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八話・無敵? 無双? ティーファが燃やす!? ヴァルハラ迷宮その4

「お話中のところすみません」

「あ? なんだ? 良い案でも浮かんだのか?」


 ホーリーロードのメンバーが一斉にこっちを向くと、面を食らったような顔で見つめてくる。

 そりゃそうだ。

 さっきから俺はずっと話してなかったしな。


「おい、悪かったなお前を巻き込んで」


 ゴーンが申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「そうね、シンヤ君ゴメンね。私たちに巻き込まれるようなことになってしまって」

「お前ら何言ってんだよ! シンヤはもう俺たちクランの仲間だ。他人行儀なこと止めろよ! まあこいつも頑張っちゃいるが、こんな修羅場経験したことなくて声も出なかったんだろ」


 いや、ビビって黙ってたわけじゃないから。

 俺だって色々考えてたんだ。

 ってそうだ! クランのことしっかり言っておかないと!

 俺は立ち上がると、腰を45度曲げた。


「すみません。まず俺がホーリーロードに入るってことですけど、俺はクランに入れません。申し訳ありません」

「え? どういうこと? シンヤ君」

「そうだ!! どういうことだシンヤ?」


 立ち上がるカリスと、べネッサ。

 心苦しいけど、ここはハッキリとさせておくべきことなんだ。


「俺には今のクランを辞めて、他のクランに移れない理由があります。それはクラン管理員のマリナの元で、冒険者としてやっていきたいという理由です。マリナは全ての管理員から見捨てられた俺を拾ってくれました。一緒に頑張ろうって言ってくれました。厳しいけど凄く思いやりのある人です。俺はマリナと一緒に上を目指します。だからごめんなさい」


 場がシーンとなった。

 みんなどいう反応をするんだろう?

 もう前みたいに話しかけられたりしないのかな?

 知らない人からどういう反応をされても慣れっこだけど、知ってる人の態度が変わるのは凄く怖くて辛いんだ。


 重苦しい空気の中、べネッサが口を開く。


「そっか。シンヤ君ゴメンね。私たちの方がシンヤ君の気持ちを聞かずに勝手に事を進めてたみたいね」

「なんだよ! そんな理由があるなら先に言っとけよ! でも俺はそいう男気がある所は好きだぜ」


 カリスは少し照れ臭そうに頭をかきながら言った。

 ちょっと意外な反応だ。

 みんな驚いてるけど、腹が立っているとかそんな感じじゃない。


「シンヤ君。マリナ管理員って何か噂を聞いたことないかい?」


 モルスが言い辛そうに質問してきた。

 確かに、マリナについては良い噂を聞いたことがない。

 というか、そのことについては本人から初めて会った時に直接聞いたからな。

 死神のあだ名がついてるんだっけ?

 まあ俺には関係ない。


「知ってます。モルスさん」

「彼女が担当したクランはこれまで全て全滅している。そして今回のこと……」


 俺に何か考えを促そうとしているんだろう。

 モルスはその先の答えを言わなかった。

 多分モルスはマリナも新人潰しに関わっていると見ているんだろう。


「それはないです。俺はマリナのこと、信じていますから」

「……そうか。君がそう言うなら俺がとやかく言うことじゃないな」


 モルスはあっさりと引き下がった。

 マリナが騙す?

 うーん、やっぱり想像つかないな。


 ゴーンは立ち上がると、尻についた泥を叩き落としていく。

 そして俺の顔を見て口を開いた。


「ではこれからホリーロードとシンヤのクランの合同作戦となるわけだ」

「そういえばシンヤ君のクラン名って聞いてなかったわね?」

「あ、そういえばそうですね。人に聞かれたことなかったですから」

「クラン名を人から聞かれて答えてる間はまだまだだからな。高ランククランにでもなれば勝手に噂が一人歩きして、誰でも知っているようになるさ」


 俺はあんまり目立ちたくないけど、ゴーンの言う通りみんなそこを目指して頑張っているんだろう。


「俺のクラン名は『エンジェル・ロード』です」


 色々候補はあったけど一番しっくりきたのはこれだった。


「え? 君、内のクランと被ってるじゃない。そんなのおかしいわ」


 ナターシャは俺に不満があるようだ。

 確かに似ているといえば似ているけど、もう決めたことだし。


「いいじゃねーか、ナターシャ。俺たちのクラン、ロードを継ぐ者って感じでよ。これから俺たちは一緒に死線をくぐり抜けんだ。兄弟クランも同然だぜ」

「よろしく頼むよ。エンジェルロードのシンヤ君」

「よろしくお願いします。モルスさん」


 モルスを筆頭に次々と挨拶を交わしていく。

 みんな生きるか死ぬかの場なのに意外と余裕があるな。

 いや、みんな明日には生きていられないと思っているから、今残された時間を大切にしようとしているのかもしれない。


「君、名前のセンスがカリスと同等ね。よろしく」

「え、あ、よろしく。ナターシャ」

「ちょ、なんで私だけ敬語じゃないのよ」

「えーと、なんとなく?」

「なんとなくって、納得いかないわ」


 頬を膨らませて不満げな顔をするナターシャ。

 年齢も一緒くらいだろうしまあいいでしょ。


「それで、実は俺が言いたかったことはもう一つあります」


 そう、ここからが本題だ。

 この場を脱出するための方法。

 俺が黙り込んで考えてたのはどうやって脱出するかじゃない。

 どの方法で脱出するかだ。


 俺はヴァルハラ迷宮都市に来てから布教活動は行っていない。

 できればもうあんな大惨事は起こしたくない。

 天界でダイスを回す回数は減らしておきたいんだ。

 擬似天使化はティーファに餌をあげる日となっている。


 ただ、不測の事態に備えるために擬似天使化は必ず一回は残している。

 黒が出た時にもし擬似天使化の回数が残っていたら、間に合っていたかもしれない。

 そう考えずにはいられないから。


 擬似天使化を使えば俺とティーファだけなら簡単に脱出できる。

 残りの五人も連れて行けるだろう。

 でもこれは本当の隠し玉で、安易に人前では使えない。

 どうしようもなくなった時は使うしかないけど、出来ればそれは避けたい。


 となるとやっぱり頼りになるのはティーファだ。

 ティーファの火魔法は底が見えないというか、まだまだ温存している部分が大きいと思う。

 今回は全力で撃ってもらう。

 全て燃やせば罠だとかモンスターだとか関係ないからな。

 それが作戦だ。

 うん、なんとかなるだろ。


「おう、言ってみろ」

「実は言ってなかったことがあります。ゴブリンに取り囲まれた時、爆発がありましたよね?」


 カリスは小さく頷くと答えた。


「確かにあったがそれがどうした?」

「実はあれやったの俺とティーファです」

「へーそうか。シンヤとティーファがね……ってアホか! そんな嘘通じるかよ…………嘘だよな?」

「そうよカリス。シンヤ君とティーファちゃんがアレはないわよ」

「いえ、嘘ではありません。今から証明します。ティーファ、やるぞ!」

「ファッッ!!」


 ティーファが必死に念じると槍のような火の矢が……で……な……い!?


「おい、おい、どうしたんだティーファ!? いつものやつ頼むよ」


 もう一度ティーファが念じるがなぜか魔法が発動しない。


「シンヤ、さっきから何してんだよ? 証明するってどうやって」

「ちょっと待ってください」


 ティーファ、何か調子でも悪いのか?

 そんなことを考え出した時、ティーファがステップを踏み始めた。

 ティーファが何かを伝えようとしている時の動きだ。

 見逃さないように目を凝らしてその動きを見つめる。


「なに、なに? お腹が空いて……魔法が出ない……何か食わせろ……だと?」

「ファッッ!?」


 ティーファは派手にひっくり返った。

 そういえば前もこんなこと言ってたな。


「シンヤ、証明するってその踊りのことか? 確かにいい踊りだが、爆発となんの関係があるんだ?」


 ティーファは起き上がるとスタスタと歩いてく。


「ティーファ、そっちは危ないって」


 ティーファが向かった先は十四層だ。

 慌てて追いかける。

 走るティーファ。

 本気を出したティーファには到底追いつけない。

 ステータスが違いすぎる。

 ティーファはついに安全地帯を出てしまう。

 が、そこで立ち止まって念じ始めた。


「あ!」


 後ろから驚いたような声が聞こえてくる。

 後ろを振り返るとみんなティーファを追いかけていたみたいだ。

 そして前を向くと猛るように燃え盛る火の矢が宙に浮いている。


「ファッッ!!」


 ティーファが一声かけるとその矢は森の中の木を突き抜けた。

 貫かれた木は瞬く間に炎に包まれていく。

 火の矢は勢いが衰えず、森を引き裂くように貫いていき、火の柱を次々と上げていく。


「ファッッ!!」


 満足そうに喉をならすティーファ。

 子供を褒めるようにティーファを抱き上げて、頭を撫でてあげる。


 さすがティーファ!


 後ろを振り返ると全員の目が点になっていて立ち尽くしている。

 開いた口が塞がらないってこういうことをいうんだな。

 五人の表情を見て改めてティーファの力を感じ取った。

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