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二話・クラン設立

「シンヤさん、扉を開けて下さいっ! 鑑定結果が出ました!」


 冒険者ギルドに行ってから一週間後、マリナが宿泊先の部屋の扉を勢いよく叩いた。

 おお、やっと結果出たのか!

 急いで扉を開けると、茶色の髪を乱したマリナが立っている。


「十万ルクくらいにはなりましたか?」

「十万ルクって、それどころの話じゃありませよ!」


 何故か怒られた。


「えーっと、借りたお金を返せないくらい安かったんですか?」


 俺がマリナに渡したのは中級ポーションで、HPを500回復させるアイテムだ。

 ゲーム上、序盤では中々手に入らないが、中盤以降は普通に売っているアイテムだった。


「何を言っているんですか!? 逆です! 逆! これだけ回復力が高いポーション系の魔導具は、これまで発見されたことがないのですよ!」


 あのポーション、そんなに価値があったの?

 マリナが目を見開いて話す様子から、ただ事ではないということが伝わってくる。


「……逆に価値が高いっていうことですか?」

「そうですよ! どうするんですか!?」


 それって別に悪いことじゃないよな……。

 なんで俺、さっきから怒られているんだ?


「価値が高いのは良いことじゃないですか」

「……シンヤさんにはギルドマスターから招集命令がかかっています。この招集命令は冒険者に登録した者は絶対に従わなければいけないことは知っていますよね?」

「確かにそんなことを言ってました……って、俺に招集ですか!?」

「そうです。現状で良いことか悪いことかは、ギルドマスターに会ってみないことには分かりません。ただ……」


 話を続けるマリナの表情が次第に曇っていく。


「現在のギルドマスターは良い噂がない人です。余り良いことを期待しない方が……」


 もしかしてヤバいフラグが立ってる?


「えーーっと、招集に行かなかったらどうなるんでしたっけ?」

「冒険者資格の永久剥奪。場合によっては捕縛、討伐対象になることもあります」

「…………行きます」


 討伐対象ってなんだよ!

 シャレにならないぞ。


「私も出来る限りシンヤさんの助けになりますので。頑張りましょう!」

「は、はい」


 さっきまでティーファとお昼寝をしていた俺には予想外の展開すぎて、流れに身を任せることしか出来ない。

 こうして、未だにベッドの上で寝ているティーファを置いて、マリナに引っ張られるようにして俺が泊まっている宿、『風来亭』を後にした。




 △▲△▲△▲




 マリナに押されるようにして、ギルド建物の四階の中の一室に入った。

 そこには紫色の髪に少し白い毛が混じった中年の男が一人、椅子に座っている。

 への字に曲がった唇と吊り上がった目尻が、気難しそうな人だなという第一印象を与える。


 ーーこの人がギルドマスターか。


「ほう、君が三等級魔導具を何処からか盗んできたシンヤというやつか」

「盗んでませんって!」


 どうしてみんな盗んだとか言うんだよ!


「盗んでいないと言うのならば、何処から手に入れたのか説明できるのか?」


 説明って言われても……それを説明するには俺の能力から説明する必要がある。

 開口一番に、人のことを悪人みたいに言う奴相手に俺の能力を教えるなんてことできない。

 というか、能力については誰にも言うつもりはない。


 俺の沈黙を回答と受け取ったのか、ギルドマスターは話を続ける。


「私としては将来有望な新人冒険者が、盗みという罪で死罪になるのは胸が痛いのだ」


 盗みで死罪だって?

 いや、まあ、ついこの前まで死ぬつもりだったけど、まだやることが出来たんだ。


「ちょっと待ってください!」

「君こそ少し待ちたまえ。そこで提案があるんだがーー君は魔導具を盗んだ訳ではなく……」

「そうです! 盗んでません!」


 ギルドマスターは胸の上で組んでいた腕を解くと、手の平を前に突き出す。


「少しは黙っていられないのかね。君は魔導具を盗んだ訳ではなく、あるクランから預かって代理で冒険者ギルドに提出した。ということならば、私の力を使って君を助けることも可能だ」


 なんだそれ?

 それって簡単に言ったら、中級ポーションを大人しく寄越せってことじゃないか!


「君が差し伸べられた慈悲の手を握らなかった場合は……非常に残念だが、この場で拘束さてもらわないといけない」


 最初からそのつもりかよ、このやろーー!

 ………………って、確かに悔しいし、腹も立つけど、これって中級ポーションの話だよな。

 よく考えたら、死刑を振りかざされた状態でムキになることでもない気がする。

 そこまでレアなアイテムでもないし、そもそもなんでこんな騒ぎになっているのか意味が分からない。

 まあ、俺の目的はヴァルハラ迷宮に入ることだしここは穏便にいこう。


「その提案に乗らせて頂きます」

「うむ、懸命だ」

「ただしーー条件があります」


 ギルドマスターのへの字に曲がった口元がさらに大きく曲がる。


「この状況で条件とは……まあいい」

「俺が立ち上げようとしているクランの保証金、十万ルクを免除して下さい」

「ぷっ、はっ、はっ、はっ。何かと思えばそんなことか。ああ構わんよ。君のクラン立ち上げを、今日この場で認めよう」

「ほっ、本当ですか! やったー!!」


 これでやっと迷宮に潜れるぞ!


「その顔といい、君には人を笑わせる才能があるようだ」


 ギルドマスターは馬鹿にするような笑みを浮かべながら言った。

 顔のことはほっといてくれ。


「それで、俺はどのクランから預かっていたことになるんですか?」

「君は『タイルスの天剣』というクランから魔導具を預かっていたのだろ? これからは忘れないように気を付けたまえ。もし君の口からデタラメなことが出た場合は……どうなるか分かるだろう?」

「……分かりました」

「用が済んだら出て行ってもらおうか。私は君と違って忙しいのだ」


 一々言い方が嫌味ったらしいやつだ。

 今回の件といい、どうにも好きになれそうにないな。


 ギルドマスターの部屋を出て、冒険者ギルドの建物の出口にさしかかると、マリナが扉の前で待っているのが見えた。

 今回の件は、俺を呼びに来たマリナの様子や口ぶりからして関係していないと思う。

 多分……。


「シンヤさん、どうでしたか?」

「ギルドマスターに、クランの設立を認めてもらいました」


 マリナは少し驚いたような表情を浮かべた。


「どうしてクランの話になるんですか!? 魔導具のことですよ!」


 キナ臭いギルドマスターだったし、マリナにも嘘を言った方がいいよな。

 下手なこと言って、処刑だ! 連座でマリナまで、ってなりそうだ。


「実はあの魔導具、預かっていたものなんです」

「…………どういうことですか?」

「『タイルスの天剣』というクランから預かっていた魔導具を、事情を隠してマリナさんに渡したわけです」

「……なるほど、そういうことですか」

「隠していたのは悪かったです。ごめんなさい」

「……やり方がセコイですね」


 そこまで言わなくてもいいじゃないか。

 俺だって事情があるんだ。


「シンヤさん。これからどうするつもりですか?」

「勿論、迷宮に潜ります」

「いくらギルドマスターの許可があっても迷宮にはまだ潜れませんよ。クラン名やクラン構成員、拠点となる家か宿を書いてもらわないと」

「えーー、そうなの?」

「そうなのです! 迷宮に入るには必ずプレートが必要になるのですが、それを担当のクラン管理員から受け取らなければいけません」


 やばっ、そういえば俺ってまだ担当のクラン管理員がいなかった。

 マリナがなってくれるとばっかり思ってたけど、OKの返事をもらえてなかったんだ。


「私をシンヤさんのクラン管理員にさせてもらえませんか? お願いします」


 突然、俺に向けてマリナが頭を深々と下げた。

 予想外の行動だけど、こちらとしては願ったり叶ったりだ。


「よろしくお願いします」


 俺の顔を見ても嫌な顔をしないし、お金も貸してくれて、安い宿も紹介してくれた。

ちょっとキツイこと言ってくるけど良い人だよなー。

 マリナが担当になってくれて良かった。


「この迷宮都市では、力がない者が何を言っても負け犬の遠吠えになってしまいます。今は悔しいかもしれませんが、これから二人で力をつけて見返してやりましょう!」


 マリナは俺の両手を手に取ると、ブンブンと大きく上下に振っていく。

 俺以上に気合が入っているみたいだ。

 どうしてこうなった?


 その後マリナの熱血指導の下、クラン設立の書類を書き上げた。


「お疲れ様ですシンヤさん」

「そういえばマリナさん。俺のことはシンヤで良いですよ。マリナさんの方が一つ年上ですし」

「そうでしたね。正直、初めて会った時はシンヤさん……いえ、シンヤが私より年下だとは思ってもみませんでした」

「しょうがないです、老け顔ですから」


 そういえば学校から帰る途中、警察から職務質問をされたことがあって、その時の無線のやり取りで『学生服を着た年齢不詳の男……現在職質中です、どうぞ』って言われたこともあったな。

 今となっては懐かしい思い出だ。


 マリナは「少し待ってて下さい」と、書き上げた書類を持ってどこかに出て行くと、十分ほど経った後に戻ってきた。

 その手には白いプレートが二枚握られている。


「それでは、まず初めにシンヤさん。クランの設立、おめでとうございます」


 マリナから白いプレートを二枚手渡された。


「ありがとうございます」

「それと、私のことはこれからマリナと呼んで下さい。これから一緒に迷宮を攻略していくパートナーですから」

「分かりました。迷宮のことで分からないことはマリナに聞くから宜しくです」

「勿論なんでも聞いて下さい。迷宮のこと以外でも可能な限り相談に乗りますから」


 マリナとの話もそこそこに冒険者ギルドを出た。

 すでに日が落ちかけていて、長い時間を冒険者ギルドで過ごしていたようだ。

 手にした二枚のプレートを見ると、どうにもにやけてしまう。


 やっと明日から迷宮に潜れる。

 マリナにお金を返さないといけないし、生活費もこれから自分で稼がないといけない。

 これからやることがいっぱいだ。

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