貧乏なんだけど、と伝えたけれど、今の所ナターシャに止める気配はない。
って、そろそろ話を切り上げて、マリナの家に行かなきゃ。
「みなさん、俺はもう行きますね。また会いましょう」
「兄貴! また今度っす!」
「バイバイ。シンヤ君、ティーファちゃん」
「お疲れ様。ありがとう、シンヤ君」
「じゃあね」
「シンヤ! 待ってるぞ!」
長い迷宮生活だったけど、今思い返してみたら楽しいことも多かった。
それは多分、このメンバーと一緒に過ごせたからだ。
ただ力になっただけでなく、教わることも多くあった。
仲間の大切さとか。
感謝しているのはこっちの方です。
ありがとうございました。
ホーリーロードメンバーは、バズズラスネークの王から剥ぎ取った大量の魔石を手にし、冒険者ギルドの方に向かって行った。
実は今回の戦利品は全て、ホーリーロードの方で査定に出してもらうようにしている。
このやり方でも俺に不利益が出ることはないからだ。
ホーリーロードが査定申請書に、エンジェルロードとの合同と記し、それぞれの取り分を明記すれば俺が持って行かなくても、お金は手に入るようになっている。
かなりの魔石の量で、持ち歩くには不便だから、俺から頼んだわけだ。
遂に貧乏から脱出できる!
借りたお金も返せるし、早くマリナの家に行こう!
マリナの家には一回だけ行ったことがあったので、迷わず家の前まで行けた。
俺って頭は良くないけど、道を覚えるのって得意なんだよな。
地平線の向こうの方を見ると、少しだけ空が赤みを帯びているように見える。
もう直ぐしたら夜が明けそうだ。
玄関をノックしてみる。
反応がない。
そりゃそうか……。
まだ朝になってないもんな。
置き手紙を書いて、一旦宿に戻るか。
そう思った時、目の前の扉がユックリと開き始めた。
「え……………………………………………………嘘ッッ! シンヤ!?」
扉から出てきたのはマリナだった。
瞳が充血していて、目の下のクマが酷い状態になっている。
見た感じ、一日中泣いていたような感じだ。
俺のせいではないかもしれないけれど、凄く申し訳ない気持ちになった。
「ただいま戻りました」
マリナの顔を見ると元気よく、という訳にはいかず、声は小さめだった。
でも真っ直ぐとマリナの目を見つめて言った。
「シンヤッッ!!」
「うわっ」
マリナが勢いよく俺の胸に飛び込んでくる。
今度はしっかと受け止めた。
「無事で…………無事で……よかった。本当によかった」
俺の胸で子供のように泣くマリナを見ていると、俺も涙が止まらなくなった。
冒険者になった以上、危険は隣り合わせだし、いつ死んでもおかしくないと覚悟は決めている。
他の冒険者だってそうだと思うし、管理員だってそうだと思う。
だからここまで心配してくれているとは正直思わなかった。
迷宮にいる時はあれがベストだと思っていたけれど、今のマリナを見ていると自分の不甲斐なさが腹立たしい。
今だからああしていれば、こうしていればと思ってしまう。
「ゴメンなさい。もっと俺がしっかりしていれば……」
「いいんです。新人冒険者の基本は無事に帰ってくること。それが全てです」
マリナは下から俺を覗き込むようにしてニッコリと笑った。
「この季節は冷えますから中に入って下さい。話したいことがいっぱいあるでしょうし」
「え? 良いんですか?」
女性の家に俺みたいなのが入っていいの?
自然と湧き出た疑問だ。
「いいんです。さあ!」
マリナに背中を押されるようにして家の中に入った。




