六話・無敵? 無双? ティーファが燃やす!? ヴァルハラ迷宮その2
「ヴァルハラ迷宮緑にはこんな章がある。不毛のカリス……それはハルバードを自在に操り、モンスターを薙ぎ倒していく伝説のクラン、ホーリーロードのリーダーの名だ」
「不毛のカリスは晩年に言った。俺は確かに強くなって富を得た。名声も得た。でも俺は現状に満足したことは一度だってない」
「だって俺には毛がないから…………ウケる」
「や、や、やめろーー!! お前らば、馬鹿にしすぎだぞ!」
今は成り行き上、カリスたちのクランと一緒に行動している。
このクランはなんていうか、仲がいいのか悪いのか良く分からないけどみんな楽しそうだ。
「はい、はい、今日のカリスいじりはこれくらいにして、今は迷宮から確実に出る為に集中しましょう!」
「おう! べネッサの言う通りだ!! お前らもっと気、引き締めろ! 俺たちが今生きてるのだってたまたまだったんだ。あの状況で一人も死ななかったのは奇跡と言っていいんだからな!」
「犠牲はあった。尊い犠牲がな」
「あ? モルスなんか言ったか?」
「いや、あれだけのゴブリンが大量に死んだんだ。モンスターとはいえ複雑な気持ちになるさ」
「にしてもゴブリンと爆発はなんだったんだろうな? 意味わかんねーよ」
カリスはお手上げといった感じで両手を肩まで上げた。
「多分、あの宝箱にトラップが設置されてたんだと思うわ」
べネッサの回答にカリスは直ぐに反論する。
「いやだって、ここはまだ二層だぞ? アンジェリカ管理員だってトラップはないって……」
「そう、迷宮のトラップは確かにないはずよ。でも人為的に作ることは不可能ではないわ」
「え? そんな……どうしてそんな面倒ことを……」
相変わらず目を合わしてくれないナターシャが、戸惑いながら言った。
「俺も聞いたことがあります。確か今年に入ってからのクランを新規で立ち上げた新人の生存率は大幅に下がっていると。もしかしたら今回のことと関係があるのかもしれません」
「新人潰し……」
モルスが呟いた。
でも、こんな大量にモンスターを沸かせるような罠を作ることができるんだろうか?
べネッサなら何か知っているかもしれない。
「べネッサさんは、こんな強力な罠を作る方法に心当たりがあるんですか?」
「ん? えっとねこう見えて私は冒険者の学校を出てるの。そこで習った天職の中に『罠師』っていうのがあって、もしかしたらこんなことも出来るんじゃないかなーって」
天職『罠師』。
ゲームの時にはなかった職業だ。
もしこれが事実なら、誰かが俺たちのような新人を狙っていて、証拠を残さずに殺していっていることになる。
目的はなんだろう?
んー、考えても分からない。
「陰謀なんて考えてもしょうがない。今回俺たちは罠にかかり助かった。それが唯一の事実であり、それ以上でもそれ以下でもない。俺たちがやることは明日も明後日も変わらない? そうだろ? 迷宮に潜ることが俺たちの唯一の道だ」
あまり喋らないゴーンが熱が入ったように語った。
意外と熱いんだなこの人。
「ゴーンの言う通りだぜ。俺たちは迷宮で稼がなきゃいけねーんだ。明日潜らなくちゃ明後日には宿がなくなり、三日後には一文無しだぜ。罠にはこれまで以上に気を付ければいい」
「本当に貧乏は嫌よね。宝箱を見つけた時はやっとお金持ちになれると思ったのに……」
俺と一緒で新人冒険者ってみんな貧乏なんだな。
なんか同じ悩みを共有する戦友って感じだ。
ちょっと心強い。
そいういえばティーファの火球、俺たちの仕業だってバレなかったな。
ペットと思われてるティーファが、あんな大爆発を起こすなんて想像さえ出来ないんだろう。
そんことを考えていたら、いつの間にか迷宮の入口広場まで戻っていたようだ。
「おい、シンヤ! 驚くなよ? お前をクラン、『ホーリーロード』のメンバーに迎えてやる」
「え? は?」
いきなり何言ってるんだこの人?
「驚いたか? お前はまだ俺たちクランの力には達してねーが、今回一人で二層まで来た根性にお前の将来性、可能性を俺は見た。それに昨日言って今日即達成っていう、その熱意も気に入ったぜ。よろしく頼むぜ! シンヤ」
カリスは突然足をとめるとニカっと笑い、俺の前に手を出してきた。
「シンヤ君、ティーファちゃん宜しくね!」
「ファッッ!?」
何?
この空気。
この展開。
俺、一言も入りたいなんて言ってないぞ。
「まあ、六人目は君でいいよ。顔、ウケるし」
「俺は初めて会った時からシンヤ君がこのクランに入るって気がしてたよ。宜しく!」
なんて断りにくい空気なんだ……。
全員新しい仲間を迎えられて嬉しいのか、目が輝いている。
いったい俺はどこで間違えたんだ?
俺がカリスの手を取らないことに業を煮やしたのか、ゴーンがグイッと俺の手を掴む。
「え? あの……」
『俺、入る気ないですから』喉から出かけた俺の言葉より先にゴーンが語り出した。
「この手、このマメ、大分振り込んできている。それも毎日欠かさずに……。お前は強くなれるぞ。俺が保証する。一緒に来い、シンヤ」
「よし決まりだな」
ゴーンの手の上にカリスが手を置く。
それに続いて、べネッサ、モルス、ナターシャの順に手を置いていく。
ちょっ、何勝手に決まりかけてんだ!
強引すぎるだろ!
さらに上からもう一つの手が乗った。
え?
誰の手?
「転移、十四層」
歪んでいく世界の中で、俺は相手の姿を一瞬だけしか見ることができなかった。




