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十二話・転職

「あちーぜ」

「本当に、いやになる暑さね」


 ホーリーロードのメンバーが俺の方を見て、なんとかしてくれという視線をいやらしくチラチラと向けてくる。

 みんな何か勘違いしているみたいだけど、俺は万能な魔法使いじゃないんだ。


 十四層内に入ったのはいいけど、予想通り見渡す限り焼け野原といった感じだ。

 俺らをこの場に連れてきたタイルスの天剣のメンバーも見当たらない。

 死んだのか、脱出したのか、それともまだ俺たちを待ち構えているのか。

 いずれにしろ俺たちには進むしか道はない。


 迷宮の基本的な知識として、階層が深くなれば深くなるほどその広さは増していく。

 一層は迷わず行けば、一時間程度で二層に降りることができる。

 二層から三層へはマリナの話によると二時間程度。

 このまま倍々で増えて行けばどれだけの時間がかかるんだろう?

 多すぎて計算できない。

 実際のところそんな単調に増えていかないだろうけど。

 十四層の広さはジャングルと呼ばれるだけの広さがあると、歩きながらみんな実感している。


「ちょい、ちょい、あれ」

「何? ナターシャ?」


 ナターシャが俺の袖を引っ張ると、人差し指を突き出した。

 人差し指の先を追っていくと、はるか先に何かがある。

 ナターシャが気がつくと同時に、他のメンバーも気がついたようだ。

 進路を少し変えて近づく。


 近づくに連れてそれが何か分かってきた。


「遺跡? この文字、見たことないわね」


 べネッサは興味深そうに、石に刻まれた文字をなぞっていく。

 なんだろう? ここ見たことある気がする。

 どこでだろ?

 うーん、思い出せない。


「べネッサ、中に入ろーぜ!」


 カリスは中がどうなっているのか気になっているようだ。

 顔が少年みたいになっている。


「もしかしたらお宝があるかもしれないわ。べネッサ! これで私たち、大金持ちよ!」


 ナターシャも興奮気味になっている。

 割とお金に貪欲なのかもしれない。

 べネッサは渋い顔を続けたまま文字を見続けている。


「こうなったべネッサは中々動かないぞ?」


 ゴーンが腕を組みながら苦笑いでべネッサを見つめている。

 しばらくの間べネッサを見守っていたが、モルスが立ち上がると、べネッサを覗き込むようにして顔を近づけた。


「べネッサ、何か分かったのか?」

「え? あ、ごめん」


 べネッサは首を横に振ると、文字から手を離した。

 結局分かったことは、古代文字ということだけ。

 俺もずっとこの建物を見たことがある気がして、思い出そうとしていたんだけど駄目だった。

 ふと、べネッサが見ていた文字が視界に入る。


 日本語に似ている。

 最後の方は『神殿』っていう風にみえるな。

 文字は所々かけていて、ハッキリとは分からない。



 エタ?



 エター?



 エターナル神殿!?



 あっ!? これエターナル神殿だ!!


 やっと思い出した!

 ここ、 《ヴァルキリー・クロニクル・オンライン》で転職の時に来ていた場所だ。

 やっと胸のつっかえが取れた気がする。

 よかった、よかった。


 ということは……転職できるのかな?

 ちょっとワクワクしてきた。

 まあ、ここがゲームの時のエターナル神殿と同じだとは限らないし、入ってからだな。


 作戦会議を開いた結果、全員賛成ということで中に入ることになった。

 入った瞬間、体がフワッと浮く感覚がした。

 何か別の世界に入ったような感じだ。


『エターナル神殿へようこそ。ラファエル様』


 突然脳内に響く声。

 それは天界に行った時と同じだった。

 周りを見ても、どうやらこの声は俺にしか聞こえていないみたいだ。


『あなたは誰ですか?』


 俺も脳内会話で返してみる。


『私は魂を司る精霊、レナス』


 レナス? 知らない名前だ。


『レナスはここで何をしているんですか?』

『私の役目は魂を導き、選択肢を与えることでございます』


 なるほど、それってやっぱり転職のことだよな。


『転職ができるっていうことですよね?』

『天職を変えること、種族を変えて転生させることが私の役目です』


 え?

 転生もできちゃうの?

 このクソ種族と職業からおさらば出来る!?


『転生は俺も出来るんですか?』

『不可能です』


 よしきた!!



 って、は?



 不可能です?



 ふざけんな!!



 いや、まだだ。

 勝負は終わっていない。



『天職を変えることはできるんですよね?』

『不可能です』



 どうなってんだーーーーーーーーッ!!



『この神殿って存在価値ありますか? 人、来ませんよね?』

『存在価値は私ごときが決めるべくもありません。最後に人が来たのは一万六千と五四九年前になります』


 いや、いや、人来なさすぎだろ!


『他に何かできることはないんですか?』

『この中でしたら、ラファエル様とティーファ様以外の天職の変更が可能となっております』


 なんで俺とティーファだけ駄目なんだよ!


『そういえばこの神殿ってかなりデカイですけど、なんでこんなに人が来ないんですか?』


 最大限、嫌味ったらしく言ってやった。


『このエターナル神殿はアテナス神様の因子を持つ者がいない限り、姿を表すことはありません』


 アテナス神様の因子?


『因子って何ですか?』

『お答えできません』


 そっちが言ってきたんだろ!

 もういいや。

 ここで出来ることは何もないみたいだし、早く迷宮から脱出して宿のベッドでゆっくりしたい。


『この迷宮から簡単に出る方法はありますか?』


 どうせ無理とか言うんだろうけど一応聞いておく。


『本来答えるべき質問ではないのですが……簡単な方法が一つあります』


 ないですよね。

 って、あるの!?


『教えてください!』

『べネッサ様が天職、『レンジャー』に変更できる条件を満たしております。レンジャーに変更後、レベル三十まで上げていただければ、固有スキルである『レミールナ』を習得します。このスキルは、ダンジョン、迷宮といった隔絶された世界から脱出することが可能となっております』


 まじですか!?

 レベル三十は簡単ではないけど、上手くやれば不可能ではない。

 他の天職は俺と比べても上がりやすいのは間違いないからな。

 早速べネッサに話してみよう!


「べネッサさん、天職の変更ができるらしいです!」


 全員が俺の方を振り向いた。

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