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十三話・パワーレベリング

 人にはそれぞれ培ってきた経験や常識が存在する。

 俺だってこの歳まで生きてきたんだから、それなりの常識はあると思っていた。


 ただ今回の件では、常識の限度を軽々と超えてしまったようだ。



 なりたい天職に変えることは簡単なことではない。

 地道な努力を積み重ね、なおかつ才能と、その天職引き当てる運も必要なのだ。

 例えば天職『騎士』になりたいと思い、毎日剣を振るっていても、必ずしも変更できる天職が騎士になるとは限らない。

『戦士』だったり、『剣士』だったり、全く関係のない『料理人』だったりと、自分のなりたい天職が選ばれることは稀らしい。

 更に、長い人生の中で転職のチャンスは数度しかない。


 そんな中、この神殿では条件を満たしてさえいればどの天職でも変更が可能だ。

『農民』から『魔法使い』のような他業種への変更も可能だし、『魔法使い』から『魔導士』のような上級職への変更も可能だ。


 この世界の人間にとってみれば、そんなことが出来るのは勇者を超える力らしい。


「天職の変更なんて出来るはずがない!」「流石にバカを言い過ぎだぞ」といった声が上がったので、証明するためにベネッサに許可をもらって天職を変えてみた。

 ベネッサは「レア天職のレンジャーになれるならなりたいわね」と、信じていない様子だった。


 どうやら天職を変えることが出来るのは俺だけのようで、ステータス画面と同じような半透明のプレート上で、天職を選ぶことが出来るようだ。


 ベネッサの天職が変わった後がひどかった。

 恒例の沈黙と気絶からの、質問攻めだ。


 答えられることはほとんどなく、この神殿の力だということにしたが、信じてもらえなかった。

 明らに俺が主導してベネッサの天職を変えていたからなんだけど。


 ホリーロードのメンバーは言葉を濁す俺に何かを察したのか、質問の嵐はある程度で止んだ。

 その代わりに俺も! 私も! 天職を変えられるのか? という話になった。

 べネッサの天職を自分の都合で変えた以上、他のメンバーだけを断るのは申し訳ない。

 そう思った俺は希望に沿って、他のメンバーの天職を変えた。


 といってもこの神殿での転職は良いことばかりではない。

 この世界の人間が天職を変更する時、レベルは前の天職の時から引き継がれる。

 でも、ここで変更をすればレベルは一からになるし、その分ステータスも下がってしまう。

 どうやらスキルだけは引き継がれるようだけど。


 まあ、世の中そんなに甘くはないよな。


 そう思っていた時期がありました。

 世の中、俺以外には甘かったらしい。


 迷宮にこもってから数週間、色々な考察の結果、そんな結論が出た。


 戦闘系の職業と、非戦闘系の職業では、レベルアップの時のステータスの上がり幅が違う。

 それはこの世界でもある程度、認知されていることだ。


 非戦闘系から戦闘系に天職を変えられたとしても、レベルが変わっていないと、元から戦闘系の天職の人よりも、ステータスで差が出てしまう。

 基本的にこの世界では、レベルが上がってからの戦闘系への天職は不利だ。

 けれどこのエターナル神殿での転職は、そのデメリットを消してしまう。

 レベルが一からというのはデメリットではなく、むしろ有利。

 強くなってニューゲームっていうやつだ。


 俺には関係ないんだけどね。



 カリスは『騎士』から『聖騎士』に。

 モルスは『剣士』から『魔剣士』に。

 ゴーンは『戦士』から『重戦士』に。

 ナターシャは『村人』から『魔法使い』に変わった。


 実はナターシャの天職が村人というのは、ベネッサと本人以外は知らないみたいだ。

 みんな事情があるだろうから、このことは他の人には言っていない。


 全員が前職からグレートアップしている。

 カリスは中級職の中でもレアで、かなり強い職業だ。

 ゲームの時の話だけど。


 誰もが天職が変わって驚き、喜び、気を失った。

 心なしかホーリーロードのメンバーの俺を見るも変わったように感じる。

 カリスに至っては俺のことを「シンヤの兄貴」と呼ぶようになった。




 天職の変更が終わった後、全員にレンジャーのスキルの話をした。

 話し合いの結果、ここでレベアップをすることになった。

 実はこの神殿、安全地帯と同じ役割があるらしく、モンスターが中に入ってくることがない。

 ということで、あの日はここで一夜を過ごした。

 翌朝、神殿から出てみると不思議なことに、焼け野原だった迷宮が元通りのジャングルに戻っていた。

 モンスターも復活していた。


 ということで、辺り一面を焼いて視界をよくしてから、アイテム『マヌスの腕輪』でモンスターをおびき寄せる。

 出てきたバズズラスネークを、ティーファの火の矢(手加減バージョン)で瀕死にさせてから、ホーリーロードのメンバーでとどめを刺してもらう。

 寝る前にティーファの全力、炎の嵐でジャングルを焼くという作業を十日以上おこなった。

 経験値はとどめを刺した人だけ手に入るシステムのようなので、今回のやり方が一番効率が良かっと思う。


 迷宮に来てから大体十日を過ぎた頃に俺からの提案で、バズズラスネークの王を倒しに行くことにした。

 理由として、ホーリーロードのメンバーのレベルが二十を超えて、レベルアップのスピードが鈍化したこと。

 それとともに、天職を変更する前と比べて、実力が圧倒的に上がったことが挙げられる。

 俺とティーファ抜きでも、この人数で十四層を抜けられるだけの力が備わっていると思う。






 バズズラスネークの王は大きかった。


 大き過ぎてビックリしたティーファ。

 次の瞬間、豪速球のように飛んでいく火球。

 追い討ちをかけるように火矢が飛んでいく。


 瞬く間に燃える巨体。


 一瞬だった。




 一度倒してしまえば恐怖心は薄れた。

 あれだけでかくても攻撃を加えれば死ぬし、いざとなればティーファの火魔法があるという安心感もある。


 次のパワーレベリングの対象は決まった。

 ボス部屋は三時間ほどで復活する仕組みになっていて、間をおかずに何度もボス部屋を周回する。

 何度も復活する内に、バズズラスネークの王も段々と勢いがなくなっていったように思える。

 もしかしたらこっちが強くなっているせいかもしれないけど。


 俺たちは迷宮に取り残されてから急速に経験値を貯め、ホーリー・ロードのメンバーはレベル三十を超えた。

 その間、ティーファが森を焼きまくっていたのに、俺が上がったレベルは一だった。


 レベルアップまで重た過ぎるだろ!

 って、俺今回もあんまり活躍してないよな……。

 頑張っていたの、ティーファだし。


 もっと頑張らないと!!


 そんな誓いを立てつつ、ベネッサのスキルを使って地上に戻った。

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