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四話・迷宮に初挑戦

 マリナから聞いた情報では、ヴァルハラ迷宮は現在十六層まで攻略されているらしい。

 攻略といっても、その層までたどり着いたという意味だが。


 クラン階級が上がる基準は、ヴァルハラ迷宮内でどの層まで継続的に活動出来るかだ。


 A級・二十層

 B級・十五層

 C級・十層

 D級・七層

 E級・五層

 F級・三層


 これがクラン階級の基準だ。


 マリナが言うには、C級とB級には大きな力の差があるらしい。

 C級の中にもB級に近い力を持っているクランもあるが、多くのC級クランが十層〜十二層で活動しているらしい。


 十五層にまでたどり着いたクランは現在三つだけだ。

 それはB級クランの『竜王の血脈』『地の底を這う影』『世界樹に導かれし英雄』の三つだ。

 ただ、『世界樹に導かれし英雄』の主力メンバーが、迷宮に入ってから二週間近く帰ってきていないらしい。

 もしこのまま帰ってこなかった場合、冒険者ギルド内の勢力図が変わりそうだ、とマリナは言っていた。

 A級クランは五十年前に出たきりで、十九層まで行ったクランすらないとのこと。


 とまあ、ざっくりとだがマリナからヴァルハラ迷宮での序列の話を聞いた。


 それから重要な情報に、『帰還石』と『転移石』というアイテムの存在がある。

『帰還石』は、迷宮内から迷宮入り口に転移出来るアイテム。

『転移石』は、迷宮入り口から転移石に記された層にまで転移出来るアイテム。

 どちらの石も、使用する場所、転移場所は、安全地帯というモンスターが入ってこれない場所でしか使えない。


『帰還石』は冒険者ギルドで売っているらしいが、かなり高価らしく、借金生活な俺には手が出ない。

『転移石』は迷宮内の宝箱に入っていることが多いらしく、ほとんどの場合、発見された階層が記されているらしい。



 マリナから説教混じりの説明を受けた後、ヴァルハラ迷宮の入り口前までやって来た。

 冒険者ギルドから迷宮まで徒歩三十分の距離にあり、俺が泊まっている風来亭からも似たような距離だ。


 ヴァルハラ迷宮の入り口はお昼前の時間ということもあってか、聞かされていたほど混んではいないようだ。

 それでも巨大な石造りの入り口前には、五十人ほどの列ができている。


 最後尾で並んでいる、俺と同い年くらいのグループの後ろで待機をする。

 会話を盗み聞きしていると、どうやら俺と同じで新人冒険者らしい。

 男四人と女二人の六人クランのようだ。


「俺たちも今日こそは二層に行きてぇーよな」

「そうね。一層だと生活が苦しくて、まともな宿にも泊まれないわ」

「アンジェリカ管理員も早く二層に行ってこいて言ってるしな」


 アンジェリカ管理員って、マリナの横の仕切りに座ってた犬耳の人か。

 結構失礼な人だったな、なんて考えていると、入り口に立っているギルド職員の前までやって来た。

 なかなか風格のあるゴツイおじさんだ。


「見ない顔だな……一人か?」

「一人というか、こいつも含めて二人です」


 戸惑っているゴツイおじさんの前に、白色のプレートを二枚差し出す。


「確かに間違いないな……。元、先輩冒険者としての忠告だ。無理をすることなく帰ってくることを最優先に行動しろ。それが冒険者として強くなるための一番の近道だ」


 ゴツイおじさんは神妙な面持ちで話した。


「ありがとうございます。ご忠告、肝に銘じておきます」

「無理するなよ!」


 心配そうな視線を送るゴツイおじさんに背を向けて歩き出す。

 たまにああいう人がいるから、人間不信にならないんだよな。

 正直、ヴァルハラ迷宮都市に来てから嫌な目にばかっり合ってきたからな。


「おい! あれ、黒髪じゃないか?」


 てっ、またかよ!

 これで何度目だよ!


 一直線の通路を進んだ先にはかなり広い空間があり、そこに居る数十人の人間がその声に反応してこちらを振り向いた。


「確かに黒髪だが……ありゃ、伝説の勇者っていう顔付きじゃねーな」

「どっちかていうと、モンスターだろ」

「ビックリさせんなよ! そもそも黒髪の勇者がこんな所に来るわけないだろ!」

「さっさと転移するぞ。全員手を繋いだか?」

「俺たちもさっさと行くぞ!」

「にしても、ひでえツラだなありゃ」


 多くの人間が俺の顔を見ると、勘違いということを理解してそれぞれの行動を始める。

 ただ、中には違う行動をとる奴もいる。


「お前、見ない顔だな」


 話しかけてきたのは俺の前に並んでいた新人冒険者の一人だ。

 顔立ちはこの世界では平凡な男だが、持っている武器がなかなか凄い。

 二メートルを超えるよな棒の先に槍の刃と、斧のような刃が付いている。

 ハルバードっていうやつだろう。


「今日が初めての迷宮ですので」

「今日が初めてか……どうして一人なんだ?」

「俺のクランはこいつと二人だけなので」


 ティーファを前に突き出すと、新人冒険者は腹を抱えて笑いだした。

 後ろに立っている他の新人冒険者たちも大声で笑いだす。


「ファッッ!!」

「ファッッって、お前、こっちがファッッだわ」


 うっとおしい、早くどっかに行ってくれ。


「もう! 新人冒険者をイジメるようなことは止めときましょうよ」

「いじめてねーよ! だってあり得ないだろ、この面子は」

「カリス、折角面白いキャラが出たんだ。温かく見守ってやろうぜ」

「今日、一番笑わせてもらったよ。迷宮は死と隣り合わせだから気を付けてな」

「私からも忠告! 迷宮内ではモンスターだけじゃなくて、他の冒険者にも注意すること。特に宝箱からアイテムを手に入れた時は要注意よ」


 嫌な奴らだと思ったけど、そうでもないのかな?


「分かりました。今日は初めてですし、無理せずに帰る予定です」

「お前らみたいなのが迷宮でやっていけるとは思わねーけど、一層を自力で突破できるなら俺のクランに入れてやってもいいぜ?」

「カリス! あなたのクランじゃなくて、みんなのクランでしょ!」


 内輪揉めをしている間に広間を抜けて、迷宮の奥に進んでいく。

 クランの誘いは嬉しいけど、俺はどこにも入るつもりはないからな。


 広間を抜けると道が枝分かれように続いていて、地図がないと絶対に迷ってしまう。

 地図はマリナさんから貸してもらっているから、書いていることが間違っていない限り大丈夫なはずだ。


 一層ではトラップは存在せず、出てくるモンスターも一角ウサギとかゴブリンとか弱いモンスターしか出ないらしい。

 今日はこの一層で迷宮に慣れることと、スキルの練習をするつもりだ。

 実はティーファには余ったBP20を与えて、自由にスキルを選ばしてあげたのだ。

 ティーファはしばらく悩んだ後、【火魔法】をレベル4まで取っていた。


 早速出てきた一角ウサギを相手に、スキルを使ってもらう。


「ティーファ【火矢】を頼む」

「ファッッ!」


 ティーファが何かを念じると、燃え盛る太く長い矢が宙に浮いていた。


 矢にしてはデカすぎだろ!

 槍の間違いじゃないのか?


 勢いよく矢が放たれると、一角ウサギは瞬く間に焼け焦げてしまった。

【火矢】は【火魔法】レベル1でリキャストタイムは三十秒、消費MPは2と、使い勝手の良いスキルだ。

 それでこの威力なのだから驚きだ。

 ティーファの魔力が高いことが理由だろうけど、オーバーキル過ぎて取れる素材が何一つ残っていない。


 その後も他のスキルを試していくが、全て消し炭に変わってしまった。

【火魔法】レベル三の【降り注ぐ火矢】を使った時は、辺り一面炎に覆われて命の危険を感じたほどだ。

 周りが石造りで良かったものの、これが森とかだったら大惨事だ。

 威力の調整が可能かは分からないけど、これからも練習が必要なことは間違いない。


 迷宮から手ぶらで帰ってきた俺たちに、マリナは「無事で何よりです。最初はどんな冒険者でもこういった経験をして成長していくものなのです。また明日から頑張りましょう!」と、励ましの言葉をかけてくれた。


 マリナには本当のことは言っていないけど、多分ティーファだけでも五層くらいは行けると思う。

 というか早めに上の階層に行って、丸焼きにならないレベルのモンスターを探さないと、ホームレスになってしまう。


 マリナの熱血指導を終えて宿に戻った。

 疲れて寝てしまったティーファをベッドの上に置くと、明日の予定を考える。


 一層は正直言って余裕だった。

『マシュール街の処刑人』と比べたら、出てくるモンスターは虫みたいなものだ。

 ティーファのMPもあれだけスキルを使ったのに三分の一も減っていないし、次の階層を目指しても良いのかもしれない。

 よしっ!

 明日は二層に行くぞ!


 もふもふを抱きしめて眠りについた。

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