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二十四話・創造魔法

 いつもそうだった。


 父さんと母さんが喧嘩をする原因は決まって俺のことだった。

 俺の顔は父さんとも母さんとも似ていない。

 そのせいで周囲からは『不倫の子供』『整形夫婦』という陰口を叩かれた。

 そんな俺でも小学校に上がるまでは幸せだった記憶がある。


 いつの頃だったか仲の良かった両親が頻繁に喧嘩をするようになり、俺が中学に上がる前に母さんは出て行った。

 母さんが出て行った時の最後の言葉は『産まなければよかった』だった。

 母さんが出て行った後、父さんは『お前さえ居なければ』と言って殴りつけるようになった。

 この世界に来るまでは、どうして俺だけがこんな辛い目に合わないといけないんだ?

 どうして俺だけが不幸なんだ?

 そう思っていた。


 でも、それは違った。


 目の前に広がる人と怪物の死体の山は、全て俺が作り出した光景だ。

 不幸は俺に与えられたものではなくて、俺が周りに与えているものだった。

 母さんも父さんも俺が存在したから不幸になった。

 ライチ村のみんなも俺がこの世界に来たから全員死んだ。


 ーー産まなければよかった。

 ーーお前さえ居なければ。


「そっか、父さんも母さんも間違ってなかったんだ。ハハ、どうしてあの時気付かなかったんだ? 本当に俺って馬鹿だよな」


 そうだ、俺は産まれてきてはいけなかったんだ。


「死ぬ前に誰かを生き返らせないと。生き返らせることができるのは二人か……」


 村長、ルーク、エレナ、ルイス、ミルこの五人は俺がこの世界で一番大切な人たちだ。

 この惨状を見て、自分だけが生き返ったことを喜ぶ人間はいるのだろうか?

 この行為自体も不幸を作り出しているのかもしれない……な。

 ……もういいか。


「ファッッ!!」


 気絶していたはずのティーファが、突然声を上げて羽をばたつかせる。

 そっか、ティーファが居たんだな。


「ティーファ、これからは自分の好きなように生きろ。お前なら一人で生きていける」

「ファッッ!?」


 死ぬなら元の姿で死ぬ方が良いか……残り時間はあと十分ってところか。

 胸に抱いていたティーファをそっと地面に下ろす。


「ほら、さっさと行け」


 首をかしげて突っ立ているティーファの背中を押してあげるが、一歩も動こうとしないーーどころか振り向いて俺の指先にかぶりついてきた。


「最後にご飯をくれってか? たくましいやつだな。最後のご飯だ、好きなだけ食え」


 ティーファの指先への食らいつき様はいつもと違い、上下左右に嘴を振り回して暴れているみたいだ。


 ん? 魔力が減っていかないぞ?


 どうやらティーファは魔力を吸い取らずに、ただ指先に食らいついているだけみたいだ。

 しばらくの間指先を振り回したティーファは、目を細めて奇妙な動きをしていく。

 見覚えのある動きだ。


「ステータス画面を出せってか?」

「ファッッ!!」


 そいえば怪物たちを殺している時、ファンファーレが鳴っていた気がするな。

 どうだったか……まあ、今更どっちでも良いか。


「ほら、出したぞ」


 ティーファは座り込んだ俺の膝上に勢いよく飛び乗ると、一人勝手に嘴でステータス画面を操作していく。

 画面をなんとなく見ていると、〈ティーファ〉〈スキル〉の順に選んでいく。




 ______________________________________________________


【火魔法】

【水魔法】

【土魔法】

【風魔法】

【光魔法】

【回復魔法】

【空間魔法】

【付与魔法】

【創造魔法】

 _______________________________________________________





 ティーファもスキルが欲しかったのか……?


「BP全部使っても良いから好きなだけ取れ」


 ティーファから返事はなく、俺の声が聞こえないほど真剣に選んでいるみたいだ。

 ティーファが【創造魔法】の項目を押すと、更に新しい画面が出てくる。


 あれ?


 創造魔法なんてあったか?


 ______________________________________________________




 BP50を消費して【創造魔法】をレベル1にしますか?


 《YES》 《NO》



 _______________________________________________________



 ティーファの嘴は《YES》を叩く。



 ______________________________________________________




 BP100を消費して【創造魔法】をレベル2にしますか?


 《YES》 《NO》



 _______________________________________________________



 更にティーファの嘴は勢いよく《YES》の画面を叩いた。



 ______________________________________________________



【創造魔法】

 レベル1 【純血の絆】

 レベル2 【黄金の聖域】



 _______________________________________________________


 なんだ? このスキルは?

 見たことがない。


 ティーファは一度頷くと、レベル2の【黄金の聖域】の項目を叩いた。



 …………!?


 えっ、嘘だ……ろ。


 思わず膝に座っていたティーファを持ち上げて、こちらに正面を向ける。


「ーーこれって、本当なのか? 本当にこの効果なのか? ティーファ!?」

「ファッッ!! ファッッ!!」


 ティーファは自慢げに何度も声を上げる。



 ______________________________________________________

【黄金の聖域】1/1

 ・対象の魔法系スキルの効果を一度だけ範囲化する。

 ・効果範囲は対象のMP消費量によって変化する。

 ・黄金の聖域の対象は所有者のみ。

 ・リキャストタイムは20日間。

 ・消費MP1000。

 ・スキルレベルが上がるごとに使用可能回数が増える。

 _______________________________________________________



 もう一度信じても良いのか?

 もう一度立ち上がっても良いのか?


 分からない。



 俺が存在すればまた誰かを不幸にしてしまう。



 目を閉じればライチ村で過ごした光景が流れていく。


 嘘から始まったルークとエレナとの出会い。

 馬鹿な俺を本気で叱ってくれたルイス。

 暖かい料理を作ってくれたミル。

 常に俺の味方をしてくれた村長。

 病気が治ったことを喜ぶ無邪気な笑顔。

 四人で将来のことを考えたこと。


 俺が欲しかったものは確かにここにはあった。

 その想いだけはこれから先も変わらない。


 ライチ村の未来を思い描けば、これまでと変わらず多くの村人がいつものように仕事をこなしていく。

 耳を澄ませば聞き慣れた小さな子供の声が響いてくる。

 ミルに見送られて家を出るルイス。

 その後ろから慌てて家を飛び出るルークとエレナ。

 遠くから微笑むようにその姿を見つめる村長。

 きっとライチ村は変わらないはずだ。



 ーー決めた。

 俺がすべきことを。



「駄目な親だけど、それでも力を貸してくれるか?」

「ファッッ!!」

「そうか……スキルを、黄金の聖域を頼む」

「ファッッ!!」


 ティーファがつぶらな瞳を閉じて何かを念じた瞬間、俺の足元から金色に光る円形の魔法陣が浮かび上がった。


 全ての魔力をーー出し切る。


「黄金律の宴」


 金色に光る円形の魔法陣は、俺が注ぐ魔力に呼応するように面積を広げていく。

 黄金の聖域の中に入った全ての存在が手に取るように分かっていく。

 ルーク、エレナ、ミル、三人ともパムの畑にいる。


 ーー足りない。

 まだ全員じゃない。


 広がる魔法陣はパムの畑を超えてライチ村の建物を覆い尽くし、ホルホルの森まで到達する。

 ライチ村から直ぐのホルホルの森で、激しい戦闘痕を死体に刻んだルイスがいた。


 ーーもっとだ。

 俺はここで死んでいい。

 だから……全員を助ける力を俺に貸してくれ。


 朦朧としていく意識の中、村長の姿だけ感じ取ることが出来ない。


「うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお」



 ーーもっと!



 ーーもっと!



 ーーもっとだ!!



 助ける……絶対に助ける。



「あ………………」



 …………村長?



 俺の視界は暗闇の中に沈んでいった。

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