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五話・無敵? 無双? ティーファが燃やす!? ヴァルハラ迷宮その1

 今日は二層に潜るつもりで、迷宮の入り口にやってきた。

 列の最後尾に並ぶと、後ろから聞いたことのある声が聞こえてくる。


「よおっ! 生きてたか!」

「もう、カリス! 会って早々の挨拶がそれじゃ失礼でしょ!」


 後ろを振り向くと、昨日の新人冒険者が五人立っている。

 あれ? 昨日は六人じゃなかったっけ?

 今日は男三人に、女が二人という構成だ。


「おはようございます。今日は五人なんですか?」


 俺の質問に五人が眉をピクリと動かす。

 あれ? 空気が重たくなったぞ?

 何かやばいこと言ったかな?


「実は昨日、初めて二層に行けたんだけど……」


 気の良いお姉さんが重々しい口取りで話を進める。


「そこで、F級のクランと遭遇して……引き抜かれちゃった」


 お姉さんは悲しそうに言った。


「チッ、いなくなった奴の話なんてもうよそうぜ! あいつはその程度しか見る目がない男だったんだ。俺たちのクランの方が将来性は絶対にあるのによ!」


 カリスは怒りぶつけるようにして地面の土を蹴り上げる。

 舞った土煙が、俺と寝ているティーファを襲った。


「ゴホッ、ゴホッ!」

「ファッッ!?」

「あ、わりい」


 カリスは少しバツの悪そうな顔をして謝った。

 俺は別に良いんだが、ティーファが体を震わして明らかに怒っている。


「あ、鳥ちゃん起きた?」


 気の良いお姉さんが、嬉しそうにティーファに声をかけた。


「あ、この子はティーファって名前です」

「へぇー、ティーファちゃんって言うんだ。宜しくね。あ、私の名前はべネッサ。こっちが親友のナターシャ。で、こいつがアホのカリスで、後ろが頼りになるゴーンとモルス」

「あ、あれの名前はシンヤです。宜しくお願いします」


 紹介されたパーティーメンバーを見ていく。

 昨日はカリスの持っていたハルバードに目が行ったが、よく見るとそれぞれ違った武器を持っている。

 べネッサが腰につけているのは刃が細い剣だ。


「この剣? 珍しいでしょ。レイピアっていうのよ」


 あんな剣でモンスターと戦えるのかな?

 うーん、まあこの世界のことについてはまだまだ分からないことが多いし、レイピアは護身用で隠し玉を持っている可能性もあるしな。

 ベネッサって人当たりが良くて喋りやすいな。

 見た目は赤髪に頬と顔にソバカスがあって、なんか田舎者って感じがするけど。

 年は二十歳くらいで俺よりも年上で姉御肌って印象だ。


 ナターシャは腰に二つのショートソードを付けている。


「ナターシャは冒険者では珍しい双剣使いなのよ」


 へー、予備にもう一つ付けてるんじゃなくて二つとも戦闘で使うのか。

 顔を上げてナターシャの顔を見ると、ナターシャはふっと視線を横にずらした。

 俺を見た時の女子特有のいつもの反応だ。

 まあ、しょうがない。

 俺はこの世界でもとびっきりの不細工だからな。

 ナターシャは俺と同い年くらいで、べネッサとは対照的に身なりがきっちりとしていて、都会の子っていう雰囲気だ。


 ゴーンは坊主頭のいかつい兄ちゃんだ。

 雰囲気がルイス村長に似ていて、持っている武器は大斧だ。


 モルスは今時の男の子って感じで、クラスの人気者って感じの雰囲気だな。

 悪く言えばちょっとチャラそうとも言えるけど。

 武器は片手剣に背中に盾を背負っている。

 見た目と違って戦闘は正統派なのかもしれない。


 カリスは俺よりも少し年上って感じだな。

 背丈は中々高くて、百八十センチはあるように見える。

 あの武器を扱うにはこれ位の身長はいるんだろうな。

 俺もいつかあんな武器を扱ってみたい!


「お、お前! この武器に興味があるのか? 見た目と違って中々見る目があるじゃねーか! でもな! この武器は俺ぐれーパワーとセンスがねーと扱えねーぞ? 俺はこの相棒で人は10、モンスターは100を超えるだけ薙ぎ倒してきたんだぜ?」


 俺の視線を機敏に感じ取ったカリスが、自分の武勇伝を語り出した。

 武勇伝を聞いていると、一応この中ではリーダーっぽいし、キャラと違って実力はあるのかもしれない。


「カリス! そうやって調子に乗ってるとまた死ぬよ?」


 え?

 カリスって一回死んでるの?


「カリスさんって、一回死んでるんですか?」


 疑問をそのまま口出した。


「あーこいつ一回死んだらしいよ。こいつがホラ吹いてなきゃだけどな。後、こいつにさんずけなんていらないよ。また調子にのるからな」


 モルスはカリスをニヤニヤと見ながら答えた。


「おい、モルス! 俺は嘘は言ってねーぞ! 何回も言ってるだろ!」

「はい、はい、分かってますよ。蘇りのカリスはヴァルハラ迷宮でもちょっとした酒の肴になってるからな」


 二人が言い争ってる間にべネッサが横から小声で話しかけてくる。


「カリスはね、商隊の護衛中に盗賊に襲われて死んだらしいのよ。でもね、何者かが盗賊を倒して、更にカリスを蘇らしたらしいのよ」

「へー凄い話ですね」

「って言っても、全部カリスの作り話っていうこともあり得るしね。ヴァルハラ迷宮に帰ってきた残りの護衛二人はその時のことを話そうとしないし、残った護衛と商隊は予定通り隣国のローレル王国に向かったらしくて、真相は闇の中って感じなのよね」


 もしそれが本当なら凄い話を聞いたことになるな。

 俺以外にも神聖魔法を、しかもレベル九を扱える人間が存在しているっていうことになる。

 もしかしたらこいつが、噂の黒髪の勇者っていうやつなのかもしれない。

 ライチ村を襲った魔物の群れと、村人の言っていたこと。

 何か小さな引っかかりを感じる。


「それって最近のことですか?」

「そうよ。シンヤ君も噂を聞いたの?」

「……まあ少しだけですけど。それと、その商隊ってライチ村を通ったりしたんですか?」

「まあ私が商隊にいたわけじゃないけど、ヴァルハラ迷宮からローレル王国に向かうにはホルホルの森を通るのが普通だし、その途中でライチ村に立ち寄ることもあり得るかもしれないわね」

「そうですか……」

「あ、まさか、カリスを助けたのが黒髪の勇者だと思ってるの?」

「んーー、なんかそんな気がして……」


 俺がライチ村追い出されて原因は、魔族が黒髪の男を探し回っていたことにある。

 どうして魔族と関わり合いのない俺が狙われたのか、理由の分からない得体の知れない恐怖があったが、目的は俺じゃなくて黒髪の勇者だった可能性がある。


「まあ、普通そう思うわよね。ライチ村で黒髪の勇者が出たという話もよく聞くし」


 へえー、そんな話は初めて聞いたな。

 そういえばヴァルハラ迷宮に来てからまともに話した人って、マリナくらいしかいないからなー。

 人と関わるのはできるだけ止めようと思っていたけど、こういう話を聞けるのはありがたい。

 結局は黒髪の勇者と俺が間違われたっていうのが、一番可能性が高そうだな。

 他のやつが言ってたけど、俺って勇者っていう面じゃないから!

 どっちかっていうと、勇者に討伐されるモンスター側の人間だからな。


「そういえば、どうしてカリスさんは商隊を抜けてヴァルハラ迷宮に潜っているんですか? 商隊の護衛ってお金は結構もらえますよね?」


 べネッサは未だに言い争うカリスを一度見ると、少し間をおいて話した。


「今のカリスは人と戦うよりも、モンスターと戦うことの方が気が楽なのかもしれないわね」


 一度死んだということは殺されたということだもんな。

 人と戦うことに遅れを感じてもしょうがないことだ。


「べネッサさんはカリスさんの言うこと、信じてるんですね」


 べネッサは照れ臭そうに笑うと、俺の問いに答えた。


「カリスはバカでガサツだけど、嘘はつかないし、裏切らない。だから私たちのリーダーなのよ。きっとみんなそう感じたからカリスの元に集まったのよ。クランができてまだ間がないけど、私たちは必ず高みに登るわ。必ずね」


 べネッサの瞳は強く輝いていて、俺の遥か先を見ているようだ。


 仲間か……。

 なんだか懐かしく感じるな。


 っと、べネッサと話をしている内に前のクランが迷宮の中に入っていったようだ。


「昨日の坊主か……次はお前だ。今日も無事に帰ってこいよ。戻ってこないと俺がぶっ殺しに行くからな」

「行ってきます」


 ゴツいおじさんに会釈すると迷宮の中に入る。

 やっぱり今日は朝から来ただけあって並んでる人数も多いし、転移場所も人でごった返していた。

 今日は人の数が多いせいか、俺に注目する人はあまりいないようだ。

 昨日で俺の噂が出回ったのかもしれないな。


 そのまま広場を進んで一層の中を歩いていく。

 一層でやることはないから、そのまま二層に向かうことにする。

 一層から二層までの行き方は、昨日マリナから教わったおかげでスムーズに行けた。

 ティーファも機嫌が直ったようで、サクサクとモンスターを燃やしていく。


「今日は三層くらいまで行けたらいいな!」

「ファッッ!!」


 マリナから聞いた情報では二層では主にゴブリンとスライムが出てくるらしい。

 罠はなく、道も簡単だけど油断してはいけないらしい。

 それは、これまでのモンスターと違い、二層のゴブリンは群れで行動することが多いらしい。

 武器を持たないゴブリンの強さは、人間の子供と同等らしいけど、武器を持つと人間の子供でも大人を殺せる。

 しかもゴブリンの性格は極めて残忍で、知性もあり、戦闘的らしい。


 そしてスライムは壁の天井など見えにくい場所に潜み、人間が通ると頭にくっつき窒息死させるらしい。

 暗い場所はスライムにとって獲物を捕食する格好の隠れ場所だ。

 この二層はスライムの特性を活かすためのなのか、かなり薄暗い。

 まあ、俺にはティーファがいるからなんとかなりそうだ。


 ティーファが念じると燃え盛る火矢が出現し、天井に向けて放たれる。

 火矢は天井に突き刺さると、ボウッッと辺り一面を焼いていく。

 薄暗かった天井は火が消えるまで辺りを照らし続けてくれる。

 ついでに天井に張り付いてるスライムも焼け死んで、ぼとりと落ちてくる。


「よし、慎重に進めば問題なさそうだな」

「ファッッ!!」


 ティーファの魔法の火力は十分過ぎるほどだし、MPも尽きないほどある。

 問題はティーファが詠唱時間の間、無防備になることか……。

 不意打ちをすれば火力に物をいわせて一網打尽に出きるけど、不意打ちを受ければかなり脆い。

 それが今の俺たちクランの現状だと思う。

 魔法使いを上手く使うには、時間を稼ぐ盾役は必須だもんな。

 盾役は流水剣レベル九を持っている俺が上手くこなさないとな。

 俺もティーファに負けてられない!


 二層を順調に進んでいくと、他のクランの話し声も聞こえてくる。

 そういう声や物音を聞けば、出来るだけ会わないように道を変えて三層を目指して歩く。

 二層の半ばを超えたくらいで、聞いたことのある声が遠くから聞こえてきた。


「カリスッ!! 右よ!!」

「ああ! 分かってるって言ってんだろーー!!」

「チッ、こいつらどんだけいやがんだ!!」

「やってもやってもキリがないよ!」


 緊迫した感じのやり取りが耳に届く。

 どうしようか。

 助けに行こうかって……迷うことじゃないよな。


「行くぞ、ティーファ」


 走り出した俺たちが角を曲がると、そこには満員電車を思い出せる程のゴブリンが溢れかえっていた。

 更に奥から聞こえてくる五人の声。

 これだけ居ればいくら雑魚だと言っても、厳しいものがある。

 しかもゴブリンのほとんどが武器を持っているように見える。


「ティーファ、あいつらに当たらないように一網打尽にできそうか?」

「ファッッ!!」


 心配するなと言わんばかりに、ティーファが大きな声を上げる。

 ゴブリンが一瞬こっちを振り向くけど、興味をなくしたように五人の方に進んでいく。

 なんだ? あのゴブリン?

 行動が何か変な気が……。

 そんな疑問をかき消すように、ティーファの魔法『火球』がゴブリンの頭上を襲う。



 ズッーーーーーバッーーーーーーーーン!!



 けたたましい爆発音と熱気が襲ってくる。

 これが火球?

 スーパーノヴァの間違いじゃないのか?

 燃やしすぎだろティーファ……。


 って、何が自信満々に「ファッッ!!」だ!

 これマジで全員死んだんじゃないのか?

 ティーファの顔を見ると自信ありげに頷いている。


 まさか!?


 今日の土けむりの恨みを……そう思わせるほどティーファは満足げだ。


 炎が消えるの待つとその奥から人影が幾つか見えてきた。

 全員満身創痍といった感じだけど、それでも死人は一人もいないようだ。


「今の爆発一体なんだったんだ?」

「分からないわ……」

「何があったかわからないけど、感謝しなくちゃね」

「そうだなって……シンヤ!? お前どうしてこんな所に! あ、もしかして俺たちのクランに入ろうと思って後付けてたんだな」


 全員の視線が俺に集まる。


「実は……ぷっ、あ、ちょっと様子見に」

「おい、何笑ってんだよ」


 いやだってカリスさん、偉そうにしてますけど前髪ほとんどないんですよ?

 ちょっと残ってるけどチリチリだし。

 俺の目がカリスの頭皮に注目しているのが分かったのか、他の四人が前に回る。


「え、ちょ、あんた、プッハッハ。それは駄目だって反則だって」

「お前いくらなんでもその髪型は流行らねーから」

「カリスダサいよ……でもウケる」

「見苦しいぞカリス。少し残すなんて外道にもほどがある。俺のように全て剃れ!」


 全員がカリスの髪をいじるが、当の本人はキョトンとしている。


「おい、おい、さっきからみんなして気味わりーぜ! って、俺の髪が流行らないとかふざけんな! お前の髪の毛の方がよっぽどへんてこりんだろ、このロン毛!」

「カリス、今は止めときなよ。あなたの圧倒的敗北だから……」

「そうだよ! いくらなんでもこの言い争いは不毛すぎて、見てるこっちが悲しくなるし」

「確かに今のカリスと言い争うのは不毛だな。今回は俺の負けでいいよカリス。いや……不毛のカリス」

「ウケる」


 四人の言葉に、カリスはやっと自分の手を頭皮に当てた。


「え? あ? え? 嘘だろーーーーーーーー!?」


 迷宮に響くカリスの声は、五人の笑い声にかき消されていった。

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