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九話・無敵? 無双? ティーファが燃やす!? ヴァルハラ迷宮その5

「シンヤこれは一体どいうことだ? どうやって今の魔法を放った?」


 放心状態からいち早く立ち直ったのはゴーンだった。

 ゴーンはどうやら今の魔法はティーファじゃなくて、俺が放ったと思っているらしい。


「今のはティーファの火魔法です」

「ファッッ!」

「ティーファの火魔法……だと……いったいどういう……訳が分からん」


 ゴーンはティーファを見つめると言葉をなくしたようだ。

 ゴーンと入れ替わるように今度はカリスが立ち直った。


「シンヤ! どうなってんだこれ!? さっきの踊りのせいなのか!?」

「いえ、あのステップは関係ないです」

「じゃあどうやって!?」


 どうやってって、魔法しかないと思うだけど。


「さっきも言ったようにティーファの火魔法で」

「ティーファ? こいつがか? おいおい、まだシンヤの魔法っていう方が納得できるぜ」

「ティーファちゃんが…………そんなことあり得るの? 世界の法則を無視しているわ」


 べネッサも同様にティーファの魔法だとは納得できないようだ。

 まあこの際、誰の魔法でもいい。

 話を強引にでも進めないと、いつまで経ってもここから出られそうにない。


「ホーリーロードの皆さん、今のが俺とティーファの魔法です。で、俺からの提案です。この火魔法でこの危機を乗り越えられる可能性があると思いませんか? 今は時間がありません。出来るだけ早く事を決めましょう」


 そうだ! やるなら早く。

 あの男は今の火魔法をどこかで見ているかもしれない。

 直接見ていなくても異変くらいは察知しているはずだ。

 だとすれば燃やすなら早いほうがいい。


「俺は今からあの火魔法でこの森を燃やしいこうと思います。今見えるように火の勢いは中々衰えません。あの男は罠を張って待ち構えているかもしれませんが、わざわざかかりにいくことはないと思います」

「確かにさっきの魔法は凄かったけど、迷宮を燃やすなんてできるの?」

「迷宮と言っても森と変わらない。ナターシャが言うことも分かるけど、やってみないと分からない」

「あ、また呼び捨て」


 言ってても始まらない。


「ティーファ、やるぞ!」

「ファッッ!!」

「全力の炎の嵐だ」


 ティーファがいつもより長く念じだす。

『炎の嵐』は火魔法のスキルレベル四で使えるようになり、リキャストイムは五分、消費MPは三十だ。

 火の矢や火の玉と違いかなり広範囲な魔法で、ティーファが全力で放つとどうなるのか未知数だ。


 少しの間の後、森の奥の方の空間がユラユラと揺れだした。

 危険を察知してか、木の上から十メートルを優に超えそうな蛇が慌てて逃げ出していく。


 え? 俺とティーファここにいても大丈夫?

 なんかヤバそうだ……。



 そう思った瞬間。


 小さな赤い旋風が唸りをあげるようにして巨大化していき、目を開けていられないほどの熱風が襲ってくる。


 し、死んでしまう!?


 体が焼かれようとする寸前、俺の膝が何かに押される。

 バランスを崩すと、後ろに転がるように体が安全地帯に入っていた。


 前を向くとティーファが心配そうにこっちを見ている。

 今のは本気で危なかった。


「ティーファ助かった」


 なんか不思議な感覚だ。

 一歩進むだけでその先は地獄絵図のようになっているのに、安全地帯の中では熱さを全く感じない。


 ティーファの全力の火魔法。

 しかも現在の最高スキル。

 想像通りヤバかった。

 ここから見える範囲は全て火の海で、モンスターも森も関係なく飲み込んでいる。

 これは火が消えるまでかなりの時間がかかりそうだ。

 となると問題は食料と、タイルスの天剣との意図せぬ遭遇だ。

 その関係で気になることがある。


 ティーファの魔法のことだ。


 どうしてさっきは魔法が使えなかったのか。

 それは安全地帯と関係があるんだろうか?

 マリナから安全地帯に関して深く聞いていなかった。

 そういえばべネッサは冒険者の学校に行っていたらしいし、物知りだから何か知っているかも!


「べネッサさん! 安全地帯って…………って、おーい、べネッサさん」


 今日二度目の放心状態。

 しかもさっきよりも酷くて、なんだか白目を向いているような……。

 他のみんなも森の方を見たまま微動だにしない。


 みんな気絶しているのか?


 べネッサの頬をツンツンと突いてみる。

 反応がない。


 ナターシャの頬もツンツンと突いてみる。

 ずっと気がつかなかったけど横顔かなり可愛いし、いい匂いがする。

 女の子を見つめるチャンスなんてこれから先、一生ないかも。

 森の方を見ていたナターシャの瞳がゆっくりとこちらに移っていく。


「…………!? ちょっ!! 何してるのよ!」


 俺が隣に立っていることに驚いたのか、目をキョロキョロとさせている。

 挙動不審だ。


「話しかけても返事がないから気絶しているのかと」

「き、気絶なんかしてないわよ! ただ……ちょっとだけ驚いてただけ」

「また作戦会議を開きたいから、みんなを正気に戻すの手伝って」

「分かったわ……それと君……」

「ん? 何? また敬語使えって怒ってる?」


 ナターシャの方を見ると相変わらず目を合わしてくれないが、怒っているという感じじゃない。


「い、意外とやるじゃない。君には特別に、今の言葉遣いのままで許してあげもいいけど?」

「じゃあそれでよろしく。そういえばナターシャって歳いくつなの?」

「十五よ」


 って、俺よりも年下なの?

 この世界の子供ってみんな大人びている子が多いな。


 ナターシャとどうでもいい話をしながら全員を正気に戻していく。


「シンヤ! 今のも魔法なのか!?」

「シンヤ!? どうなっている?」

「あり得ないよ、シンヤ君」

「これがティーファちゃんの魔法?」


 次々と口を開いていくホーリーロードのメンバーたち。

 あれや、これやと質問攻めにされる。

 よし、みんな正気に戻ったしこれは言っとかないと。

 俺が手の平を一回パンッと叩くと、質問の嵐が止んだ。


「ホーリーロードのみなさん。質問の答えを言う前に一つ約束を守って欲しいんです」

「おう? なんか知らねえけど言ってみろシンヤ」


 カリスがリーダーらしく答える。


「これから俺たち『エンジェル・ロード』が使う魔法とかは地上に戻っても誰にも言わないで欲しいんです」

「……どうしてだ? 隠す必要ないだろ? そんだけ凄え魔法があるならよ」


 カリスは不思議そうに首をかしげる。

 そこにべネッサがカリスをたしなめるように言った。


「カリス、少しは頭を使いなさい」

「頭を使えってどういうことだよ」

「あれだけの魔法が使えるのなら、シンヤ君はどんなクランでも引く手数多の存在よ。どんなクランにだって入れるし、優遇もされるはず。争奪戦だって起きるはずだわ。でもシンヤ君はさっき、ほかの管理員から見捨てられたって言ってたわ。自分の実力を見せれば選び放題なのにね」


 カリスは傾げていた首を元に戻すと、勢いよく話し出した。


「そうか! そういうことか!! シンヤは何か秘密を抱えていて、力を使えない、もしくは使わなかった。その秘密が何か分からねえけど、魔法を使うとバレる可能性があるってことか」

「まあ、そんな所です」

「それともこの力自体を隠したかった……か。強すぎる力は時として妬みや排除の対象になる」


 モルスはアゴに手を当てて、考え込むようにして言った。


 俺が隠したい理由はモルスが言ったことと変わらない。

 力を見せびらかすのは簡単だ。

 ティーファの魔法を見れば寄ってくる人はいくらでもいると思う。

 その中の殆どは善意の人だろうけど、確実に悪意のある人も寄ってくるはず。

 だからある程度の力がつくまでは、ティーファの魔法はできるだけ隠しておきたいんだ。

 やらかし癖のある俺に出来るかは分からないけど。




 ホーリーロードとの話し合いの中で、ティーファの魔法について口外しないことを約束してくれた。

 ホーリーロードのメンバーは、未だに俺が魔法を放ったと思っている節があるけど、どちらでもいい。


 そして安全地帯のことを聞いた。

 この場所では魔法、武技の使用はできないらしい。

 通常の攻撃なら可能らしいが。


 次に食料のこと。

 全員日帰りのつもりだったから非常食しか携帯していなかった。

 まあ、食料はモンスターを食べればいい。

 バズズラスネークの肉は中々美味で、高級品として市場に出回っているらしいし。

 これを持って帰れば、俺たちは明日の宿代を考える生活から抜け出せるかもしれない。


 後は水の問題くらいか。

 これは中々厳しい状況だ。

 もしかしたら十四層の中に水場があるかもしれないけど、その確証もない。

 みんなが頭を悩ませている時に、カリスが馬鹿な提案をしてくる。

「オシッコ飲めばいいじゃん! 自分のが嫌なら他のやつの貰えばいいし」と言って場を凍りつかせ、盛大に女性二人から殴られていた。


 炎の勢いは未だに衰えることなく、かれこれ二時間は経っていた。

 いつまでこの場に?

 そんな疑問がよぎった時、脳内に響く音。

 ファンファーレだ。


「え?」

「ファッッ!?」



 今レベルアップ?

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