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七話・無敵? 無双? ティーファが燃やす!? ヴァルハラ迷宮その3

 ヴァルハラ迷宮十四層。

 そこはBランクに到達する為の最後の難所であり、犠牲を出さずに攻略することは難しいといわれる場所。

 そんなことをマリナから聞いたことがある。

 俺とティーファにはまだ先の話だと思っていた。


「え? おい! お前! 一体ここはどこだよ!?」


 声を荒げるカリス。

 その顔は怒りというよりも、戸惑いの色の方が濃い気がする。

 他の四人もそうだ。

 みんな何が起こっているのか分からないといった感じだ。


 カリスの視線の先には、俺たち六人以外の人が立っている。

 俺たちをこの場所に転移させた人物だ。

 顔をフードでまとっているせいで性別さえ分からない。


「この場所がどこかだって? ここはヴァルハラ迷宮、十四層だよ」


 声から察するに、若い男のようだ。

 馬鹿にしたように笑いながら答える声が、無性に腹立たせる。


 やっぱり間違いとかでここに連れてこられたわけじゃなさそうだ。

 目的はなんだろう?

 金?

 いや、俺たちは貧乏だからそれはないか。


「じゅ、十四層だと!? なんでこんな所に俺たちを連れてきやがった!?」

「なんでって? そりゃ死んでもらうためさ」


 目的は俺たちの死?

 快楽殺人的なやつか?

 それとも新人潰し……。

 どっちにしろ厄介なことになってしまった。


「死んでもらうって、私たちが何したっていうのよ!!」


 べネッサが声を荒げると、フードを纏った男はまた馬鹿にするようにして笑った。


「何がおかしいよのよ!!」


 ナターシャが男を睨みつける。


「ごめん、ごめん。いや、だってさ、ここに連れてきた奴らはみんな同じことを言うからさ。『ここはどこだ?』とか『俺たちがどうして?』ってさ。そういう声を聞くと、可哀想だなっていつも思うんだ。だから僕は教えてあげるんだ。どうして君達が狙われたのか、ここがどんな場所なのかを。僕って優しいだろ?」


 気味の悪い奴だけど、この意味の分からない状況を向こうから説明してくれるって言うんだから、何か罠があるのかもしれないけど話は聞いておこう。


「どうして俺たちは狙われているんですか?」


 俺の声を聞いて男がこちらの方を向いた。


「君が例の笑いのセンスが抜群の醜男君か。君とホーリーロードが一緒に行動してくれて手間が省けたよ。……ってそうだな質問の答えは二つある。まずホーリーロードに関してだけど、君たちは僕たちの査定に引っかかってしまったんだ」

「査定ってなんだ!?」

「僕たちは新しく出来たクランの将来性を測っているんだ。そして君たちは将来性のある優秀なクランと判断された」


 べネッサが男の話に割って入る。


「だから私たちが強くなる前に始末しようとした。ってこと?」

「そんな所だね。まあ飛び抜けた才能を持っている人がいれば、強引にでも俺たちの仲間に入れるけどね。今回もいなかったのは残念だったよ」

「でも私たちがどうして優秀だと判断されたの? 監視なんてなかったはずだわ……まさかポール!?」

「そうだよ。あいつは元からそういう役目で君たちのクランに入ったんだ。後は僕が仕掛けた罠を突破したことだね。あれには驚いたよ。ポールがホーリーロードの実力を見落としていたのか、それとも……」


 男がフードの隙間から鋭い視線を俺に向けてくる。

 ルイス村長の強烈な視線に慣れたお陰で全然怖くないが。


「そしてもう一つの答えがそこの醜男君。君は三等級の魔導具を持っていたらしいじゃないか? どこからそんな代物を手に入れたんだ?」

「どこから? マシュール……じゃなくて、『タイルスの天剣』っていうクランから預かっていた物です」

「今更そんな嘘をつかなくていいよ。君の前に立っているのがタイルスの天剣のクラン員なんだから」


 こいつがタイルスの天剣のメンバー!?

 っていうことは、この新人潰しの裏ではギルドマスターも関わっているってことか?

 許せない。


「入手場所は死んでもお前たちに言うつもりはない」

「ははは、えらく嫌われたなあー。入手場所を言えば君だけは助けてあげてもいいのに」


 ギルドマスターといい、こいつといい嘘ばっかり言いやがって!

 俺を本当に助けるつもりなら、新人潰しの話なんてしないだろ!


「遠慮する。俺はこのメンバー全員で迷宮から出る」

「あっそ。じゃあ君、拷問決定!」

「ファッッ!!」


 男の嗜虐的な視線にティーファが怒りを表す。


「待て、ティーファ。今はまだだ。もう少し話を聞きたい」


 小声でティーファを諭すと、男に疑問をぶつける。


「どうしてお前は一人なんだ? いくら俺たちが低ランククランといっても、一対六だ。負ける可能性だってあるだろ?」

「ん? 僕が負ける? 何言ってるんだ? ああ、ここは笑う所なのか。さすが笑いのセンスが抜群の醜男君」


 あの感じ、嘘じゃなくて本気で俺たちに負けると思っていないんだ。

 俺自身強い魔物と戦ったことは何度もあるけど、強い人間となると記憶にない。

 未知の相手だ。


「もうそろそろ、そっちの質問はいいだろ? 次は君達がどれだけ凄い場所にいるのか教えてあげよう。おっと、そこのハゲ頭君。今は話を聞く時だ。まあ相手をして欲しいのならやってあげてもいいけど」


 目の端でカリスがハルバードを構えようとしているのが見えた。

 ゴーンも坊主だけど、ハゲと言われるとカリスに目がいってしまう。

 カリスは舌打ちをしてハルバードを下に降ろした。


「ここは十四層の安全地帯。ということはこの先に進めば何があるのか知っているかな? 新人クランの皆さん」

「ボス部屋だろ!! 俺たちだってそれくらい知ってるぞ!!」

「じゃあどんなボスがいるのか知ってるかい?」


 場が少しの間静かになると、べネッサが小さく呟いた。


「……バズズラスネークの王」

「へぇー君、結構物知りだね。ヤバいよねー、あいつら生きた人間を丸呑みにするんだよ。あいつらに飲み込まれた人間は、生きたまま一ヶ月近くかけて消化されていくんだ。僕も何度も飲み込まれていくのを見ているけど、あの飲み込まれる最後の断末魔は凄いよ。すごく興奮するんだ。それに自分の末路を知った時の顔は本当にたまらなく……たまらなく……美しいよ」


 何かに恋焦がれるように語る姿は気持ち悪さが極限を超えている。


「チッ、変態野郎が!!」


 カリスの言うことはもっともだと俺も思う。


「戻ろうにも十四層にはバズズラスネークがうじゃうじゃいるからね。かといって、ここに止まっても助けはこないよ? この安全地帯は俺たちタイルスの天剣の根城だからね。君たち、どうするのかな? 僕なら一途の望みを持ってバズズラスネークの巣に飛び込むかな?」

「チッ! それは変態のお前くらいだろうが!」

「私たちはどれも選択しない! あなたを倒してあなたから帰還石を奪うわ」


 べネッサの言う通りこいつは帰還石を持っているはずだ。

 ここから一人で十四層を登って行くなんて出来ないはずだ。


「帰還石? ああ、持ってるよ? ほら」


 男は俺たちに見せびらかせるようにして、フードコートの中から取り出した石を前に突き出した。

 誰かが指示を出した訳じゃないけど、男に向かってジリジリと詰め寄り出すホリーロードのメンバー。


「欲しけりゃ、取りに来るんだな」


 そう言って男は安全地帯を飛び出し、十四層に向けて走り出した。

 男の足は思ったよりも速くて、誰も追いかけられなかった。

 いや、多分みんな同じことを考えていたのかもしれない。

 この先にいけば死んでしまうと。





 男が走り去った後の空気は重苦しくて、みんな座り込んで誰も言葉を話そうとしない。

 みんなどうすればいいのか分からないんだ。

 俺も軽々しく何かを言えるような雰囲気じゃない。

 10分くらい経っただろうか? カリスが突然立ち上がると声を張り上げた。


「おい!! 俺はあいつを追いかけるぞ! こんな所で座って餓死するくらいなら戦って死ぬ!」


 みんなカリスの方を向くがまたスッと視線を下に落とす。

 ここでずっと黙っていたモルスが口を開いた。


「どうやって? あいつがどこに行ったのか分からないのに? そもそも戦って死ぬって言うなら、あいつがここから走り出した時に追いかけるべきだっただろ! 俺もお前もあの時点でもうあいつに敵わないって感じてたんだよ! 俺たちじゃあ無理なんだ! 格が違うんだよ!」


 カリスは眉間にシワを寄せてモルスの方に向かうと、胸ぐらを掴んで言った。


「確かに俺があの時みんなを引っ張って行くべきだった。俺のミスだ。それは謝る。だけど、今お前が言ったことは納得できねー! 俺たちじゃ無理? 格が違う? それを誰が決めた? 決めたのはおめーだろ!! 俺は他人の物差しで自分を測られる気はないぞ」

「チッ、いっつも偉そうなこと言いやがって、お前に人とやり合う勇気があるのかよ『蘇りのカリス』さんよ!」


 今までの言い争いと違って、今日の言い争いは本気みたいだ。

 二人の喧嘩にべネッサが慌てて割って入る。


「今は喧嘩してる場合じゃないでしょ! お願い! 今はみんなで協力しよう?」

「そうそう。べネッサの言う通り、そういう暑苦しいのはもう勘弁」

「確かに言い争いは無駄な体力を消耗するだけだ。どうせ何かしらの戦いはしなくてはならないんだ。そこら辺で止めておけ」


 ナターシャとゴーンがべネッサに続くと、カリスとモルスは言い争いを止めた。

 お互い顔も見たくないと言った感じでソッポを向く。

 さっきよりも空気が悪くなったかなって思ったらそうでもない。

 どちらかというと絶望的な空気がいつもの空気に戻った感じだ。

 こういうのが仲間っていうのかな?


 所々でどうすればいいのか、どうすれば生き残れるのかという会話が起こる。

 色々な案が出ては消えていく。

 自然と喧嘩をしていた二人も会話の中に入っていく。


 端から見ると結構いいクランなんだよな。

 あの男が言っていたように結構将来性があって、もしかするとこのままいけば冒険者として名を残すのかもしれない。

 出会ってから日は経っていないけど、信用できる相手だと俺は思う。

 こんな不細工をクランに入れてくれるって言うぐらいだしな。


「十四層は森の中よ。死角が多くて罠があっても気がつきにくいわ。それにあいつだけじゃなくて、バズズラスネークにとっても格好の身を隠す場所にもなるのよ。それだと無理よ」

「じゃあ、ここであいつらの仲間が来るのを待つか? ここで戦って帰還石を奪う? それも無理じゃないか?」


 話は堂々巡りになっていて、良い案は出ていないようだ。

 俺も良い案が一つ思い浮かんだ。

 やってみる価値はあるかな?

 よしっ!


「ティーファ、燃やすぞ」

「ファッッ!?」

「十四層全て燃やし尽くすぞ」

「ファッッ!?」

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